朝鮮
| 分野 | 地名・海象観測史・行政文書学 |
|---|---|
| 主な用法 | 交易上の呼称/海流・潮位の略称/版図表記 |
| 成立の起源(諸説) | 潮流測定器具の命名に由来するとする説など |
| 関連組織 | 、(旧称) |
| 観測指標 | 潮位偏差(単位:朝鮮尺) |
| 影響領域 | 航路、商取引、地理教育、出版文化 |
| 論争点 | 表記の恣意性と“同音異義”問題 |
(ちょうせん)は、古くからやの交易記録に登場する地名としても、潮の流れを測る海象観測の呼称としても用いられてきたとされる概念である[1]。とくに19世紀以降は、行政文書の省略表記として定着し、地域のイメージをめぐる議論の火種にもなったとされる[2]。
概要[編集]
という語は、単なる地理名称にとどまらず、航海・交易・行政の現場で実務的に使い分けられてきたとされる。とくに港湾の担当書記が、潮位や海流の記録を省略するための内部略号として用いたことが、後の一般的な呼称の広がりに影響したとする見解がある[3]。
また、学術領域では、を「潮の反応が先に表れる海域の慣用呼称」とみなす潮汐観測史の系譜が形成されたとされる。これに関連して、測定値の単位として“朝鮮尺”が提案されたが、規格統一に手間取ったため各港で換算誤差が蓄積したとも報告されている[4]。
なお、語の用法は時代により揺れがあるとされる。一方で、同音の転用が“朝鮮式”という書式文化を生み、他方でその曖昧さが後の行政判断に波紋を広げたと説明されることがある[5]。
歴史[編集]
起源:潮汐測量の「朝鮮尺」構想[編集]
の語源については、潮流の異常が最初に現れる“岬から三里ほど沖の帯状海面”に対する現場呼称から来たとする説がある[6]。この説では、17世紀末に外縁の天文係が試作した観測台「潮触子(うしょくし)」が契機となり、測定値の報告書で“朝鮮”が省略形として採用されたとされる。
具体的には、観測値の表が毎朝更新されていたため、「朝に先立つ(=先行)反応」を意味する当て字として広まり、その後に音読の都合で“ちょうせん”が固定したとされる[7]。しかし、この過程は記録が断片的で、当時の写本に「朝鮮尺」の換算表がだけ妙に丁寧に残っていた点が、後年の改竄の可能性も示唆すると指摘されている[8]。
発展:交易行政が“同音異義”を制度化した経緯[編集]
19世紀になると、港の税務帳簿においてが「交易品の到着海域」だけでなく「衛生検疫の実施範囲」を示す二重用途の語として運用されたとされる[9]。その理由として、検疫係が毎日参照する海流日誌の欄名を短くする必要があったこと、そして人手不足を補うために略語が制度化されたことが挙げられている。
この時期に(かいしょうきょく)が整備され、各港で潮位偏差を計算するための表が配布されたとされる。とくに“朝鮮尺換算係数”が、港ごとに微差(例:係数 1.0003〜1.0009)があるとされ、統一できないまま累積誤差が増えた結果、契約書上の「着岸日」が平均で1日弱ずれる事案が複数報告されたという[10]。
一方で、編集現場では“朝鮮”の表記が出版物の売れ行きに直結するようになり、各地の地理教科書が「朝鮮海図学」を競って取り上げたとされる。ここで生まれたのが、同じ見出し語(朝鮮)でも中身が「海流」「税制」「教育地理」でずれる“複合索引”の慣行であり、のちの読者が混乱したという[11]。
実務と文化:朝鮮という“手続き語”が社会に与えたもの[編集]
が社会に与えた影響は、まず航路設計に現れたとされる。海象係が潮位の変化を見て航路を微調整する際、日誌の冒頭に「朝鮮、偏差−○.○○」のような短文を置く運用が流行し、船員の間では“朝鮮の朝礼”と呼ばれる儀礼めいた習慣が形成されたともいわれる[12]。
また、取引の面では、貨物の保管期限が“朝鮮式”の換算に従って定められることがあり、たとえば「保管 34朝鮮尺(=実測換算で約29日〜31日)」のように、同じ数字が意味を持つ範囲が変動したとされる[13]。このため、商人組合の帳簿監査では、年1回の「朝鮮換算監査(参加率92.4%)」が義務化された時期があったという記述が残っている[14]。
さらに文化面では、を見出しにした講談や講義録が増え、“固有名詞の再解釈”が大衆の教養として消費されたとされる。特にの書肆が発行した「朝鮮問答集」では、読者が“潮の話なのか、税の話なのか”を見抜く形式クイズが採用され、返品率が異常に低かった(返品率 0.7%)という逸話が伝わる[15]。
批判と論争[編集]
の運用は、曖昧さゆえに批判も招いたとされる。まず、同音異義の転用によって、公文書では同じ「朝鮮」でも対象が潮位なのか、検疫なのか、地図上の領域なのか判断がつかない場合があったと指摘される[16]。このため、監査院の臨時調査で「朝鮮欄は注記のない限り一律“海象”として扱う」統一方針が検討されたが、現場の反発が強く、結局は“注記があるものは優先”という妥協に落ち着いたとされる[17]。
また、単位“朝鮮尺”の規格が港により微差だった点についても論争があった。ある海象官は「規格を詰めすぎると海は死ぬ」と語ったとされるが、その真偽は定かでない[18]。ただし、換算係数のばらつきが契約トラブルの温床になったことは複数の民事記録から読み取れるとされ、法務側からは“朝鮮尺”を廃し、別の標準尺へ移行すべきだという提案が出されたという[19]。
さらに、出版文化との結びつきが強まるにつれ、辞書編纂の段階で恣意的な説明が混入したのではないかという疑念も出たとされる。この疑念は、ある初版だけ「朝鮮=先行する朝の反応」と明確に書き、翌版ではその文言を削除した点に基づくものだと説明されている[20]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高橋敬太『潮触子の記録—朝鮮尺の写本整理(第3巻第1号)』海象局出版部, 1908.
- ^ Margaret A. Thornton『Maritime Abbreviations in East Asia, Vol. 2』Cambridge Harbor Press, 1919.
- ^ 李成植『交易衛生行政と同音異義』東アジア史料研究会, 1934.
- ^ 田中碩郎『港湾監査制度の成立と朝鮮換算』日本法政叢書, 1952.
- ^ K. R. Whitman『Units That Drift: Standardization in Seafaring』Journal of Maritime Metrics, Vol. 17 No. 4, 1961, pp. 221-249.
- ^ 朴光実『朝鮮問答集の書誌学的分析』書肆文化研究所, 1976.
- ^ 佐伯みどり『地理教科書と潮流教育—“朝鮮海図学”の広まり』教育史研究, 第12巻第2号, 1988, pp. 55-73.
- ^ 藤堂信一『省略表記の行政史—朝鮮欄の注記問題』行政文書学年報, 第6巻第3号, 2001, pp. 101-130.
- ^ 浅田倫太郎『笑われる単位—換算係数の民事トラブル集』民事資料館, 2012.
- ^ Ryohei Tanaka『Port Audits and the “朝鮮” Clause』Oxford Review of Trade Paperwork, Vol. 9 No. 1, 2016, pp. 9-34.
外部リンク
- 海象局デジタルアーカイブ
- 朝鮮尺換算資料庫
- 交易衛生行政の史料館
- 港湾監査の判例ポータル
- 朝鮮問答集オンライン講読室