藤田ことね
| タイトル | 藤田ことね |
|---|---|
| 画像 | Fujita Kotone cover art |
| 画像サイズ | 260px |
| caption | 北西区画の駅前で立つことねと、背後に表示された未完成の時刻表 |
| ジャンル | コンピュータRPG |
| 対応機種 | ドリーム・コア |
| 開発元 | 蒼環ソフトウェア |
| 発売元 | 蒼環ソフトウェア |
| プロデューサー | 高瀬真一 |
| ディレクター | 三浦澄香 |
| デザイナー | 佐伯玲二 |
| プログラマー | 野口悠斗 |
| 音楽 | 橘リコ |
| シリーズ | 星屑アーカイヴ |
| 発売日 | 2004年11月18日 |
| 対象年齢 | CERO B相当 |
| 売上本数 | 国内約48万本、全世界累計約121万本 |
| その他 | 初回版には折りたたみ式の駅名札カードが同梱された |
『』(ふじたことね、英: Fujita Kotone)は、にのから発売された用である。『』の第1作目にあたり、通称は「ことね」と呼ばれる[1]。
概要[編集]
『』は、風の近代都市を舞台とするである。プレイヤーは記憶監査局の臨時職員として、都市の地下に残された「未配達の会話」を回収しながら、消失したと住民の名前を再構成していく。
本作は、会話の選択肢が戦闘の強弱に直結する独自ので知られ、特に「名前を正しく呼ぶことで敵の属性が変化する」仕様が話題となった。また、発売当時はの審査対象外であったものの、後年になって「記憶と都市生活を結びつけた先駆的作品」として再評価されている[2]。
ゲーム内容[編集]
システム[編集]
ゲームはの移動と、会話入力を中心とした半的な構成を採用している。プレイヤーはを直接操作するのではなく、彼女の「通話記録端末」を介して移動命令を送る形式であり、これがシリーズ内で「遠隔自我操作」と呼ばれた。
また、町の各所には「遅延した返事」が発生しており、返答が0.7秒遅れるごとに敵の攻撃間隔が短くなる。発売当初は説明不足として批判されたが、後の攻略本で「都市の呼吸を読むゲームデザイン」と解釈され、むしろ特徴として語られるようになった[3]。
戦闘[編集]
戦闘は風の時間制ゲージに加え、単語の選択によって属性が変動する「語感連鎖」が導入されている。たとえば、敵に対して「静かな駅」と言うと防御が上がり、「終電前」と言うと回避率が下がるなど、文脈依存の効果がある。
ボス戦では必ずBGMが一度停止し、続いてによる即興ピアノが再生される。これは開発中にプログラムの再生遅延を誤魔化すための苦肉の策だったが、最終的には「沈黙から始まる戦闘演出」として定着した。なお、隠し敵のは、1回の戦闘で無言を12回以上選ぶと出現するとされるが、公式には未確認である[要出典]。
アイテム[編集]
アイテムは主に「記録媒体」「食料」「駅務用品」の3系統に分かれる。最重要アイテムはで、これを所持していると特定エリアの住民が本名を名乗るようになる。
また、回復アイテムの「冷めた珈琲」は、HP回復量が少ない代わりに、連続で3杯使用すると主人公の記憶欄に一時的な第三者視点が追加される。プレイヤーからは便利というより不気味な効果として記憶されており、続編でもしばしば引用された。
対戦モード[編集]
本作には標準ではは存在しないが、初回版特典ディスクに「駅前模擬試験」という隠しモードが収録されていた。ここでは2人のプレイヤーが同一の会話ログを奪い合い、より早く住民の氏名を完成させた側が勝利となる。
このモードはにのみ対応していたため、雑誌レビューでは「時代に対して妙に内向きな競技性」と評された。一方で、後年のイベントでは非公式の競技会が開かれ、の小規模ゲーム喫茶で68試合連続開催された記録が残っている。
オフラインモード[編集]
オフラインモードでは、時間帯によって街の会話密度が変化し、深夜になるほどNPCが長文になる。これを利用して、プレイヤーは駅の改札口で3分以上待機するだけで、失われたサブイベントを回収できる。
なお、マニュアルには「オフラインで遊ぶと本作の30%しか理解できない」と書かれていたが、発売後の調査ではむしろ単独プレイの方が謎の整合性を保つという報告もあった。開発元はこれを「通信回線の有無が物語認識に影響する仕様」と説明している。
ストーリー[編集]
物語は、の第4環状線で発生した「朝8時17分の時刻消失事件」から始まる。主人公のは、事件現場で唯一残されていた乗車券番号を手掛かりに、都市中に散逸した会話断片を集めることになる。
調査の過程で、ことねは駅、古書店、給水塔、そして市役所地下の「記憶保管室」を巡る。各地で出会う住民たちは、なぜか自分の名字だけを正確に覚えており、名前の下の名前を忘れている。これにより、ことねは都市そのものが「敬称だけで運営されていた時代」の残骸であると推理する。
終盤では、失われた時刻は自然災害ではなく、が改札機の更新費を捻出するために「午前8時台」を一括削除した結果であったことが明かされる。最終決戦では、ことねは自分自身の名前を正しく読めるかどうかを賭けて、地下終着駅の時刻表と戦うことになる。
登場キャラクター[編集]
主人公[編集]
は本作の主人公で、の臨時職員である。年齢は19歳とされているが、作中の書類では「22歳にも見える」と記載が揺れており、ファンの間では「年齢未確定キャラ」の先駆けとして扱われる。
戦闘能力は低いが、他者の話を最後まで聞くことで隠し選択肢を開放する性質がある。開発資料には「最も強い武器は相槌」と書かれていたという。
仲間[編集]
仲間キャラクターとしては、無口な駅員、元印刷工の、そして会話する自動販売機が登場する。特にB-17は、飲料を売る代わりに都市伝説を販売する役割を担い、シリーズ屈指の人気を得た。
また、隠し仲間のは、各章で1回ずつしか現れないが、合計7回会話するとエンディングの色調が変わる。制作陣は当初この仕様を「バグ」と説明していたが、のちに正式な分岐であると訂正した。
敵[編集]
敵は「欠番者」と総称される。彼らは本来、人口台帳から漏れた住民の残響であり、名前の一部だけを引きずって出現する。
特に中盤のボスは、投票箱のような頭部を持つ巨大な監査人として知られる。戦闘中にプレイヤーが同じ返答を3回繰り返すと、管理官は攻撃をやめて自己紹介を始めるが、この現象は地方大会の実況で「試合放棄ではないか」と物議を醸した。
用語・世界観[編集]
作中世界では、都市の行政記録が「名前」「時刻」「通路」の3層で管理されている。これらはすべて紙の帳票に記録されており、電子化されたのは物語の終盤以降である。
また、という名は、単なる人物名ではなく「失われた午前8時台を呼び戻すための鍵語」とも説明される。設定資料集では、ことねの名が都市中の放送設備に7回流れると、改札のLEDが一斉に青から橙へ変化する、と記されている。
このほか、の住民は「苗字で呼ばれると安心し、下の名前で呼ばれると過去を思い出す」という特性を持つとされるが、こちらは制作当時の都市文化調査を元にしたとの説明しかなく、現在でも半ば伝承扱いである。
開発[編集]
制作経緯[編集]
本作は、が社内勉強会用に作成した会話シミュレーションを元に開発された。元々は路線検索ソフトの試作だったが、担当者が誤って「人名の入力が物語を生成する」実装を残したことから、RPGとして再構成されたという。
企画書の第1案では主人公名は固定されておらず、「FJ-09」という仮称で呼ばれていた。しかし、が脚本の最後に突然「ことね」という音の柔らかさを採用したことで、全体の空気が一変したとされる。
スタッフ[編集]
ディレクターのは、前作まで駅務シミュレーターを担当していた人物で、本作では会話テンポの設計に深く関わった。プロデューサーのは、発売直前に「この作品はパズルなのかRPGなのか」という社内議論を1晩で収束させたことで知られる。
音楽のは録音のためにの廃校を使用し、校内放送の残響をサンプリングしたという。なお、プログラマーのは、戦闘中に入力が3秒止まると自動で謝罪文を表示する機能を仕込んだが、後に削除されている。
音楽[編集]
音楽は、ピアノ、チェレスタ、時刻表の打刻音を組み合わせた室内楽的な編成である。主題歌「8:17 no Reply」は、シングル化はされなかったが、店頭デモで流れ続けたため、発売週の店員が歌詞を覚えてしまったという逸話が残る。
サウンドトラックは全42曲で、うち11曲は駅の発車ベルを基にした変奏である。とりわけ「Last Platform」は、発売当初からファンの間で名曲扱いされ、後にで弦楽四重奏版が演奏された。
移植版[編集]
2006年には版が発売され、文字が小さすぎるという理由で「会話を読むのに老眼鏡が必要」と評された。これに対し開発元は、携帯機向けに一部のフォントを手書き風へ変更し、むしろ都市のメモ帳らしさを強調した。
2009年には向けに拡張移植版『藤田ことね Re:Clocked』が発売され、協力プレイに対応したほか、オンライン通信による「共同聞き取りモード」が追加された。なお、この移植版では一部のセリフが機種依存のために逆順表示となり、コレクターの間では「最も誤読に適した版」と呼ばれている。
評価[編集]
発売初週の売上は約8.6万本で、年末までに国内累計31.4万本を記録した。シリーズ外伝としては異例の数字であり、蒼環ソフトウェアは翌年度に開発部門を2班体制へ拡張した。
批評面では、系の架空雑誌『電脳クロスレビュー』で34点を獲得し、では特別賞相当の扱いを受けたとされる。また、一部レビューでは「ミリオンセラーを記録するには会話が多すぎる」と評されたが、最終的には約121万本を突破した。
関連作品[編集]
続編として『』(2007年)、外伝に『』(2010年)、前日譚に『』(2012年)がある。いずれも世界を共有しているが、時刻の表現方法が作品ごとに異なるため、厳密な整合は取れていない。
また、漫画化・テレビアニメ化の構想も一度は発表されたが、アニメ版は「毎話の尺に対して改札の説明が長すぎる」として2話分で中止されたという。これを受けて、ファンの間では未完のメディアミックス作品として語られている。
関連商品[編集]
攻略本として『藤田ことね 完全時刻表解析』がから刊行され、発売から3週間で重版が決定した。本文の約4割がNPCの発言録で占められており、実用書というより会話史料集に近い。
書籍では、設定資料集『瑞鳴市記録保全年報』、小説版『朝8時17分のあなたへ』、および付録CD付きムック『ことね式 返答のすすめ』が知られる。その他、初回版同梱の駅名札カード、透明しおり、改札音を再生できる卓上時計など、関連商品は妙に実用品寄りであった。
脚注[編集]
1. 作品タイトルの正式表記は発売告知時には『藤田ことね』、店頭ポスターでは『FUJITA KOTONE』表記も用いられた。 2. ただし、に関する記述は当時の応募規定との整合性が不明である。 3. 公式攻略本では「語感連鎖」はあくまで演出補助であるとされている。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
脚注
- ^ 高瀬真一『藤田ことね 開発日誌』蒼環出版, 2005年.
- ^ 三浦澄香『会話で戦うRPG設計論』電脳文化社, 2006年.
- ^ 橘リコ『8時17分のための音楽』港北レコーズ, 2005年.
- ^ 小野寺拓也「都市記憶と名前の再生」『ゲームデザイン研究』Vol.12 No.3, pp.44-61, 2008年.
- ^ M. A. Thornton, "Speech-Indexed Combat in Early Urban RPGs," Journal of Interactive Fiction Studies, Vol.7 No.2, pp.88-109, 2011.
- ^ 佐伯玲二『駅前の会話学』蒼環書房, 2007年.
- ^ 野口悠斗「遅延入力と謝罪文生成の関係」『ソフトウェア工学月報』第18巻第4号, pp.12-19, 2009年.
- ^ 成瀬ミオ『改札口の午後』東都評論社, 2006年.
- ^ 渡辺精一郎「記憶保管室の構造的欠陥について」『都市史通信』第4巻第1号, pp.3-17, 2010年.
- ^ K. Yamashita, "The Quietest Protagonist in Commercial RPG History," Game Studies Quarterly, Vol.9 No.1, pp.1-14, 2014年.
外部リンク
- 蒼環ソフトウェア公式アーカイブ
- 星屑アーカイヴ資料館
- 瑞鳴市観光局 特設ページ
- 電脳クロスレビュー年鑑
- ことね会話ログ保存会