倍速野球
| 読み | ばいそくやきゅう |
|---|---|
| 発生国 | 日本 |
| 発生年 | 1978年 |
| 創始者 | 田島速夫 |
| 競技形式 | 九回二十七分制の対抗競技 |
| 主要技術 | 倍速牽制、短間合い走塁、圧縮投法 |
| オリンピック | 非正式競技 |
倍速野球(ばいそくやきゅう、英: Double-Speed Baseball)は、で生まれたのスポーツ競技である[1]。通常のを2倍の速度感に圧縮して行う競技として知られている[1]。
概要[編集]
倍速野球は、投球・走塁・守備の各動作を厳密にで進行させることを前提に設計された対抗競技である。一般にはの港湾労働者の余暇文化から派生したとされ、に最初の規則集が作成されたと伝えられている。
競技の最大の特徴は、選手が動作を速めるだけでなく、審判の判定、スコアボードの表示、ベンチからのサイン交換までが圧縮された時間感覚に合わせて再設計されている点にある。観客の側も、通常の野球より約40分短い試合を前提に入場する慣行があり、地元では「昼休みでも見切れる球技」として親しまれてきた。
もっとも、初期の記録には53年の工場対抗リーグで偶然生まれたという説と、のスポーツ研究会が机上で整備したという説が併存しており、起源は必ずしも一つに定まっていない[2]。この曖昧さ自体が倍速野球の文化に取り込まれ、現在でも公式文書には「起源は諸説ある」とだけ記されることが多い。
歴史[編集]
起源[編集]
倍速野球の起源は、周辺の昼休み試合を短縮する必要から生まれたとされる。工場の稼働音に合わせるため、投球間隔を従来の半分に詰めたところ、守備側がかえって整然と動けるようになり、結果として一種の高速戦術が成立したという。
創始者として名が挙がるは、当時の夜間講座でを学んでいたとされる人物で、彼が配布した「二分割打席メモ」には、打者が初球から三球目までに意思決定を終えるべきだと書かれていた[3]。ただし、その原本はの私設資料館に保管されているとされるものの、閲覧記録が途絶えたままである。
最初期の試合では、から来た来賓が通常速度の試合と勘違いし、開始直後に弁当を食べ終えてしまった逸話が残る。この一件が「倍速でなければ観戦に耐えない」という評価を固定化させたといわれる。
国際的普及[編集]
後半になると、の港湾都市やの大学クラブに競技が伝わり、の研究者らが「短間合い球技」として紹介したことから海外でも注目された。とりわけでは、狭い競技場面積に適合しやすいとして、屋上競技施設での採用が進んだとされる。
にはがで設立され、共通ルールの整備が進められた。ここで試合時間を27分と定めたのは、会議室の予約時間が偶然27分単位でしか確保できなかったためである、という話が有名である[4]。この経緯は後年の研究者から「制度が競技を形作った稀有な例」と評価された。
一方で、への普及は遅れた。これは、倍速野球のスコア変動が速すぎてビールの補充が追いつかないことが理由とされる。なお、を目指す運動はに一度高まったが、側は「既存の球技との差異が分かりにくい」として保留したままである。
ルール[編集]
試合場[編集]
試合場は、通常の野球場を基にしつつ、外野フェンスから内側に「加速帯」と呼ばれる白線が引かれる。打球がこの帯に落ちた場合、二塁打として扱われることが多いが、地方協会によっては自動三進塁が認められる。
マウンドはやや低く、傾斜が未満でなければならない。これは、速い動作の中でも投手の踏み込みが過剰にならないようにするためである。観客席との距離も近く、最前列はファウルボール対策のために常設の折りたたみ式ヘルメットが貸与される。
試合時間[編集]
標準試合はで行われる。各回は3分で区切られ、攻撃側が規定時間内に三アウトを取れない場合、次の打者は自動的に「急進塁」とみなされることがある。
また、以降は、同点時の延長戦を「圧縮延長」と呼び、1イニングを90秒単位で行う方式が採用された。観客の集中力維持を優先した制度であると説明されるが、実際には審判団の休憩時間を確保するために導入されたともいわれる。
勝敗[編集]
勝敗は、通常の得点差によって決まるが、倍速野球では「最後の27秒での得点」に特別な重みが与えられる。これを「終盤加算」と呼び、最後の一打席での逆転は通常の2点に加え、観客席からの拍手強度が審査対象となる。
なお、雨天中止の判定は厳密で、以上の小雨なら試合続行とされることが多い。これは、競技時間が短いために待機している間に雨が止んでしまうためであり、結果として試合中のグラウンド整備能力が重要な戦術の一部になった。
技術体系[編集]
倍速野球の技術体系は、・・野手・走者の四系統に大別されるが、実際には「間を詰める技術」が全ての基盤である。とくに投手は、通常のよりさらに短い「超短間投法」を用い、投球のたびに肩より先に視線でサインを送るとされる。
打者には「初動先読み」が必須であり、相手投手の体重移動を見てからでは遅い。上級者は打席に入る前、相手捕手の靴紐の結び方から配球を推定するといわれる。北九州市のによる2016年の調査では、上位選手の87.4%が試合前に二度以上、無関係な防具の音を聞いてリズムを整えていたという[5]。
守備面では、二塁付近の処理を高速化する「折返し送球」が特徴的である。これは送球を一度だけで済ませず、内野手同士があえて短い返球を挟み、走者の進路を視覚的に圧縮する技法である。もっとも、熟練者でないとただの遠回りに見えるため、初学者にはしばしば「無駄な動き」と誤解される。
用具[編集]
ボールは通常球よりやや軽く、表面の縫い目が高めに作られている。これは高速回転時の空気抵抗を安定させるためとされるが、別の説明として「観客席で拾いやすいから」という実用説もある。
バットは短めで、先端に製の微細な補強リングが入る。公式規格では全長以下、重さ以下とされ、これを超えると「重鈍バット」と呼ばれて失格になる。手袋には指先の反応を伝えるための薄い導電繊維が縫い込まれることがあり、地元では「電気手袋」と俗称される。
防具は独特で、捕手用マスクの内側に小型のストップウォッチが装着される。これは投球間隔が一定を超えると自動でブザーが鳴る仕組みで、内の一部球場では審判より先にブザーが試合を管理する場面すら見られる。
主な大会[編集]
倍速野球の主要大会としては、、、の三つが挙げられる。とりわけ全日本倍速選手権は、毎年前後の3日間にで開催され、決勝戦だけが夜間照明下で行われる。
では、代表の「桜島エクスプレス」が、1試合で6盗塁を成功させた直後に全員の靴底が剥がれるという珍事が起きた。この試合は競技史における「走塁優勢時代」の象徴とされる。
また、では、開会式の持ち時間まで倍速化され、入場行進が8分で終了したため、国歌斉唱が2番まで省略されたことがある。主催側は「テンポの美学」と説明したが、翌年からは安全上の理由で多少通常化された。
競技団体[編集]
国内統括組織はで、に事務局を置く。加盟クラブ数は時点で全国とされ、うち半数以上が企業OB会と地域少年団の混成である。
国際組織としてはがあり、で開催された設立総会には12か国が参加したとされる。議長のは、議事録の末尾に「試合は速ければ速いほどよいが、スポンサー説明は遅いほどよい」と記したことで知られる[6]。
なお、との関係は微妙で、競技名に「野球」を含むことから協力関係にある一方、動作速度の定義をめぐって複数回の解釈差が生じた。これにより、2011年以降は国際大会の登録名に「double-speed format」の併記が求められている。
脚注[編集]
[1] 北九州スポーツ文化研究会『港湾都市における圧縮球技の形成』北九州市学術叢書, 2001年.
[2] 田島速夫「倍速野球成立覚書」『九州運動史研究』第8巻第2号, 1986年, pp. 14-29.
[3] 北井真理子『二分割打席の理論と実践』中央体育評論社, 1994年.
[4] Asia Compression Sports Council『Proceedings of the Hong Kong Interim Rules Conference』Vol. 3, 1993, pp. 77-81.
[5] 倍速野球研究所編『競技者の時間認知と加速反応』北九州大学出版会, 2016年.
[6] Margaret H. Ellison, "Administrative Velocity in Ball Games" 『Journal of Comparative Sport Bureaucracy』Vol. 12, No. 4, 2009, pp. 201-219.
[7] 山下啓一『オリンピック正式競技化の周縁』東京体育学術出版, 2010年.
[8] 小野寺紗季「屋上球場と都市型倍速スポーツ」『都市余暇研究』第15号, 2018年, pp. 55-73.
[9] 北九州市立中央図書館編『田島資料目録 速夫文庫』, 1999年.
[10] Richard P. Malden, "Why Twenty-Seven Minutes?" 『International Review of Compressed Athletics』Vol. 5, 2011, pp. 9-18.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 北九州スポーツ文化研究会『港湾都市における圧縮球技の形成』北九州市学術叢書, 2001年.
- ^ 田島速夫「倍速野球成立覚書」『九州運動史研究』第8巻第2号, 1986年, pp. 14-29.
- ^ 北井真理子『二分割打席の理論と実践』中央体育評論社, 1994年.
- ^ Asia Compression Sports Council『Proceedings of the Hong Kong Interim Rules Conference』Vol. 3, 1993, pp. 77-81.
- ^ 倍速野球研究所編『競技者の時間認知と加速反応』北九州大学出版会, 2016年.
- ^ Margaret H. Ellison, "Administrative Velocity in Ball Games" 『Journal of Comparative Sport Bureaucracy』Vol. 12, No. 4, 2009, pp. 201-219.
- ^ 山下啓一『オリンピック正式競技化の周縁』東京体育学術出版, 2010年.
- ^ 小野寺紗季「屋上球場と都市型倍速スポーツ」『都市余暇研究』第15号, 2018年, pp. 55-73.
- ^ 北九州市立中央図書館編『田島資料目録 速夫文庫』, 1999年.
- ^ Richard P. Malden, "Why Twenty-Seven Minutes?" 『International Review of Compressed Athletics』Vol. 5, 2011, pp. 9-18.
外部リンク
- 日本倍速野球協会
- World Double-Speed Baseball Federation
- 北九州倍速スポーツアーカイブ
- アジア圧縮球技大会公式記録室
- 倍速野球研究所