pseudo.com
| 名称 | pseudo.com |
|---|---|
| 読み | ぷせうど・どっと・こむ |
| 分野 | インターネット文化、擬態通信、初期ウェブ史 |
| 提唱 | 1994年頃 |
| 提唱者 | 田島精吾、マーガレット・L・ソーン、他 |
| 発祥地 | 東京都千代田区神田周辺 |
| 主要用途 | 偽装サイト、共同掲示、匿名連絡 |
| 関連機関 | 日本擬態通信学会、国際半匿名ネットワーク協会 |
| 特徴 | サイト名と内容の乖離、再訪率の人工的増幅 |
| 流行期 | 1990年代後半 |
pseudo.com(プセウド・ドット・コム)は、にの小規模な運営者たちの間で提唱された、実在の会員制サイトと外見上区別がつかない「擬態型通信規格」である。主に、、およびを介した共同体形成の場として知られている[1]。
概要[編集]
pseudo.comは、外観上は通常のを持つでありながら、実際には利用者同士の関係性や信用の移送を主眼とする擬態型のである。名称が示す通り、表層の「本物らしさ」を意図的に維持しつつ、その内部では極端に曖昧な案内文、無意味に丁寧な利用規約、そして更新されない新着情報を用いる点に特徴があった[1]。
この方式は、初期における「信用される画面」と「信用できない中身」の逆転現象から発展したとされる。特にので、田島精吾が「中身より見出しが人を集める」と発言したことが契機になったという説が有力であるが、会議録の原本はではなく、なぜかの個人倉庫から見つかったとされており、要出典の代表例として引用されることが多い[2]。
歴史[編集]
前史と命名[編集]
pseudo.comの起源は、からにかけてのパソコン通信サロンで流行した、架空の海外会員サイトを装う遊びに求められている。参加者は実在しない英文のコーポレートメッセージを掲示し、受信者にだけ通じる略語を紛れ込ませることで、閉じた共同体を形成した。名称の「pseudo」は由来の擬似を示す語として説明されるが、実際には田島が喫茶店で見たの文字が大きすぎたため採用したという、やや不自然な逸話が残る[3]。
初期のpseudo.comは、サイトというよりも「更新しないことで存在感を増す装置」であった。日付欄にと記載されたページや、リンク先がすべて同一の「工事中」画像に置き換わる仕組みが好まれた。後年、この手法は型の擬態として分類されたが、当時の関係者は単に「見た目だけ事業部」と呼んでいた。
普及期と制度化[編集]
になると、pseudo.comは・・の三大都市圏を中心に、同人誌即売会の案内、古い音声メッセージ、イベント告知の代替として広く使われるようになった。とくにのレンタルサーバー業者が提供した「月額980円で10個まで“まるで本物っぽい”ページを持てる」契約が転機であり、登録件数は半年で推定4,800件から1万2,000件に増加したとされる[4]。
この頃、の前身組織である「半実在情報研究会」が設立され、pseudo.comを用いた連絡網の標準化が進められた。標準案には、トップページに意味の薄い社訓を3行入れること、更新履歴を必ず前月分で止めること、そして問い合わせ先をに限定することが含まれていた。特にfax限定は、閲覧者に「ここは何か大きな組織である」という印象を与える効果があったとされる。
転換期と衰退[編集]
以降、ブログとSNSの普及によってpseudo.comの優位性は低下した。誰もが自己紹介を頻繁に更新できるようになると、あえて中身の薄いサイトを維持する文化は奇妙なノスタルジーとして扱われるようになった。一方で、企業広報や行政委託事業の一部では、正式発表を装いつつ実態をぼかす表現技法として残存したともいわれる。
なおの文化振興課による調査では、区内の「pseudo.com的構成」を持つページのうち、実際にイベントを開催したのは31%にすぎず、残る69%は「今後の展開をお楽しみに」とだけ書かれていた。この数字はしばしば引用されるが、調査票そのものが紙焼きのまま行方不明であるため、厳密な信頼性は低い。
構造と作法[編集]
pseudo.comの基本構造は、トップページ、理念ページ、更新停止ページ、そしてアクセス解析だけが妙に精密な裏口ページから成るとされる。閲覧者は最初に整ったロゴと穏当な説明文を目にするが、リンクをたどるほどに内容が抽象化し、最終的には「準備中です」「関係者のみ」といった文言に収束するのが通例であった[5]。
また、利用者の間では「3回目の訪問で意味が分かる」と言われ、初回は見学、2回目は参加、3回目でようやく共同体の一部として扱われるという奇妙な慣行があった。これはよりも遅く、よりも速い心理的速度を目指したものとされ、心理学者のは「遅延同意の一種」と分類している。
一方で、管理者側が意図的に誤字を1つだけ残す手法も有名である。たとえば「お問い合せ」「ご案内」のような軽微な揺れを残すことで、機械生成ではない人間味が演出されるという。これを「1誤字1信頼原理」と呼ぶ研究者もいたが、実務上は単なる校正ミスと区別がつかない場合が多かった。
社会的影響[編集]
pseudo.comは、初期ウェブにおける自己呈示の様式を大きく変えたとされる。実在の組織であっても、あえて「何をしているのか分からないが、何か凄そうだ」と感じさせるページ設計が普及し、のちのやの広報ページにまで影響したという指摘がある[6]。
さらに、匿名掲示文化との親和性が高かったことから、地域サークル、同人イベント、趣味の研究会などで「本名を出さずに信用を作る」手段として用いられた。特にの古書店街周辺では、pseudo.comの名を冠した私設サーバーが10台以上稼働していたとされ、そのうち2台は実際には古い空気清浄機の筐体を改造したものであった。
ただし、広報担当者の間では「中身がないのに見栄えだけ立派」という問題も頻繁に批判された。2000年代初頭には、pseudo.com的手法が過剰に用いられた結果、資料請求の7割が「サイトは立派だが電話がつながらない」という苦情に変換されたとする調査もあるが、この統計は後年の講演資料からの孫引きであり、やや眉唾である。
批判と論争[編集]
pseudo.comをめぐっては、その「擬態性」が情報の誠実さを損なうのではないかという批判があった。特に、の市民団体が「pseudo.comは欺瞞を洗練させたものにすぎない」と抗議し、公共掲示板からの排除を求めたことがある。これに対し支持者は、「欺くのではなく、まだ確定していない存在を先に置いておく文化である」と反論した。
また、による2008年の会合では、pseudo.comは「創造的な未完成」として評価された一方、若手研究者の一部からは「単に更新をサボる口実ではないか」との厳しい意見も出た。会議の議事録には、懇親会で提供されたのラベルがすべて pseudo.com になっていたことが記録されているが、これは販促物の誤納入だった可能性が高い。
主要な人物[編集]
田島精吾は、pseudo.comの理論化において中心的な役割を果たしたとされる人物である。の印刷所で働きながらサイト設計を行い、ページの余白を「沈黙の機能」として扱ったことで知られる。彼の著作『空白は告知である』はに自費出版され、わずか240部ながら後年の研究者に頻繁に引用された。
マーガレット・L・ソーンは、出身のネット文化研究者で、pseudo.comを英語圏に紹介した張本人とされる。彼女はの短期滞在中に田島と知り合い、擬態サイトを「低解像度の信頼」と呼んだという。なお、ソーンが実在したかどうかについては一部の文献で疑義が出ており、名前だけが一人歩きした可能性もある[7]。
そのほか、保守派の管理者として知られる、自動更新スクリプトを導入した、そして伝説的な誤字担当である「みやびさん」などが語られる。みやびさんは毎回「お知らせ」を「お知らせえ」と1文字だけ崩し、これが閲覧者の記憶定着率を12%上げたとされるが、計測方法は不明である。
脚注[編集]
[1] 擬態通信研究会『初期ウェブにおける pseudo.com 現象』東京情報出版, 2009年。 [2] 佐伯倫太郎『神田仮設ネット会議議事録集』第2巻第4号, pp. 114-119, 2011年。 [3] Margaret L. Thorne, "On the Naming of Pseudo Domains", Journal of Internet Folklore, Vol. 8, No. 2, pp. 33-51, 2014. [4] 渡辺精一郎『レンタルサーバー産業と擬態サイトの拡大』情報社会評論, 第17巻第1号, pp. 9-28, 2006年。 [5] Hiroshi Kanda, "The Ethics of Empty Pages", Pacific Web Studies, Vol. 3, No. 1, pp. 77-92, 2002. [6] 田島精吾『空白は告知である』神田私家版, 1998年。 [7] M. L. Thorne, Pseudo-Structures and Semi-Anonymous Networks, Cambridge Harbor Press, 2012. [8] 日本擬態通信学会編『pseudo.com 年表と用例集』第1版, 2016年。 [9] 国際半匿名ネットワーク協会『2008年ボストン会合報告書』内部資料, 2009年。 [10] 斎藤みのり『工事中ページの美学』ウェブ文化研究, 第11巻第3号, pp. 201-220, 2018年。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 擬態通信研究会『初期ウェブにおける pseudo.com 現象』東京情報出版, 2009年.
- ^ 佐伯倫太郎『神田仮設ネット会議議事録集』第2巻第4号, pp. 114-119, 2011年.
- ^ Margaret L. Thorne, "On the Naming of Pseudo Domains", Journal of Internet Folklore, Vol. 8, No. 2, pp. 33-51, 2014.
- ^ 渡辺精一郎『レンタルサーバー産業と擬態サイトの拡大』情報社会評論, 第17巻第1号, pp. 9-28, 2006年.
- ^ Hiroshi Kanda, "The Ethics of Empty Pages", Pacific Web Studies, Vol. 3, No. 1, pp. 77-92, 2002.
- ^ 田島精吾『空白は告知である』神田私家版, 1998年.
- ^ M. L. Thorne, Pseudo-Structures and Semi-Anonymous Networks, Cambridge Harbor Press, 2012.
- ^ 日本擬態通信学会編『pseudo.com 年表と用例集』第1版, 2016年.
- ^ 国際半匿名ネットワーク協会『2008年ボストン会合報告書』内部資料, 2009年.
- ^ 斎藤みのり『工事中ページの美学』ウェブ文化研究, 第11巻第3号, pp. 201-220, 2018年.
外部リンク
- 日本擬態通信学会
- 初期ウェブ文化アーカイブ
- 国際半匿名ネットワーク協会
- 神田デジタル民俗資料室
- 工事中ページ博物館