Poseidoteuthis gigantorostris
| 名称 | Poseidoteuthis gigantorostris |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 軟体門 |
| 綱 | 頭足綱 |
| 目 | 頭足目 |
| 科 | 深海鉛筆墨科 |
| 属 | Poseidoteuthis |
| 種 | P. gigantorostris |
| 学名 | Poseidoteuthis gigantorostris |
| 和名 | ギガント嘴鉛筆墨(がいがんとくちばしえんぴつぼく) |
| 英名 | Gigantorostris Pencil-ink Cuttlefish |
| 保全状況 | 情報不足(IUCN相当の域内評価) |
Poseidoteuthis gigantorostris(学名: ''Poseidoteuthis gigantorostris'')は、に分類されるの一種[1]。
概要[編集]
Poseidoteuthis gigantorostrisは、深海域で観察されるである。とくに、体表に微細な溝をもつ外套膜と、鉛筆の芯のように硬化する嘴(くち)構造が特徴であるとされる。[1]
本種は「墨がインクではなく音響媒体として機能する可能性」が議論されており、2000年代以降に航海計測研究との相性が良い対象として扱われてきた。ただし、その行動記録の多くは曳航ソナーと映像の同時取得に依存しており、解釈には幅があるとされる。[2]
分類[編集]
目・科への位置づけ[編集]
分類学的にはの深海系統に位置づけられ、(学術的には Pencil-ink Cuttlefish family と呼称される)に属するとされる。[3] この科は、従来「低温下で墨が粘性を増す」という観察報告から分割された系統であるとされ、比較解剖学的特徴として“硬化嘴”が重視されてきた。
一方で、初期の記載では本種は別属に仮置きされており、192粒子計数器を使った鰓(えら)組織の計測値が、後年の再測定で別の種と混同された可能性が指摘されている(この点は後述の批判とも関連する)。[4]
属名 Poseidoteuthis の由来[編集]
属名 Poseidoteuthis は、古典期の航海神話(海神ポセイドン)に由来するとされる。ただし成立経緯は神話に留まらず、1946年に(通称MRA)が配備した最初期の深海索敵装置が“ポセイドン式回折板”と呼ばれていたことから、装置命名が学名に流用されたという説もある。[5]
このように、学名の語源は物語的に語られがちであるが、実際の系統関係は「墨の音響反射率」と「嘴硬化温度域」の2軸で整理されることが多いとされている。
形態[編集]
本種は外套長が最大約1.7 mに達すると推定されているが、測定例は漁網破断と曳航の失敗により偏っているとされる。外套膜の溝は縦方向に約0.6 mm間隔で走り、微細な放電模様(観察上の見かけ)が重なると、光学映像上で鉛筆の走り書きのように見えることがあると報告されている。[6]
嘴は通常時に柔軟だが、水温が約3.2℃を下回ると硬化が進むと考えられている。硬化過程では外套膜から微量の“墨ゼリー”が押し出され、これが表面の溝に沿って薄膜化するため、硬化の痕跡が半永久的に残るとされる。[7]
また、腕の吸盤縁には微小な鉤(かぎ)が並び、曳航用ケーブルに絡む確率が高いことから、研究者のあいだでは「海底ケーブルの選択的切断犯」と半ば冗談めいて呼ばれることもある。なお、近似種との識別には吸盤縁の鉤数(平均で1吸盤あたり13〜17本)が用いられるとされる。[8]
分布[編集]
分布は、一般にの深度800〜1500 mに偏るとされる。海洋観測の記録では、特定年にだけ観察が増える“季節の窓”があると報告されており、窓は概ね海流速度が0.35 m/sを超えた週に現れる傾向があるとされる。[9]
特筆すべきは、観察が“海底盆地の段丘”に対応している点で、たとえば青森県沖のでは、同一地点での再観察までに平均で42.5日(標準偏差6.1日)を要したという報告がある。[10]
一方で、南方の系でも目撃例はあるとされるが、映像の品質の問題から確定は保留されている。初期記録には誤同定が混ざっている可能性があるとも指摘されている。
生態[編集]
食性[編集]
食性は、微小発光甲殻類を中心に摂食すると考えられている。ただし“墨ゼリー”が獲物の感覚器に作用し、結果として捕食効率が上がる可能性があるとされる。観測映像では、墨の放出後に獲物が一瞬だけ“停止”する現象が見られたと報告されており、研究者はこれを「負の旋回誘導」と呼んだ。[11]
この停止が物理的に起きているのか、あるいは単に発光が消えているだけなのかは未解決であるが、いずれにせよ本種が墨を単なる防御物質ではなく、狩りの一部として扱っている可能性が示唆されている。
繁殖・社会性[編集]
繁殖様式は、群れというより“同期した個体の短期集合”として記述されることが多い。たとえば、集合は同日内に最大で10個体、深度帯は平均1020 mに収束し、翌日には拡散するという観察がある。[12]
社会性については、同種間の個体識別が行われる可能性があるとされる。硬化嘴の形状差が“匂い”ではなく微弱な振動パターンとして伝わるという説があり、海洋音響学者は「嘴は名刺である」と比喩したとされる。[13]
産卵場所は砂ではなく、海底の微小岩塊に付着するゼリー状基質であると推定されているが、基質が回収できないために裏取りは難航している。
人間との関係[編集]
人間との関係は、主に漁業と調査船の遭遇によって記録されてきた。とくに日本では、底引き網に絡む事故が相次いだ年があり、東京の沿岸研究機関は“事故率を下げるための曳航速度ガイド”を配布したとされる。曳航速度を0.8〜1.1ノットに維持すると絡まりが減ったという社内報告があるが、因果は確立していないとされる。[14]
また、海洋音響研究では本種の墨が反射体として働く可能性が取り上げられ、が運用する測定訓練で疑似墨媒体として扱われたという逸話が残っている。ここには、現場技術者が「本物の墨を使わずに済んだ」と語ったという記録があるとされるが、当時の文書が未公開であるため裏付けは弱いとされる。[15]
社会的影響としては、深海探索の成功率が上がるにつれ“見つかれば資源調査が進む”という投機的な期待も生まれ、結果として一部の地域で調査船のチャーター価格が高騰したと報告されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Mara K. Holt『Abyssal Pencil-Ink Cuttlefishes: Taphonomy and Acoustic Echoes』Mariner Academic Press, 2012.
- ^ 坂東 祐一『深海頭足類の嘴硬化と低温適応(第◯巻第◯号)』海洋生物学会誌, 2009.
- ^ Tetsuya Watanabe『北西太平洋海溝帯における曳航映像同定の誤差評価』第17回深海計測シンポジウム論文集, 2016.
- ^ R. P. Desrochers『Inking as a Sound-Reflective Medium: Hypotheses and Failures』Journal of Pelagic Acoustics, Vol. 41, No. 2, 2018.
- ^ 【要出典】海野 亮平『墨ゼリー薄膜の形成条件と吸盤鉤数の相関』深海生態研究所紀要, 第3巻第1号, 2020.
- ^ Eiko Marumo『海底段丘と頭足類の短期集合—42.5日周期の検証』日本海洋学会講演要旨, 2014.
- ^ S. N. Kwon『Cephalopod Taxonomy under Acoustic Constraints』International Review of Marine Classification, Vol. 9, No. 4, pp. 77-103, 2011.
- ^ 中村 清『“ポセイドン式回折板”と学名命名の越境(海洋資源計測庁アーカイブより)』計測史研究, 2022.
- ^ Yuki Tsuruta『ソロモン海溝系における誤同定の系譜(微小映像アーティファクトの章)』深海映像学年報, 第5巻第2号, 2017.
- ^ Larsen J. V.『Guide to Deepwater Cephalopods for Dockside Crews』Harborline Editions, 2003.
外部リンク
- Poseidoteuthis 記録データベース
- 北西太平洋深海音響ワークショップ
- 海洋資源計測庁(MRA)アーカイブ
- 陸奥深海調査域 監視ログ
- 鉛筆墨科研究者フォーラム