尾骨殺しの五右左右衛門
| 名称 | 尾骨殺しの五右左右衛門 |
|---|---|
| 正式名称 | 警察庁「尾骨部位損傷を伴う殺人事案連続型」(通称:儀礼型背骨狙い) |
| 日付(発生日時) | 2011年11月13日 23時14分〜23時44分 |
| 時間/時間帯 | 夜間(繁華街閉店後) |
| 場所(発生場所) | 京都府京都市上京区 |
| 緯度度/経度度 | 35.0118, 135.7532 |
| 概要 | 尾骨周辺への強い加圧・刺突を特徴とし、現場には円形の紙紐と五つの“左右”標記が残されたとされる連続殺人事件である |
| 標的(被害対象) | 深夜に一人で帰宅する中年男女(とくに市役所OB会の参加者が狙われたと推定される) |
| 手段/武器(犯行手段) | 尾骨狙いの加圧器具(竹製の中空円筒と鉄釘の組み合わせ) |
| 犯人 | 五右左右衛門を名乗る容疑者(実名は不詳、のちに“写し算師”と呼ばれた) |
| 容疑(罪名) | 殺人(連続)および死体損壊等の疑い |
| 動機 | “左右”のズレを埋める儀礼(数学的な和解)という供述が伝えられた |
| 死亡/損害(被害状況) | 死者5名(うち2名は同一月内、負傷者は確認されずとされた) |
尾骨殺しの五右左右衛門(おこつごろしのごえさえもん)は、2011年(平成23年)に京都府で発生した連続殺人事件である[1]。警察庁による正式名称は「尾骨部位損傷を伴う殺人事案連続型」とされ、通称では「儀礼型背骨狙い」とも呼ばれた[2]。
概要/事件概要[編集]
尾骨殺しの五右左右衛門は、京都市上京区の裏路地で始まったとされる連続殺人事件である[1]。事件では、被害者が現場近くの飲食店を出た直後、尾骨周辺への損傷を負って死亡したと報告された。
事件の特徴として、現場には直径およそ12.6センチメートルの紙紐の輪と、方位のように見える「左・右・左・右・中」の五つの符号が残されていたとされる[3]。捜査本部は当初、模倣犯の可能性も検討したが、のちに五右左右衛門という“名乗り”が匿名の郵送物から確認されたとされた[4]。
報道では「尾骨」という人体部位の選び方が不自然である点が繰り返し強調され、社会には“骨の左右”を語る小冊子や講座が一時的に流通した。これが、地域住民の夜間の行動様式まで変化させたと指摘されている[5]。なお、事件の呼称が先行し、実際の発生順序には複数の説があるともされた[6]。
背景/経緯[編集]
“左右”が流通した社会的土壌[編集]
事件の背景には、2000年代後半に流行した健康体操と民間の“骨相”ブームがあるとされる[7]。とくに京都周辺では、左右差(身体の微細な傾き)を矯正する体操が月1回の講習として組まれており、参加者が夜に帰宅する頻度が高かったことが推定された。
一方で、犯人が残した紙紐の輪が「左右判定用の作図具」に見えたため、捜査側は“犯行と儀礼が近接している”と見なした[8]。その結果、捜査資料には、当時販売されていた類似の方眼台紙が添付され、現場の紐が同一ロットかどうかが争点になったとされる[9]。ただし、この作図具の完全な一致は最終的に確認されなかったとも報じられた。
初動のずれと、模倣犯説[編集]
最初の通報は2011年(平成23年)23時過ぎに「倒れている人物の脈がない」とされ、の交番が受理した[10]。ただし、第二の被害が発生したとみられる時刻は23時44分頃であり、同一犯の犯行と断定するには時間間隔が短すぎるとも指摘された。
捜査本部(京都府警捜査第三課)は、当初、熱心なコレクターによる“儀礼模倣”の可能性を優先した。理由として、現場がいずれもゴミ収集のタイミングからわずか数分ずれており、犯人が地域の生活リズムを把握していたように見えたことが挙げられる[11]。この推測に対し、のちの鑑定では紐の繊維規格が粗く、工業製品ではなく手作りの可能性が高いとされた[12]。
捜査(捜査開始/遺留品)[編集]
捜査は、の刑事部門が中心となり、翌午前6時に「尾骨損傷連続事案」として合同鑑識班が編成された[13]。犯人は現場ごとに接近・離脱を短時間で行ったと考えられ、監視カメラの死角が狙われた疑いが濃いとされた。
遺留品として、被害現場から回収された紙紐の輪は、平均で約12.6センチメートル、紐の太さが0.9ミリメートルと記録された[14]。また、紙の種類は再生紙であり、古い統計資料の裏面が用いられていると鑑定されたとされる[15]。さらに郵送物には黒インクで“五右左右衛門”と読める署名があり、同封されていた用紙には「左右の差は骨で数える」との短文があったと報告された[16]。
捜査は、匿名の追加情報により“写し算師”と呼ばれる人物像へ収束したが、時系列の矛盾が指摘された。目撃情報では「傘を逆さに差した男を見た」という供述が1件、逆に「その男は傘を持っていなかった」という供述も2件あったとされる[17]。この食い違いが、供述の混線なのか、複数犯なのかで議論を生んだ。なお、事件はのちに“儀礼型背骨狙い”として整理され直された[18]。
被害者[編集]
被害者は5名であるとされ、年齢層は40代から60代に分布していた[19]。報道では「一人で帰る癖のある人ほど狙われた」と説明されたが、裁判記録では“偶然の夜回り”との見方も並記された。
第一の被害者はの学習塾講師とされ、事件当夜23時20分頃に路地へ入ったところで倒れたとされる[20]。第二の被害者は市内の事務職員で、遺留品の紙紐の輪が衣服の擦過痕に近い位置にあったと説明された[21]。第三の被害者は清掃員とされ、現場には“中”の符号だけが強く残されていたと報告されている[22]。
一方で、供述の中には「被害者は死ぬ直前に“小さい左右が鳴る”と言った」という奇妙な目撃談があり、捜査側は心理状態の影響と評価した。ただし、その発言が実際にあったかどうかは確証がなく、証拠能力が争点となったとされる[23]。
刑事裁判(初公判/第一審/最終弁論)[編集]
初公判は(平成25年)に行われ、被告人は“五右左右衛門”の名を受け継ぐと自称したとされる[24]。検察官は、犯行手段が尾骨周辺の加圧を狙った点に独自性があると主張し、「被害者の左右差を調整することで“誤差が消える”という動機に沿う」と述べた[25]。
第一審では、被告人の供述調書が大きく取り上げられた。供述では犯人は「左右の線を紙紐で作図し、体の“中点”を探した」と説明したとされる[26]。ただし弁護側は、数学的な比喩を用いた供述が増幅されているとして、供述の任意性と信用性が争われた。
最終弁論では、弁護側が“骨”への執着を精神疾患と結びつける主張を行った一方、検察側は“短時間で複数現場に現れる行動計画性”を示したとされる[27]。判決では、被告人は殺人罪で有罪とされ、死刑または無期懲役が争われたが、裁判所は「証拠は確実である」との理由で死刑を選択したと報じられた[28]。なお、判決文の一部には「尾骨」という語が8回出現したとも指摘されており、象徴性が過剰に見えるとの批判も出た[29]。
影響/事件後[編集]
事件後、京都市では夜間の帰宅導線を見直す動きが出たとされる。具体的には、京都市の一部地区で自治会が“23時以降は二人以上”を呼びかけ、ポスターの文面が「左右は人を守る」から始まったと報じられた[30]。
また、尾骨殺しの五右左右衛門という呼称が、SNS上で“骨活(こつかつ)”と誤解される形で拡散し、関連商品の販売が一時的に増えた。捜査当局は、事件と体操を結びつけた広告表現を問題視し、景品表示の観点から是正指導を行ったとされる[31]。
なお、未解決だったとする一部の地域紙の報道もあり、死刑確定後も「写し算師は別にいる」という噂が残った[32]。この食い違いは、時効の概念が一般向けに誤って伝わったことが原因だと、後年の取材で説明されたとされる[33]。
評価[編集]
事件の評価は、捜査技術というよりも“物語性”に強く影響されたとされる[34]。鑑識班は紐の繊維と紙の裏面の一致を重視したが、世論は現場に残された左右符号の意味を過度に読み解き、犯人像が肥大化した。
研究者の一部は、犯行が身体の損傷に直結している点を否定せずつつも、「符号の配置が“作劇”のように整っている」ことに注目した。たとえば、左右符号が五つで、かつ現場の地面の模様(格子状)と角度が揃っていたという証言がある[35]。
一方で、批判として「尾骨」という単語がセンセーショナルであり、医療的には説明の範囲を超えて語られたとの指摘がある。さらに、判決の根拠となった供述調書の一部が“被害者の発言”に依存しているため、証拠の連鎖に疑義を抱く見解も出たとされる[36]。
関連事件/類似事件[編集]
尾骨殺しの五右左右衛門と類似する事案としては、“左右の符号”を用いた窃盗予告と殺人が混ざったとされるが挙げられる[37]。また、背中や肩甲骨の損傷を特徴とするでは、同様に紙片の残留が確認され、模倣犯の可能性が論じられた[38]。
さらに、武器が特定の工芸品に似ていたと報じられたも、捜査段階で比較対象になったとされる[39]。ただし、これらはいずれも“儀礼型”というラベルのつけ方が先行し、科学的検証の優先順位が入れ替わった経緯があったと指摘されている[40]。
関連作品(書籍/映画/テレビ番組)[編集]
事件を題材にした書籍として、から刊行された『左右符号の夜——尾骨殺しの五右左右衛門』(著:)がある[41]。本書は、捜査メモの“未公開部分”として扱われた内容を多用したとされ、編集者が「脚注だけでも嘘みたいに読める」と評したと報じられた[42]。
映画化としては『儀礼型背骨狙い』(2016年、監督:)が作られ、作中では紙紐の輪が“数学パズル”として再構成された[43]。テレビ番組では、NHKの特集として「骨活と犯罪の境界」が放送され、体操業界が抗議したともされる[44]。
なお、これらの作品の中には、事実関係を一部置き換えた演出があるとして、関係者から「説明が先に立っている」との批判が出たとされる[45]。ただし、事件の呼称が持つ言葉の強さが、創作における“誤読”を生みやすかったとも説明されている[46]。
脚注[編集]
脚注
- ^ 京都府警察本部刑事部『尾骨損傷連続事案の捜査報告(内部資料集)』京都府警察本部, 2012.
- ^ 警察庁刑事局『犯罪統計における象徴的呼称の影響分析』警察庁, 2014.
- ^ 田中眞琴『左右符号の夜——尾骨殺しの五右左右衛門』明石書林, 2015.
- ^ 小笠原礼司『儀礼型背骨狙い(シナリオ資料集)』幻灯映画出版, 2016.
- ^ Margaret A. Thornton『Forensic Symbolism in Serial Violence』Springbrook Academic Press, 2013.
- ^ 林田清司『遺留紙紐の繊維規格と再現性』『日本鑑識学会誌』第8巻第2号, pp.112-131, 2012.
- ^ 佐伯理紗『供述調書の信用性と「骨の比喩」』『刑事裁判研究』Vol.19 No.4, pp.55-79, 2014.
- ^ Katsunori Nishida『Coccyx as a Target: Myth, Medicine, and Courtroom Narratives』Journal of Comparative Criminology, Vol.27 No.1, pp.1-22, 2018.
- ^ 京都地裁『平成25年(わ)第○号 尾骨殺し事件 判決書(要旨)』法曹会出版, 2013.
- ^ 松浦光『左右を埋める手口——儀礼型殺人の社会受容』第◯巻第◯号, pp.201-238, 2017.
外部リンク
- 捜査アーカイブ・京都
- 法廷ドラマ事典
- 鑑識データラボ(紙紐編)
- 骨活と誤読の境界
- フィクション化する犯罪