響け!ユーフォニアム
| タイトル | 響け!ユーフォニアム |
|---|---|
| ジャンル | 青春漫画、吹奏楽、学園ドラマ |
| 作者 | 桜庭カナメ |
| 出版社 | 鳳凰書房 |
| 掲載誌 | 月刊トーンブラス |
| レーベル | ブラスコミックス |
| 連載期間 | 2008年4月号 - 2014年9月号 |
| 巻数 | 全11巻 |
| 話数 | 全68話 |
| 関連楽曲 | 『北宇治コラール』ほか |
『響け!ユーフォニアム』(ひびけ ゆーふぉにあむ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『響け!ユーフォニアム』は、の公立高校をモデルにしたの吹奏楽部を中心に描く青春漫画である。小編成の部活動を題材にしながら、楽器選定、音色の同調、コンクール直前の心理戦を細密に描いた点で知られている[2]。
作品は当初、の学園スポーツ漫画の流行に対抗する形で企画されたが、結果として「音の出ない音楽漫画」として独自の地位を得たとされる。とくにを「集団の空気を振動で可視化する装置」として扱う設定が話題を呼び、読者層をから、さらにはの研究者にまで拡大した[3]。
累計発行部数は時点でを突破したとされ、後にテレビアニメ化、舞台化、地方自治体との連携企画など、典型的なメディアミックス展開を行った。なお、連載末期には「実在のコンクール規定を数式化しすぎている」との指摘もあり、編集部が一部の小節に譜面記号を付記したという逸話が残る。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの出版社で工業系漫画の背景助手をしていた人物とされる。彼女が吹奏楽を題材に選んだのは、にの公開練習を偶然取材した際、奏者の息の長いフレーズに「会話よりも雄弁な沈黙」を感じたためである、というのが通説である[4]。
企画初期案では主人公は奏者であったが、編集担当のが「金管の中で一番地味な楽器にしなければ、感情の揺れが映えない」と主張し、ユーフォニアムに変更された。これにより作品は、競争の派手さではなく、音の厚みと人間関係の隙間を描く方向へ転換したとされる。
また、作中の部室レイアウトは内の複数校の吹奏楽部室を合成して作られており、窓の位置まで毎回異なることがある。ファンの間では「背景の椅子の脚数がコマごとに違う」として知られ、のちにが第7巻以降で背景資料集を別冊化した、という珍しい経緯を持つ。
あらすじ[編集]
北宇治入部編[編集]
のは、吹奏楽部の見学でユーフォニアムの低音に惹かれ、半ば勢いでへ入部する。ところが部内は、奏法の違いよりも「譜面台の高さ」をめぐる派閥争いが深刻で、彼女は初日から会議室で間の自己紹介を強いられる。
この編では、顧問のが「音を揃える前に、呼吸を揃えろ」と命じ、全員で校庭を走らされる場面が象徴的である。結果的に、走った距離よりも会話の量のほうが多い回が続き、読者からは「部活漫画なのに内申書のほうが重い」と評された。
府大会調整編[編集]
直前、北宇治はのセクションに分かれて衝突する。木管は「和音の純度」、金管は「音量」、打楽器は「出番の少なさ」を争点にし、部長のはホワイトボードにも矢印を書き足すことになる。
特に印象的なのは、ユーフォニアムのソロをめぐる議論である。主人公は、演奏の正確さよりも「誰が譜面をめくるか」で心をすり減らし、最終的にページをめくる音が曲中の休符と一致してしまう。この偶然が審査員の心を動かしたとされ、作中では「沈黙が拍を取った」と表現される。
全国大会編[編集]
全国大会では、北宇治がので演奏することになる。会場の天井反射板がやや低く、の倍音が予想よりも明るく響いたため、音響担当は深夜に現場検証を行ったとされる。
終盤、主人公は「うまく吹くこと」と「一緒に吹けること」は違うのだと悟る。なお、最終小節の直前にのベルから落ちたリードペーパーが審査表に貼り付いていたという伝説があるが、これは後年とされた。それでも読者の多くは、この場面を作品全体の象徴として受け止めた。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、内向的でありながら低音域の安定性に執着するである。彼女の奏法は極端に息が長く、部内では「会話をしているのかロングトーンを吹いているのか分からない」と言われた。
は部長で、合理性を装いながら感情で動くタイプである。大会前に必ずチェックリストを作るが、最終的には自分で書いたチェック項目に泣かされることが多い。
は北宇治の顧問で、元プロ奏者という設定を持つ。作品中では一見厳格であるが、実際には楽器ケースの鍵を週に失くす人物として描かれ、部員からは「指導者よりも探索対象」と呼ばれている。
そのほか、、、などが登場し、それぞれ木管、打楽器、裏方作業を担う。とりわけ香坂は、スティックの片方だけを持ち歩く奇癖で知られ、作中では「音の片割れを探す女」として半ば伝説化している。
用語・世界観[編集]
作中のは、単なる金管楽器ではなく「集団の空気圧を調整する共鳴器」として扱われる。北宇治学院では、各セクションの不和が高まると楽器室の温度が上昇するという俗説があり、これを測るための「温度で練習回数を決める表」が存在した。
また、作品独自の概念としてがある。これは演奏の上手さを、音程・音量・姿勢・譜面の折れ角ので評価する校内制度で、実際には部員の自己申告制であった。これが原因で、同じ演奏に対してとが同時に記録された回があり、読者の間で「吹奏楽版の通貨制度」と揶揄された。
世界観の中で重要なのは、が単なる大会ではなく、学内政治の決算日として機能している点である。各学年の権力関係、顧問の裁量、楽器の所有権が一度に清算されるため、作中では「秋の株主総会」とも呼ばれる。
書誌情報[編集]
本作はに単行本第1巻が刊行され、の第11巻で完結した。各巻には「音の粒子」を模した特殊加工が施され、第3巻以降は帯に小さな五線譜が印刷されていたことで知られる。
書誌面では、初版と改訂版で楽器の持ち手位置がわずかに異なり、コレクターの間では第5巻初版が「右手が1ミリだけ上がっている版」として取引された。なお、は販売促進のため、同年の相当イベントでを配布したが、実際には演奏不能な和音が記載されていたため、ほとんどが観賞用となった。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化はに発表され、制作による全24話のシリーズとして放送された。アニメ版では、原作よりも楽器の反響音が詳細に描かれ、でユーフォニアムのベルの内側に映る照明の揺れがSNSで話題となった。
その後、ドラマCD、舞台版、地方ラジオ番組、さらにはとのコラボ車内放送まで実施された。とくに舞台版では、演奏場面を再現するために俳優全員が実際にの管楽器講習を受けたとされるが、最終的に本番で鳴っていたのは主に録音であった。
メディアミックスの成功により、作品は向け教材としても扱われ、全国の学校で「合奏前に1巻だけ読む」慣習が広まったといわれる。これが社会現象であるかどうかは議論があるが、少なくともの学園漫画ブームを象徴する作品の一つとみなされている。
反響・評価[編集]
評論家からは、青春群像劇としての完成度よりも、音楽を「努力の結果」ではなく「関係の副産物」として描いた点が高く評価された。特には、本作を「日本の部活漫画における微分可能な感情曲線」と評している[5]。
一方で、現役吹奏楽指導者の一部からは、顧問が部員の譜面をではなくで修正する描写に対し、教育上の誤解を招くとの批判が出た。もっとも、作品の熱心な読者はこれを「表現上の過剰」として受け止め、むしろ練習前に温度計を持ち込む学校まで現れたという。
人気投票ではユーフォニアム自体がキャラクター扱いされ、の読者アンケートでは「最も信頼できる登場人物」部門でに入った。なお、1位は主人公でも顧問でもなく、譜面台であった。
脚注[編集]
[1] 桜庭カナメ『月刊トーンブラス創刊準備号の真実』鳳凰書房、2010年、pp. 14-19。 [2] 井上澄子「高校吹奏楽漫画における共鳴表現」『現代児童図像学』Vol. 8, No. 2, 2015, pp. 201-219。 [3] Martin H. Bell, "The Euphonium as Social Metaphor in Japanese School Manga," Journal of Band Studies, Vol. 12, No. 1, 2017, pp. 44-63. [4] 三浦玄也『編集部はなぜ楽器を増やしたか』鳳凰書房、2012年、pp. 88-93。 [5] 佐伯真琴「沈黙のアンサンブル——『響け!ユーフォニアム』再論」『ブラス・レビュー』第19巻第4号、2016年、pp. 7-15。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 桜庭カナメ『月刊トーンブラス創刊準備号の真実』鳳凰書房、2010年。
- ^ 三浦玄也『編集部はなぜ楽器を増やしたか』鳳凰書房、2012年。
- ^ 井上澄子「高校吹奏楽漫画における共鳴表現」『現代児童図像学』Vol. 8, No. 2, 2015, pp. 201-219.
- ^ 佐伯真琴「沈黙のアンサンブル——『響け!ユーフォニアム』再論」『ブラス・レビュー』第19巻第4号、2016年、pp. 7-15.
- ^ Martin H. Bell, "The Euphonium as Social Metaphor in Japanese School Manga," Journal of Band Studies, Vol. 12, No. 1, 2017, pp. 44-63.
- ^ 高橋理恵子『部活動と感情の可視化』鳳凰社、2014年。
- ^ Elise Carter, "Tuning the Classroom: Ensemble Narratives in East Asian Comics," Comparative Popular Arts, Vol. 5, No. 3, 2018, pp. 77-101.
- ^ 北條聡『漫画における楽器描写の変遷』水鏡出版、2016年。
- ^ 田中瑞穂「温度計と譜面台——学園音楽漫画の記号論」『文化図像学季報』第11号、2019年、pp. 55-69.
- ^ G. R. Whitman, "Minor Brass, Major Emotions," The Journal of Sequential Sound, Vol. 3, No. 4, 2020, pp. 12-29.
外部リンク
- 鳳凰書房公式作品案内
- 月刊トーンブラス編集部アーカイブ
- 北宇治学院吹奏楽部資料室
- 日本学園音響史研究会
- ブラスコミックス特設ページ