王貞治のホームラン数と連動して出現する謎の子犬
| 分類 | 競技観戦系都市伝承 |
|---|---|
| 主な発生条件 | 王貞治のホームラン数の増加とされる |
| 観測される時間差 | 平均47〜58分(目撃者ごとに幅があるとされる) |
| 発生場所の傾向 | 主に東京ドーム周辺の路地・搬入口付近とされる |
| 関連する言説 | 電磁波説、運搬車説、願掛け説などが並立する |
| 運用組織(伝承上) | 観測班(架空) |
王貞治のホームラン数と連動して出現する謎の子犬(おうさだはる の ほーむらんすう と れんどうしてしゅつげんする なぞのこいぬ)は、の本塁打数に連動して、一定の時間差で現れるとされる謎の子犬である。競技観戦の民間伝承として語られてきたが、公式な記録とは一致しない点が繰り返し指摘されている[1]。
概要[編集]
王貞治のホームラン数と連動して出現する謎の子犬は、がホームランを打つたびに、その回の累計本塁打数に応じて子犬が出現するとされる民間伝承である。目撃談では「打球が着弾してから数十分以内に、球場外の特定の地点で白い足跡が見つかる」といった描写が繰り返されてきた[1]。
伝承の成立には、観戦者がスコアボードの数字を“合図”として読み替えた過程があったとされる。特に昭和後期から平成初期にかけて、日程とテレビ中継の遅延が増えると、ファンは「遅延分を埋める追加の出来事」を求めるようになった、とする説がある[2]。
一方で、子犬の目撃情報は公式戦の記録と整合しないことがあり、観測側の集計方法にもブレがあった可能性が指摘される。もっとも、矛盾が多いほど「当たっているはずなのに当たらない」という物語性が増すため、伝承はむしろ定着したと推測されている[3]。
名称と定義[編集]
伝承上、この子犬は必ずしも一匹の固定個体として描かれない。むしろ「その日、その数字に相当する“縁”として具現化する存在」とされることが多く、目撃者は体色や模様を後から語り直す傾向があったと記録されている[4]。
定義としては、①のホームラン累計が増加したこと、②少なくとも1人以上が球場外の指定地点で子犬を確認したこと、③観測者の時刻記録が“ある分”単位でズレていること、の3条件が満たされる場合に限り「連動して出現した」と見なす流儀があったとされる[5]。この「“ある分”」が何分かは班ごとに違うため、伝承の内部では未解決問題として扱われている。
また、子犬が現れた直後に「一瞬だけ吠えずに尾だけを振る」などの所作が語られることがある。これが“数の確認”のように説明されたことで、子犬は単なる目撃対象ではなく、観戦者の間で儀式化された観測装置として理解されるようになった、とする見解もある[6]。
歴史[編集]
起源:球場の時計が先に鳴ったという説[編集]
伝承の起源は、昭和40年代に遡るとする資料がある。根拠として挙げられるのは、当時の球場運営が採用していた「秒針同期放送」(いわゆる“数の鳴り”を揃えるための放送運用)である。運用に関わった技術者の孫が語ったとされる話では、ある試合で送信系の遅延が37分誤差を出したのち、その誤差に合わせて子犬の目撃が増えたとされる[7]。
さらに、東京都内の放送局向け計測会社(架空)では、ホームラン累計を“ログ”にして保全する仕組みが検討されていた、と伝えられている。ここから、子犬が“ログの隙間”に現れるという比喩が生まれたとする説がある。なお、この説では「誤差37分」の次に来た目撃を“38回目の足音”として数えたという、やけに具体的な証言が残っている[8]。
この時点では、子犬はまだ妖怪的な存在ではなく、単なる「遅延補正の副作用」と見なされていたとされる。ただし、観戦者がその補正を自分の感情の都合で解釈し直したことで、“連動して出現する”という因果が観測者側に形成された、と推定されている[9]。
展開:観測班とスプレッドシートの時代[編集]
平成に入ると、伝承は自然発生ではなく“管理される遊び”へと変化した。架空の公的機関としての内部に「観測班」が設置されたという噂が広がり、観測班は球場ごとに「子犬出現係数」を配布したとされる。係数はA〜Fの6段階で、たとえば東京ドームでは係数C、地方球場では係数Dのように決まっていたという[10]。
観測者は携帯のメモ機能で“ホームランが記録された時刻”と“子犬が見えた時刻”を記録し、差を取った。差の分布は平均が約52分、中央値は約49分、分散は約61(分^2)と語られることがあり、数字の整い方が逆に怪しさを増している。実際に、ある年の観測レポートでは「合計が一致する日が年間21日あった」と書かれており、完全再現を望むファンの期待が高まった[11]。
しかし、係数が“配布されるほど”伝承は固定化され、固定化された瞬間に外れる現象も増えた。観測班は「子犬は“視線が集まるほど遅延する”」として対処したとされるが、実証はされなかった。ここで、伝承は科学というより演出の文化へ寄っていったと考えられている[12]。
転機:矛盾が物語を強くした[編集]
最大の転機は、連動が“逆向き”に発生したとされる新宿の夜間目撃であった。目撃者の証言では、その日は本塁打数が増えていないのに子犬が現れ、しかも首輪に小さな札が付いていたという。札には「47」とだけ刻まれており、観測班は「これは次回の累計の予告」と説明したとされる[13]。
もっとも、次回試合で本当に累計が一致したかどうかは、資料によって異なる。あるファン団体の掲示板では「一致した」とする一方、別の団体では「一致しないが、気分が一致したので成功とみなした」と書かれている。ここに、伝承が“真偽”よりも“納得の形式”を重視するようになった変化が見られるとされる[14]。
この頃から子犬は、ホームラン数の増減というより「球場の空気に対する応答」として語られる比喩が増えた。結果として、子犬は連動装置としての役割を失いつつ、逆に象徴として強く残った、と分析されている[15]。
社会的影響[編集]
この伝承はスポーツ報道の外側に広がり、観客の行動パターンに影響したとされる。たとえば、子犬が出現すると信じたファンは「ホームラン直後に外周へ出る」「搬入口の照明を数える」などの行動を取ったとされ、球場運営側は安全管理の観点から注意喚起をした経緯があると噂されている[16]。
一方で、子犬を“応援のメーター”として解釈する流れもあり、ホームランを打つたびに観客が同じテンポで拍手する習慣が生まれた、とされる。この拍手の周期は、観測班の流儀では「打球から最初の拍手までが11.3秒、次の拍手までが8.7秒」といった細かい数値で記述されていた[17]。もちろん測定したのは誰なのか不明であるが、数字が細かいほど伝承の信頼性が上がるという“社会心理”が働いたと考えられている。
また、地域経済への波及も語られる。台東区周辺では「子犬見物の日は焼き鳥の売上が一時的に15%増える」といった噂があり、実際に統計が出たわけではないものの、商店街のチラシでは“目撃情報を見越した仕込み”が行われたとされる[18]。こうした誇張が伝承をさらに肥やした、という循環が指摘されている。
批判と論争[編集]
批判として最も多いのは、連動の基礎データが曖昧である点である。目撃記録は個人の体験であり、時刻も分単位、あるいは5分刻みで丸められていることが多い。すると、たとえ子犬がランダムに出現しても“数字の周期”に寄って見えてしまうという論理があるとされる[19]。
また、の本塁打数はシーズンをまたいで蓄積されるため、累計の定義が揺れる。たとえば「公式戦のみ」なのか「二軍戦も含む」なのか、あるいは「番組で放送された分のみ」なのかで、連動の判定が変わると指摘されている。観測班のレポートでは“判定に使うホームラン数は放送台本の改稿により補正された”と書かれており、これが要出典級の怪しさとして笑われている[20]。
一方で、肯定側は「一致しない日こそ重要である」と主張した。目撃が欠けた日は“子犬が観測者の妄想を拒んだ日”であるとされ、拒否を尊重することで翌年の一致率が上がった、と言う。もっとも、これを検証する客観データは提示されていないとされる[21]。
脚注[編集]
脚注
- ^ 佐藤真理『数字の儀式——球場外周に現れるもの』中央スポーツ出版, 1999.
- ^ Margaret A. Thornton『Media Delay and Fan Rituals in Late 20th Century Japan』Journal of Sports Folklore, Vol.12 No.3, pp.41-68, 2003.
- ^ 高橋礼二『スコアボード読解術と家計簿化した伝承』日本体育史叢書, 第7巻第2号, pp.15-39, 2008.
- ^ 中島由紀子『時刻同期放送の現場と誤差の物語』NHK技術メモ(架空), pp.1-22, 1987.
- ^ B. Kessler『When Home Runs Become Clocks』International Review of Mythic Sport, Vol.5 No.1, pp.77-102, 2011.
- ^ 渡辺精一郎『子犬観測班報告書:係数A〜Fの採用理由』野球文化庁資料集(架空), 第3号, pp.3-54, 2001.
- ^ 田村光『搬入口照明と足跡の統計:分布の見え方』統計民俗学会誌, Vol.19 No.4, pp.120-156, 2014.
- ^ Catherine L. Watanabe『Crowd Attention as a Parameter in Urban Legends』Proceedings of the Imaginary Ethnography Conference, pp.9-31, 2017.
- ^ 王立編集局編『東京下町観測綴:雑味のある一致率』王立編集局, 2020.
- ^ 伊藤一郎『要出典の書き方:百科記事のための怪しい語法』百科編集研究所, pp.88-95, 1996.
外部リンク
- 球場外周タイム記録倉庫
- 伝承係数A〜Fまとめ
- 王貞治ホームラン日誌(ファン編)
- 観測者効果実験ノート
- スコアボード誤差地図プロジェクト