buniiiiiii
| 分野 | 音響言語学・広告音響設計 |
|---|---|
| 成立時期 | 1997年ごろ |
| 主な用途 | 記憶保持を目的とした発声合図 |
| 関連技術 | ホルマント反射推定・リズムマスク理論 |
| 普及媒体 | 商業ラジオ、路上劇、店頭BGM |
| 論争点 | 暗示性・依存性の倫理 |
buniiiiiii(ぶにいいいい)は、音響・言語・広告運用の交差領域で用いられたとされる合成語である。とくに「無意味だが記憶に残る」発声設計として、1990年代後半の商業ラジオと路上パフォーマンスに広く採用されたとされる[1]。
概要[編集]
は、意味を持たない音節列でありながら、聞き手の注意を一定時間だけ固定するとされる「発声合図」である。広告業界では「視聴者の脳内で勝手にリピートされる音」として説明されることが多い。もっとも、言語学的には無意味であることが前提とされ、どの媒体でも同じ結果が得られるわけではないとされる。
成立経緯としては、1990年代後半にが、雑踏環境で言葉が聞き取られない問題を解決するため、母音の連結と子音の抑制を極端に最適化した試作発声の愛称だったとする説明がある。そこに「長母音の引き延ばし」として8文字目以降の伸びを意図的に固定し、最終形がになったと語られている[2]。
ただし実際の現場では、呼びかけ手の体調やマイク位置で知覚が変わるため、発声者ごとに「微妙に違うbuniiiiiii」が派生したとも指摘される。結果として、個人の演技技能や劇団の訓練体系まで含めて「運用文化」として定着していったとされる。
定義と特徴[編集]
一般には、語としては扱われず、合図として扱われることが多い。構音としては「/b/から始まる閉鎖音→母音の連鎖→息の減衰を遅らせる」という順序が基本とされる。広告音響設計の資料では、この順序が注意の切り替えを遅延させるため「短いはずの音が長く感じられる」現象を引き起こすと説明されている。
また、の考え方を援用し、店頭スピーカーの反射特性に合わせて「i」の連続部のピッチ揺れ幅を固定したとされる。ある社内報告では、揺れ幅を±0.12セント以内に抑えると記憶再生率が上がったとされ、同社は「第3次プロトコル」と呼んだという[3]。
さらに、運用面では「聞こえたら反応する」ではなく「聞こえたあとに思い出して反応する」形を狙ったとされる。路上パフォーマンス側では、観客が拍手するタイミングを前倒しにしないため、発声の直後に沈黙を置く流儀が生まれたとされる。いわゆる『沈黙バッファ』である[4]。
歴史[編集]
前史:雑踏聴取の失敗から生まれた合成語[編集]
の前史としては、1990年代初頭の周辺で、交通情報の音声がノイズに埋もれ、視聴者が「聞こえた気がするのに内容が分からない」という苦情を出した事件があったとされる。そこで、の番組制作委託先が、単語の明瞭性ではなく「聞き逃しを減らす知覚の固定」を目的とする実験を始めた。
この流れは、当時の音響技術者(仮名扱いとされることが多い)による「言葉よりもリズム」という主張に支えられたとされる。彼は、意味が消えるほどに注意が音へ集約されるなら、最小限の音素材だけを残すべきだと論じたとされる。なお、この主張は当時の学会要旨では『第12回路面雑音研究会要旨』として扱われたという[5]。
その延長線で、が試作した発声のうち、「不自然だが笑ってしまう」のに「なぜか次に思い出す」というものがあり、それが「buniiiiiii」と呼ばれた。語源は「Bunch(束)」と「i(母音)」を冗談で混ぜたものだとされるが、社内では誰も記録を見せない慣行が残ったとされる。
1997年の商業実験と路上拡散:名古屋→渋谷の順に増えた[編集]
が実用段階に入ったのは1997年ごろである。資料によれば、まずの深夜ラジオ枠で、パーソナリティが「buniiiiiii」の代わりに合図を入れた。番組側は視聴者アンケートで「次の日に思い出した頻度」を測定し、実験前はだったのが、実験導入後はに上がったと報告されたという[6]。
その後、制作会社がスポンサーに提案し、渋谷区内の店頭BGMにも組み込まれたとされる。とくにの複数店舗で、同じ時間帯にだけ流れるよう「曜日・分・秒」まで台本化された。ある運用書では「毎時の第17秒にbuniiiiiiiを挿入し、直後の無音を0.78秒に固定する」と書かれていたとされる[7]。
路上拡散は、2001年の周辺で行われた一座のパフォーマンスがきっかけとされる。観客が真似をしてしまい、翌週には「buniiiiiiiを言うとチケットが当たりやすい」という噂が出回った。噂の根拠として、抽選確率を当てたという数字が当時の掲示に残っているが、真偽は定かではないとされる[8]。ただし、数字が残るほど「拡散した」ことは確からしいと記述されている。
制度化:広告音響委員会と“反暗示”規格[編集]
2004年以降、が「注意の固定」を過剰に生むのではないかという指摘が増えた。そこでのもとにが設置され、「反暗示規格」が策定されたとされる。規格では、合図の繰り返し間隔を最低確保し、連続投入は最大までとする案が採用されたという[9]。
一方で、反対派は「無意味だからこそ危険である」と主張した。彼らは、意味がない音は自己正当化の材料を提供せず、気づかないうちに条件づけが成立し得ると論じたとされる。実際、学生団体の報告では、被験者のうちが自宅で無意識に同じ母音連鎖を再現したとされ、これが“私的リハーサル”と呼ばれた[10]。
この議論の中で、運用側は「buniiiiiiiは言語ではなく儀式である」と説明するようになった。すなわち、儀式であるなら制度的に管理できるという姿勢で、委員会資料では儀式化の手順として、観客に対し「拍手の練習」を行う指導案が添付されたとされる。
社会的影響[編集]
は、広告・演劇・小売の境界を越える形で影響したとされる。とくに小売では、レジ待ちの短い時間で記憶が保持されるため、クーポン提示のタイミングを“後出し”にする運用が試された。ある商業施設の報告では、クーポン表示の直前に言葉を言わず、buniiiiiiiのみを挿入したところ、翌日再訪がからへ増えたと記されている[11]。
また、教育現場でも「音の合図」として応用されようとした。合唱部では、発声練習の前の号令としてbuniiiiiiiを使い、口形を整える目的が掲げられた。しかし、教育委員会の内部資料では、特定の生徒が“合図の後だけ感情が上がる”現象を訴えたことが記録されている[12]。このことは、音響設計が感情にも影響し得ることを示す例として回覧された。
さらに、都市文化では「buniiiiiiiを言えない人は仲間外れ」という誤解が一部で生まれた。路上で即興をする若者たちの間では、発声を上手く揃えられないと協調できないという評価がつき、結果として“上達”が一種のコミュニティ規範になったとされる。
批判と論争[編集]
をめぐっては、暗示性と倫理の問題が繰り返し指摘された。批判者は、意味がない音でも条件づけが成立し得るなら、広告倫理として検討されるべきだと主張した。とくに、規格で連続投入回数が制限されても、複数企業が別々に使用した場合の“合算効果”は管理しきれないとして懸念が示された。
一方、擁護派は「不快でも危険でもない」と反論した。擁護派は、音響計測上、buniiiiiiiは平均音圧が通常の店頭告知より低く、聴覚疲労を起こしにくいと主張したという。ある機関の報告では、聴取後の疲労訴えがで、従来告知のを下回ったとされる[13]。ただしこの報告はサンプル数が小さく、再現性に疑義が出たとされる。
論争の“おかしい部分”としては、2008年にの行政イベントで、buniiiiiiiを来場者向けの案内として採用したところ、なぜか会場の子どもが「係員が呼んでいる」と誤認して集まったという出来事がある。関係者は『係員の声色と紛らわしかった』と説明したが、現場の録音には“係員の発声”としてbuniiiiiiiが含まれていなかったとも指摘された[14]。この齟齬は、運用文化が“音の記憶”を上書きした可能性を示す逸話として語られている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高橋礼二『音響合図の設計原理:buniiiiiii以後』日本音響出版, 2006.
- ^ M. A. Thornton『Rememberability without Semantics: An Alternative Phonetic Cue Study』Journal of Applied Psychoacoustics, Vol. 41 No. 2, 2003.
- ^ 渡辺精一郎『雑踏聴取におけるリズム優位仮説』第12回路面雑音研究会要旨, pp. 33-58, 1995.
- ^ 佐久間千鶴『店頭BGM運用と注意固定の相関分析』商業音響年報, 第7巻第1号, pp. 12-27, 2009.
- ^ 田中章人『反暗示規格の策定過程:広告音響委員会報告』広報技術研究, Vol. 19 No. 4, pp. 201-244, 2005.
- ^ R. Calder & S. Iwata『A Study on Silence Buffers Following Phoneme Stretches』Proceedings of the International Conference on Sonic Behavior, pp. 77-89, 2010.
- ^ オルタ・サウンド研究所『第3次プロトコル:ホルマント揺れ幅±0.12セント制御』社内報告書, pp. 1-14, 1998.
- ^ 松原由紀『路上劇における合図の社会学:buniiiiiiiのコミュニティ化』演劇研究叢書, 第3巻第2号, pp. 55-73, 2012.
- ^ 大阪市広聴課『イベント案内音響の実態調査(抜粋)』大阪市報, pp. 3-19, 2008.
- ^ E. Nakamura『Private Rehearsal Phenomena in Nonsensical Cues』International Journal of Listener Behavior, 第2巻第6号, pp. 9-24, 2007.
外部リンク
- buniiiiiii 音響アーカイブ
- 広告音響委員会 資料閲覧室
- 路上パフォーマンス 合図集成
- 反暗示規格 ディスカッション掲示板
- ホルマント反射推定チュートリアル