尻タワー
| 作品名 | 尻タワー |
|---|---|
| 原題 | Shiri Tower |
| 画像 | Shiri_Tower_poster.png |
| 画像サイズ | 250px |
| 監督 | 渡辺尻太郎 |
| 脚本 | 渡辺尻太郎・入交マリ |
| 制作会社 | ニューリール・ピクチャーズ |
| 配給 | 霧影シネマ流通 |
| 公開 | 1997年9月13日 |
| 興行収入 | 42億3000万円 |
『尻タワー』(しりたわー)は、1997年9月13日に公開されたニューリール・ピクチャーズ制作の日本のアニメーション映画である。原作・脚本・監督は渡辺尻太郎。興行収入は42億3000万円で、第18回虹彩映画祭金獅子賞を受賞した[1]。
概要[編集]
『尻タワー』は、背中ではなく「尻」で高さを競うという一風変わった設定を核に、郊外の再開発と共同体の同調圧力を、寓話的な時代劇調の文法で描いた作品である。
作中に登場する尻タワーは、城でも神社でもなく、自治体の発注により「景観の統一」を名目として建てられた巨大施設として描写される。監督の渡辺尻太郎は、初期企画段階で「タワーは紳士の形ではなく、生活者の形でなければならない」と記し[2]、結果として“お尻の象徴性”が社会的な論点として話題化したとされる。
本作は技術面でも評価され、動画のコマ数を敢えて揃えず「熱の残像」を残す方式が採用されたという[3]。さらに公開当時、同名の都市伝説風ポスターが町内会の回覧板に紛れ込み、抗議と問い合わせが同日に殺到したことが知られている[4]。
あらすじ[編集]
1990年代の架空都市鳴門下町では、老朽化した市場をめぐり、自治会と建設業者のあいだで対立が続いていた。住民は再開発反対を唱えるが、交渉の場で「尻タワー建設」が提示され、合意形成の条件として“高さ競争の儀礼”が組み込まれる。
主人公の見習い職人紺野トシヒコは、建設担当の兼平市役所職員久慈勲から、尻タワーの設計図を受け取る。しかし図面は、塔そのものよりも「人が笑う角度」を計測する欄が異様に多く、トシヒコは戸惑う。
やがて市内では、同調しない者ほど“低い塔”として扱われ、噂は商店街の売上表に反映される。トシヒコは本来の目的—景観統一—がいつの間にか“人の序列化”にすり替わっていることを知り、尻タワーの頂部に隠された計測装置を止めようとする。
終盤、塔の心臓部では、音楽セクションの三ノ輪スズメが設計したという“尻拍子”のリズム信号が鳴り響く。トシヒコはリズムを外し、塔は倒壊せずに「高さの意味」を反転させる形で停止する。こうして街は再開発を続けるが、儀礼は解体され、代わりに住民が自分の言葉で高さを語る集会へと移行するのである。
登場人物[編集]
主要人物
- 紺野トシヒコ:市場の修繕を手伝う若年職人である。尻タワーの図面を見て“笑い角度”の欄に最初に疑義を抱き、最後まで計測装置の正体にこだわる。 - 久慈勲:兼平市役所の都市景観課に所属する職員である。丁寧な言葉遣いで圧をかけるタイプとして描かれ、作中では謝罪文の数が多いほど偉いらしいという風習が示される。 - 三ノ輪スズメ:塔の内部音響設計を担当した“音の職人”として登場する。作品の随所で、音楽が行政の言葉を上書きするという主張をして回る。
その他
- 小夜見ミチ:商店街の帳簿係。住民票の写しよりも“拍手の回数”を集計していたとされる[5]。 - 鳴門下町長・篠田弥一:合意形成を最優先する人物であるが、終盤で「高さの定義は一度も住民に問うていない」と発言する。
キャスト[編集]
声の出演(※劇中の“声色”設定も含む)
紺野トシヒコ役は小笠原ユウが担当した。同作でユウは“真面目な息”という演技指示を受け、セリフの末尾に微細な吸気を残すことで「尻タワーに怯える心」を表現したとされる。
久慈勲役は矢場コウが担当した。矢場は公務員役の定番口調に加え、「謝罪の語尾を一音だけ硬くする」癖を提案したことで、現場のメモに残ったという[6]。
三ノ輪スズメ役は白鷺シオンが務めた。シオンは歌唱パートでは台本の譜割りよりも“拍手のタイミング”に合わせて息継ぎを行ったとされる。
スタッフ[編集]
映像制作
映像の演出は、監督の渡辺尻太郎が「尻の丸みを角度で描け」と指示したことから、下書き段階で円弧定規を導入したとされる。編集は鈴木ラナが担当し、行政資料の“無機質な点滅”を模したカット繋ぎが評価された[7]。
製作委員会・制作体制
本作は製作委員会形式で進行し、霧影シネマ流通、鳴門下町都市開発公社、虹彩映画祭基金など複数の団体が関与した。企画段階では、地方自治体とのタイアップ契約を巡って“広告が寓話を食べる”という懸念が出たが[8]、結果として広告表現はあえて劇中の敵役として配置された。
美術・音楽
美術は遠藤平造美術研究所が担当し、尻タワー周辺の壁面は「濡れた広告」風の艶を持つ塗料で試作されたという。音楽は三ノ輪スズメ名義のオリジナル曲で構成され、主題歌は『約束は高さで』。
製作[編集]
企画
企画の発端は、監督渡辺尻太郎が1995年に視察したとされる架空の“景観コンペ”である。記録では、審査員が「高さより態度を見る」と発言した場面が契機になったとされるが[9]、本人は後に「態度が見えたのは尻だった」と意味深に語っている。
CG・彩色・撮影
本作では3種類の彩色工程が併用された。第1工程は通常のセル塗り、第2は“転写ムラ”をわざと残す方式、第3が金属粉を含む特殊下地であった。塔内部のシーンでは、彩色の粒度が0.12mm間隔で揃えられたという[10]。なおこの数値は、資料室に保管されたテストチャートの裏面に手書きで残っていたとされる。
主題歌・着想の源
主題歌『約束は高さで』は、当初は別題『尻の測度』で計画されていた。歌詞の「約束」は法律用語から引かれたとされ、監督は“法の硬さをメロディに溶かす”ことを狙ったと述べた[11]。一方で、歌詞の一節「笑えば伸びる」は、音響テストの現場で偶然鳴った反響音に由来するとされる。
興行[編集]
宣伝
宣伝では、尻タワーの模型を模した“尻形のうちわ”が配布された。配布数は全国で611,204枚とされ、劇場の回転数を上げるために“裏面にだけ注意書きがある”仕様が導入された[12]。その注意書きが過剰に真面目だったことから、問い合わせ窓口に「これは罰ですか」という文面が届いたという。
封切り・再上映
封切りは1997年9月13日で、初週の動員は72万人、興行収入は初週で8億7400万円に達したとされる[13]。その後、翌年の“虹彩映画祭”で再上映が行われ、劇場来場者が入口で一斉に拍手し、拍手の回数で席の色が変わる演出が話題になった。
テレビ放送・ホームメディア・海外公開
テレビ放送では、塔内部の描写が「児童に不適切な可能性がある」と判断され、尻タワー頂部のシーンだけ色調を-8補正した“DVD色調問題”が起きたとされる[14]。また海外では英語題Shiri Towerで公開され、都市伝説が現地の建築番組で取り上げられたという。
反響[編集]
批評
批評では、本作が社会風刺として読み取れる一方で、下品さと寓話性のバランスが難しいと指摘された。雑誌『映像批評ジャーナル』では「行政の論理が笑いに変換される瞬間を、アニメが先に理解してしまった」と論じられた[15]。
受賞・ノミネート
第18回虹彩映画祭では金獅子賞を受賞し、さらに脚本賞、音響賞の複数部門でノミネートされた。なお同祭の公式記録では、審査員の一人が講評で「尻の高さが政治の高さだった」と発言したと記されている[16]。
売上記録
興行面では、配給収入は31億9000万円、レンタル開始からの売上が合算で14億を超えたとされる[17]。ただし市場調査の資料では、売上の集計に“拍手効果”という項目が紛れ込んだという証言もあり[18]、真偽は定かでない。
テレビ放送[編集]
地上波では1999年の夕方枠にて放送された。視聴率は関東で12.4%、関西で11.7%を記録したとされる[19]。
放送版では、一部のセリフが放送倫理審査により差し替えられた。とくに久慈勲の「高さは人格である」という台詞が、「高さは努力である」に置換されたと報じられた[20]。視聴者の一部には「原作改変では」という声が上がったが、その後の特番で監督渡辺尻太郎が釈明し、置換は“行政の言葉の丸め”を描くために意図されたものだと語ったとされる。
関連商品[編集]
作品本編に関するもの
- 『尻タワー 公式絵コンテ集』(1998年、ニューリール出版):尻タワー頂部の円弧設計が掲載されているとされる。 - 『約束は高さで』主題歌シングル(1997年、三ノ輪音楽工房):カップリングに“尻拍子練習曲”が収録されている。 - 『尻タワー 行政資料風パンフレット』(非売品・劇場配布):鳴門下町都市開発公社が監修した体裁をとり、読後感が評判になった。
派生作品
- 劇場予告編から独立した短編アニメ『尻タワーの測度』(2000年):主人公が図面ではなく定規を失うというギャグ路線で展開された。 - 公式ラジオ『久慈勲の謝罪講座』(2001年):謝罪の語尾だけで感情を表す“方言講座”としてリスナーを増やしたとされる。
脚注[編集]
脚注
- ^ 渡辺尻太郎「『尻タワー』制作メモ:笑い角度の設計思想」『ニューリール・リサーチ』第5巻第2号, pp.12-39, 1998.
- ^ 入交マリ「都市寓話としての高さ:尻タワー試論」『日本アニメ史研究』Vol.11 No.1, pp.77-104, 1999.
- ^ 鈴木ラナ「カット編集における“無機質な点滅”の再現」『映像技術年報』第18巻第4号, pp.201-228, 2000.
- ^ 兼平市役所都市景観課「鳴門下町再開発協議録(ダイジェスト)」『公文書研究ジャーナル』第3号, pp.33-58, 1997.
- ^ 遠藤平造「反射材を用いた壁面彩色の試作報告」『美術素材技報』Vol.7 No.3, pp.10-26, 1997.
- ^ 『虹彩映画祭公式年報1997』虹彩映画祭基金, pp.1-220, 1998.
- ^ 小笠原ユウ「息の演技:真面目な息と音響の距離」『声の演技論叢』第9巻第1号, pp.55-79, 2002.
- ^ 矢場コウ「謝罪語尾の硬さ:公務員役の構築法」『演技指導通信』第22号, pp.14-31, 2001.
- ^ 白鷺シオン「拍手タイミングと歌唱:尻拍子の実験」『International Journal of Voice Acting』Vol.4 No.2, pp.88-101, 2003.
- ^ H. Kuroda, “Urban Satire and Civic Measurement in Animated Film,” *Journal of Civic Cinema* Vol.2 Issue 1, pp.1-19, 1998.
- ^ K. Thornton, “A Note on Color Correction Practices in Late 1990s Broadcast,” *Broadcast Color Review* pp.44-50, 1996.
外部リンク
- 尻タワー制作資料アーカイブ
- 虹彩映画祭過去受賞作品データベース
- 霧影シネマ流通 作品紹介ページ
- 鳴門下町再開発ふるさと回想サイト
- 三ノ輪音楽工房 公式ディスコグラフィ