だいしゅきホールド
| 別名 | 大好きホールド/強愛ホールド(非公式) |
|---|---|
| 分野 | 身体動作文化・イベント運用学 |
| 発祥とされる地域 | 東京都の一部(推定) |
| 成立時期とされる年代 | 平成後期(諸説あり) |
| 用途 | ファンサービス/記念撮影の安定化 |
| 関連用語 | ホールド判定/愛情圧/視線アンカー |
| 運用媒体 | 現場の口伝・簡易マニュアル・動画講座 |
| 規範の有無 | 明文化されないが慣行は存在するとされる |
だいしゅきホールド(だいしゅきほーるど)は、日本で流行したとされる対人接触コミュニケーション技術である。主にライブ会場や大型イベントで用いられる「短時間の保持」を意味するとされるが、起源や実態については複数の異説がある[1]。
概要[編集]
だいしゅきホールドは、観客側が「推し」を見つけた瞬間に、相手に不安を与えない形で身体の位置を短時間固定する所作であると説明される。一般的には、腕・肩・視線の三要素を同時に扱うため、雑に行うと危険であるとされている[2]。
成立の経緯は、声援の高まりを「ぶつからない形」に最適化したいという現場の要望から生まれたとされる一方、SNS上では「感情を物理で固める呪文のようなもの」とも語られており、意味が一枚岩ではない。なお、実務上は「何秒保持するか」「どの角度で腕をたたむか」をめぐるローカルルールが多数存在したとされる[3]。
語源と定義[編集]
名称の来歴(語源説)[編集]
名称は「だい(大)+しゅき(大好きの崩し)+ホールド(hold)」という、当時のネット言語の文法を混ぜ合わせた造語とされる。特に、横浜市のコミュニティが運用した「感情を掴む」プロジェクト資料では、「Holdは保持ではなく“視線の支柱”を指す」と注記されていたという[4]。
また、別説では、発祥が東京都の若手振付師の練習用スクリプトであり、母音のリズムを崩したまま関係者に共有した結果、現在の表記が定着したとされる。いずれの説においても、公式な学術的根拠より現場の口伝が優先される点が特徴である。なお、この慣行は「言葉だけが先に増殖した」例として、イベント運用研究会でしばしば扱われた[5]。
技術的な定義(運用要件)[編集]
技術要件は、文献上「愛情圧(a)」と呼ばれる圧のような比喩要素により説明されることがある。これは実測の圧力ではなく、心理的距離が縮む感覚を数値化した“暫定指標”として扱われたためであるとされる。たとえば当時の簡易講座では、「保持は0.9秒から1.3秒が望ましい」「視線はアンカー方向から外さない」などの目安が掲げられた[6]。
ただし、保持時間を1.4秒以上に伸ばすと、隣の観客の身体と干渉しやすくなるとされ、会場によっては注意喚起が行われた。ここでいう干渉は、単なる物理衝突だけでなく、相手が“見られている感”に戸惑う状態まで含むと説明されている。いわゆる迷惑行為との線引きは曖昧であり、後述する批判の中心になった[7]。
歴史[編集]
前史:ファンサの“固定化”をめぐる試行[編集]
だいしゅきホールド以前にも、握手会や撮影会で「手をどの位置に置くか」が問題になった時期があった。とりわけ大阪市の一部の会場では、整列導線が複雑で、合図が遅れると身体が詰まりやすかったとされる。
その対策として、運用担当者が「合図後の“形”を決め打ちする」仕組みを導入し、複数の所作を短時間に統一することで混乱を抑えようとしたという。これがのちに、保持という概念を中心に据える発想につながったとされている[8]。
成立:『第1回 しゅき保持講習』と動画拡散[編集]
成立の契機として、に渋谷区で開催された『第1回 しゅき保持講習』が挙げられる。講習は東京都の青少年文化局系の「短時間コミュニケーション適正化」事業に紐づいて実施されたとされるが、実施主体の名称は資料によって微妙に異なり、ここでは「まなびサポート室」として整理されることが多い[9]。
講習では、保持を“技”として教えるために、測定用の巻尺と簡易角度計(アプリ)を配布したと伝えられる。記録によれば参加者120名のうち、当日の自己申告で「不安が減った」と答えた人が71名(59.2%)だったと報告された[10]。さらに、講師が同じ所作を20回繰り返してから撮影に入る動画が拡散し、「だいしゅきホールド」の名称が全国に広がったとされる。
派生と社会への影響:安全と熱量の相克[編集]
普及後は、会場ごとの文化に応じて派生が増えた。たとえば、通称「新幹線タイプ」は移動導線で短く保持し、通称「ドームタイプ」は視線アンカーを長めに固定するなど、類型化が進んだとされる。
この結果、熱量の高いファンほど保持時間が長くなりやすい傾向が指摘され、会場側は“過剰保持”を抑える注意表示を掲げた。一方で、運用側は「保持が早いと感情が届かない」という主張に押され、統一基準の策定が遅れたとされる[11]。この揺れは、SNS上で「安全のための技術」か「感情の競技」かをめぐる論争に発展した。
だいしゅきホールドに関連する技法・用語[編集]
だいしゅきホールドをめぐっては、現場で通用する周辺用語が形成された。代表例として、視線が合った瞬間に“逃げ場”を作るための角度を「視線アンカー」と呼ぶことがある。これは相手の表情を読み取る目的と説明される一方、動画講座では“画面映え”を理由に強調されたとされる[12]。
また、腕の位置を微調整する動作は「ホールド判定」と呼ばれ、保持前に手首の方向を確認してから固定する手順として扱われた。講座によっては、判定に要する時間を「0.27秒以内」としているものもあり、細かな数値が独り歩きした。なお、この数値は実測ではなく“目視で揃える”練習に由来するとする指摘もある[13]。
さらに、感情を押し付けるのではなく“届くように置く”という比喩として「愛情圧」という語が使われた。だが、比喩が先行して意味が固定されないため、批判の局面では「物理圧のように振る舞う行為」と誤解されやすいとして問題化した[14]。
批判と論争[編集]
批判は主に、境界が曖昧である点から起こった。「だいしゅきホールドは安全のための所作」と説明される一方で、保持が長引くと身体接触に近い印象を与えるため、嫌悪感を生む可能性があるとされる。特に、千葉県の一部会場で撮影規制が強化された際に、保持が“撮影の邪魔”として解釈された例が報告された[15]。
また、熱心な利用者の間では保持時間の競争が起き、「1.8秒ホールド成功」「2秒ホールドは玄人」などの投稿が増えたとされる。これに対して、イベント運用の安全ガイドラインでは「最大保持時間を1.3秒に再設定するべき」とする意見が出たが、現場の文化が反発したと記録されている[16]。
さらに、一部研究者は「この名称は“好意の競技化”を促した」と指摘した。もっとも、反対側は「技術が普及したことで結果として接触が減った」という統計を提示し、論争は完全には決着していないとされる。なお、当該統計の元データは公開されていないとも述べられているため、要注意な点として扱われることがある[17]。
関連事件の“現場史”風エピソード[編集]
の夏、名古屋市の大型フェスで「愛情圧オーバー事件」と呼ばれる出来事があったとされる。ある観客が“記念のため”に保持を2.0秒に伸ばし、結果として隣の観客の足がわずかに引っかかったという。負傷自体は軽微だったが、会場運用担当が“事故防止の観点”から注意喚起を強化し、その後にだいしゅきホールドの講習会が臨時で実施されたとされる[18]。
一方で、好意的な事例も語られる。たとえばの撮影会では、スタッフが「保持は相手の視界に入る位置で」と再説明したところ、問い合わせ件数が前月比で42%減少したと報告された[19]。ただし、この問い合わせ件数の定義が“迷惑行為”に限らない可能性があるとして、後の検証で揺れが出たという。
このように、だいしゅきホールドは安全にも歓迎にも寄与しうる所作として語られ、同時に“誤解されやすい合図”としても残っている。その二面性が、いまも話題として保持され続けている理由であるとする見方がある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中悠里『推し接触の現場解剖:保持という技術』青林出版, 2017.
- ^ Margaret A. Thornton『Micro-gestures in Crowd Interaction』Routledge, 2015.
- ^ 鈴木克彦『ライブ会場の身体運用学—1秒の設計』講談社サイエンス, 2014.
- ^ 内田美緒『視線アンカー論:観客行動の暫定指標とその混乱』日本イベント心理学会, 第12巻第3号, pp. 41-62, 2019.
- ^ Katsuro Watanabe『Holding Practices and Perceived Distance』Journal of Applied Social Motion, Vol. 8 No. 2, pp. 77-96, 2016.
- ^ 【渋谷】まなびサポート室編『第1回 しゅき保持講習報告書(暫定版)』私家版, 2012.
- ^ 佐藤圭『愛情圧という比喩の再検討—“技”の誤読問題』社会身体研究, 第5巻第1号, pp. 9-33, 2020.
- ^ 池田慎二『撮影会運用の統計学:問い合わせの定義をめぐって』東京映像学会, 2018.
- ^ Lina Park『The Competitive Affective Gesture』International Review of Performance Studies, Vol. 21, pp. 201-219, 2018.
- ^ 山本慎吾『だいしゅきホールド大全』河出ミーム文庫, 2016.(題名が一部不自然であるとの指摘がある)
外部リンク
- だいしゅきホールド公式講習アーカイブ
- イベント運用学メモ帳
- 視線アンカー研究室
- 愛情圧ディスカッション掲示板
- 身体動作ミーム年表