暴君李㦕の首を斬れ!
| タイトル | 暴君李㦕の首を斬れ! |
|---|---|
| 画像 | Bust of Yiyung Boxart.png |
| 画像サイズ | 220px |
| caption | 北米初回版パッケージ |
| ジャンル | アクションシューティングゲーム |
| 対応機種 | セガサターン、ドリームフォリオ・ミニ |
| 開発元 | 霞堂ソフトウェア |
| 発売元 | 霞堂ソフトウェア |
| プロデューサー | 西園寺一真 |
| ディレクター | 嶋田琢巳 |
| 音楽 | 三橋レイ |
| シリーズ | 李㦕戦記シリーズ |
| 発売日 | 1998年11月27日 |
| 対象年齢 | 15歳以上推奨 |
| 売上本数 | 全世界累計186万本 |
| その他 | キャッチコピーは「刃は歴史を、歴史は刃を選ぶ」 |
『暴君李㦕の首を斬れ!』(ぼうくんい・ゆんのくびをきれ、英: Behead the Tyrant Yi Yung!、略称: BTY)は、1998年11月27日に日本の霞堂ソフトウェアから発売されたセガサターン用アクションシューティングゲーム。通称は「首斬り」であり、のちにシリーズの第1作目にあたるとされた[1]。
概要[編集]
『暴君李㦕の首を斬れ!』は、朝鮮王朝末期を舞台としているとされる架空の時代活劇を、シューティングゲームの速度感で描いた作品である。プレイヤーは宮廷内の討伐部隊「斬首班」の一員として操作し、暴君李㦕の宮城へ突入する。
本作は、史実風の文言と過剰に華麗な演出が同居することで知られ、発売当時は教育的配慮と娯楽性の両立をめぐって賛否を呼んだ。また、ゲームシステムの特徴として、首級を奪取すると弾幕が一時的に逆流する「返り血ターン」が挙げられる[2]。
ゲーム内容[編集]
システム[編集]
ゲームは全7面構成で、各面の最後に「門」「書庫」「井戸」「寝殿」など宮城の異なる施設が配置されている。プレイヤーは火縄銃風の連射武器と、近接用の儀礼刀を使い分けることになり、武器の切り替え速度が得点倍率に直接影響する。
また、敵兵の攻撃を受けると画面上に「不敬値」が蓄積し、一定以上で城内の群衆が一斉に敵化する。この不敬値の概念は当時としては珍しく、後年のロールプレイングゲームの道徳パラメータに影響を与えたとする説がある。
戦闘[編集]
戦闘は横スクロールのアクションシューティングゲームを基調としつつ、ボス戦のみ俯瞰視点に切り替わる。李㦕の近衛は「詩文防御」を展開し、漢詩を3秒以内に撃ち抜かないと弾幕が倍化する仕様であった。
なお、最終面では「王命の遅延」が発生し、画面のスクロール速度が現実の暦に合わせて1日ごとに微妙に変化する。発売直後の攻略本ではこれをバグと説明していたが、開発元はのちに「宮廷の気分を再現した仕様」と回答した。
アイテム[編集]
アイテムは「弾薬」「湯薬」「奏上札」の3系統に大別される。特に奏上札は、集めることで一時的に対戦モード専用の処刑演出が解禁されるため、対戦派のプレイヤーから重視された。
隠しアイテムとして「銀の髷飾り」があり、これを所持した状態で城内の井戸に15回入ると、李㦕が一瞬だけ改心して援護射撃を行う。説明書には一切記載されておらず、当時の口コミ文化を象徴する要素とされる。
対戦モード[編集]
対戦モードは2人同時の協力プレイにも対応していたが、実際には互いの得点を奪い合う設計であったため、家庭内不和の原因になったとの報告がある。条件を満たすと「肝試し斬首」「禁書庫乱射」「玉座強奪」の3ルールが選択可能になる。
このモードでは、最後に首級を掲げた側が勝者となるが、首級の大きさがランダムに5段階で変化するため、熟練者ほど逆に敗北しやすいという妙なバランスであった。
オフラインモード[編集]
一人専用の「礼法修練モード」が存在し、敵を撃破せずに礼だけで関門を通過することを目的とする。達成率が高いと、スタッフロールで実在しない官職名が延々と表示される。
このモードは発売後に追加された差し替えディスク版で特に有名になり、のちのバーチャルコンソール対応版でも隠し要素として移植された。
ストーリー[編集]
物語は、漢陽近郊で起こった「夜の御膳失踪事件」から始まる。主人公は、かつて李㦕の側近であったが、玉璽の保管記録を誤って焼却した罪で追放された青年・朴允星である。
朴は、都から逃れた僧侶や鍛冶屋、そして宮廷料理人の三人組と合流し、暴政によって封じられた「沈黙の門」を破るべく旅を続ける。中盤で李㦕の母が実は謎の暗号解読官であったことが判明し、以後の展開はメディアミックス展開を前提にしたような急展開を見せる。
終盤、李㦕は自らの首を守るために三重の影武者を使うが、プレイヤーは最初から「首を斬る」ことよりも「暴君の自己言及を終わらせる」ことを目的にしているため、結末は政治劇としても解釈されている。なお、真エンディングでは李㦕が一枚の攻略本を手に笑うため、ユーザーの間では「本当の敵は紙である」と語り継がれた。
登場キャラクター[編集]
主人公[編集]
朴允星は、奎章閣の外郭記録係として設定された青年である。武器は「折れた毛筆」と「臨時徴発銃」で、戦闘中に筆跡の乱れがそのまま攻撃力に反映される。
当初は無口な主人公であったが、廉価版の説明書では急に三ページにわたる独白が追加され、人物像が大きく変化した。
仲間[編集]
仲間キャラクターとしては、料理人のチョン・マンドク、僧侶の慧然、鍛冶屋の柳三鉄が登場する。チョンは回復アイテムを調理する役割を持ち、慧然は敵の弾幕を説法で遅延させる。
柳三鉄は制作中に追加された人気キャラで、当初はただのNPCであったが、テストプレイで「鉄を叩く音がBGMより良い」と評価され、急きょ操作可能になった。
敵[編集]
敵勢力は、李㦕直属の「朱玉衛」と、城外から雇われた西域傭兵団「白砂の会」の二層構造である。とくに朱玉衛は顔を覆う仮面にそれぞれ異なる漢詩の一節が刻まれており、読み切ると攻撃パターンが変わる。
最終ボスの李㦕は、通常の弾幕に加えて「王のため息」で画面全体を曇らせる攻撃を持つ。これによりプレイヤーの視界が狭まるが、実際にはフレームレートの演出であるとされた。
用語・世界観[編集]
作中では「斬首」「奏上」「不敬」「返り血」が主要な固有概念として扱われる。とりわけ「返り血」は単なる演出ではなく、一定量を浴びることで隠し通路が開く世界法則として設定されている。
世界観は朝鮮王朝風の宮廷文化を下敷きにしつつ、寺院の地下に蒸気機関が存在するなど、時代考証が意図的にねじ曲げられている。このため、史劇ファンとSFファンの双方から半端に支持を得た。
開発[編集]
制作経緯[編集]
本作は、霞堂ソフトウェアが社内企画「歴史教材を遊びに変換する実験」の一環として立ち上げたのが始まりとされる。初期案では落ちものパズルであったが、提出会議で誤って刀剣の研究資料が混入し、現在の形に転じた。
企画書には「暴君の顔を見た瞬間、プレイヤーは教育か暴力かを選ぶ」と記されていたが、監修部門の意見で「両方やる」方向に落ち着いたという。
音楽[編集]
音楽は全29曲で構成され、うち12曲が城内の扉の開閉音を基にしたモチーフである。とくに主題歌「月下、刃は遅れて来る」は、発売翌年にゲーム音楽専門誌の読者投票で3位を記録した。
サウンドトラックは当初非売品であったが、予約特典版に付属した小冊子『李㦕断章集』が予想外に人気を呼び、後に単独CDとして再編集された。ジャケット裏面には「協力:某宗廟保存会」とだけ記されている[3]。
他機種版・移植版[編集]
翌1999年にはドリームフォリオ版が発売され、ロード時間の短縮と引き換えに、李㦕の登場時に立ち上がる煙の量が3倍になった。さらに2004年にはWindows 98向けの移植版が、教育ソフト棚でひっそりと再販された。
2009年の「復刻皇城版」ではオンライン対応が実装され、全国のプレイヤーが同時に首級を掲げる異様なイベントが行われた。なお、携帯機向けの計画も存在したが、画面サイズの都合でタイトルが収まらず中止されたとされる。
評価[編集]
発売初週で12万4000本を販売し、年末時点で国内累計54万本、全世界累計186万本を突破したと発表された。特に韓国市場では、史劇として受け取る層と、あまりに不謹慎なギャグ作品として受け取る層が拮抗し、結果的に口コミを押し上げた。
一方で、教育関係者からは「歴史を覚える前に刃物の持ち方を学ぶ仕様」と批判された。これに対し開発元は、ゲーム内の資料集を無償配布して反論したが、その資料集の半分は李㦕の食卓献立表であったため、論争はかえって長引いた。
関連作品[編集]
続編として『李㦕の遺言はまだ終わらない』、外伝として『斬首班の日常』、派生作として落ちものパズル『御膳を落とすな!』がある。いずれも李㦕戦記シリーズに含まれ、シリーズの第2作目以降はシリアスよりも寮生活の比重が高くなった。
また、テレビアニメ化された企画『首を斬る前に聞いてくれ』は放送直前に中止されたが、OP映像だけが販促イベントで流用され、現在でも幻のメディアミックスとして語られる。
関連商品[編集]
攻略本『暴君李㦕の首を斬れ! 完全御首指南』は、ファミ通クロスレビュー風のレイアウトを模した章立てで話題となった。書籍版『李㦕宮廷夜話』は、ゲームの設定資料に加えて架空の献立レシピを収録している。
その他の商品として、木製の「首級スタンド」、奏上札風メモ帳、そして実際には鳴らない「王命鈴」が発売された。特に王命鈴は、鳴る代わりに説明書の一節が読み上げられる仕様で、実用性の低さからコレクター人気が高い。
脚注[編集]
1. 作品解説書の記述による。 2. ただし不敬値の上昇条件については異説もある。 3. 音源の収録場所は後年の座談会で語られたが、一次資料は確認されていない。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
霞堂ソフトウェア公式アーカイブ 李㦕戦記シリーズ資料館 首斬り研究会データベース 宮廷ゲーム保存会 日本架空ゲーム年鑑
脚注
- ^ 西園寺一真『暴君李㦕の首を斬れ! 企画書改訂第七版』霞堂出版, 1998年.
- ^ 嶋田琢巳「宮廷弾幕表現における王権の可視化」『デジタル遊戯学紀要』Vol.12, No.3, pp.44-61, 2001.
- ^ 三橋レイ『月下、刃は遅れて来る:ゲーム音楽と水音処理』中野音響研究所, 2000年.
- ^ 朴允浩「李㦕像の再構成とプレイヤー感情」『東亜ゲーム史評論』第8巻第2号, pp.101-118, 2002.
- ^ Margaret A. Thornton, Beheading Mechanics and State Anxiety in Late-1990s Console Shooters, Vol.4, No.1, pp.9-27, 2003.
- ^ 金 成烈『朝鮮王朝風フィクションの受容』漢陽文化社, 2004年.
- ^ 斎藤理央「不敬値システムの設計史」『インタラクティブ・アーカイブ』Vol.19, No.4, pp.77-93, 2008.
- ^ J. H. Wren, The Chivalry of Excess: Sega Saturn in Alternative East Asia, Vol.2, No.2, pp.55-70, 2010.
- ^ 高橋みなと『首級スタンドの民俗誌』宮廷玩具研究会, 2011年.
- ^ 李恩静「『暴君李㦕の首を斬れ!』における献立表の政治性」『ゲーム文化と食』第3巻第1号, pp.13-29, 2015.
外部リンク
- 霞堂ソフトウェア公式資料室
- 李㦕戦記シリーズ総合案内
- 首斬りアーカイブ・プロジェクト
- 架空ゲーム博物館デジタル展示
- 宮廷弾幕研究センター