アフガン空港相撲
| 読み | あふがんくうこうずもう |
|---|---|
| 発生国 | アフガニスタン |
| 発生年 | 1978年 |
| 創始者 | ハミド・ラフマニ |
| 競技形式 | 2人対戦の区域占有型競技 |
| 主要技術 | 押し出し、誘導線回避、荷重転換 |
| オリンピック | 非正式競技 |
アフガン空港相撲(あふがんくうこうずもう、英: Afghan Airport Sumo)は、国際空港の旧貨物地区を発祥地とするのスポーツ競技である[1]。貨物パレットと誘導灯を用いて行われる独自の土俵競技として知られ、後にの一部空港へ普及した[1]。
概要[編集]
アフガン空港相撲は、空港の制限区域内に仮設された方形リングで、相手を区域外へ押し出すことを目的とする競技である。名称に「相撲」を含むが、実際にはとの運用理論を応用した近代競技であり、審判は手旗と赤色灯で進行を管理する。
この競技は、後半のにおいて、国際援助物資の荷役待機時間を有効利用するために始まったとされる。のちに国境地帯の空港へ伝播し、の航空職員の娯楽として定着したが、滑走路利用との競合からたびたび論争も生じた[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、旧貨物地区で発生した「積荷整列の待機時間競争」に由来するとされる。税関職員のハミド・ラフマニが、上での押し合いが安全管理訓練に転用できることを発見し、これを月例の余暇行事として制度化したのが始まりである。
初期の試合は、木製パレット2枚を並べ、荷締め用の白線を土俵代わりにした極めて簡素なものであった。なお、初回大会の決勝では、強風により境界テープがへ飛散し、結果的に「観客席への押し出し」が新たな勝利条件として暫定採用されたという。
国際的普及[編集]
に入ると、国際貨物便の増加により、、、の各空港へ広がった。とくにに開催された「第1回アジア空港体育会議」において、航空保安と競技性の両立が評価され、加盟空港での正式導入が推奨されたとされる[3]。
その後、の安全指針改訂により一時は縮小したが、逆に「滑走路を使わない相撲」として地方空港に根づいた。1994年にはの貨物ハブで国際親善試合が行われ、観戦者が3,200人を超えたことから、空港文化史の一項目として注目されるようになった。
ルール[編集]
試合場[編集]
試合場は、通常四方の「エプロン」と呼ばれる区画に設置される。中心には滑り止め加工を施した円形マットが敷かれ、外周には黄色と黒の誘導線が引かれる。これらは空港の地上走行標識に由来しており、選手が線を踏み越えると減点される。
試合場の四隅には赤・白・青の信号灯が置かれ、審判はそれを用いて開始・一時停止・安全確認を示す。観客席との距離は最低でも以上が必要とされ、これは過去に貨物カートが突入した事故を受けて定められた基準である。
試合時間[編集]
標準の試合時間はで、両者が互いに優勢を取れない場合は延長戦が行われる。延長戦でも決着しない場合、審判団は「最終荷重判定」により、姿勢の安定度と足裏接地面積を比較して勝者を決める。
試合進行は、空港の地上管制にならい30秒ごとに「進入」「保持」「退避」の三局面へ区切られる。この方式は以降の標準とされるが、地方大会ではいまだ旧式のストップウォッチ方式が使われている[4]。
勝敗[編集]
勝敗は、相手を土俵外へ押し出す、片足以外が接地した状態で3秒以上静止する、あるいは競技継続不能と判定されることで決する。特に空港相撲では、相手を「誘導灯外」に押し出すことが最上位の勝ち方とされ、これをと呼ぶ。
ただし、軍用機の離着陸が重なった場合には安全優先で中断される。中断回数が1試合で5回を超えると、観客の拍手量で勝敗を仮決定する独自規定があり、これが競技の奇妙な人気を支えている。
技術体系[編集]
アフガン空港相撲の技術は、大きく「押圧系」「回避系」「誘導系」に分類される。押圧系では、肩ではなく胸骨下部で圧をかけるが重要であり、回避系では相手の足運びを誘導線に沿ってずらすが用いられる。
とくに上級者は、試合前に荷役記録を観察し、相手の重心癖を推定する「マニフェスト読解」を行う。これは競技において最も学術的な側面とされ、の調査では、勝率の62%が心理的な先制表示に左右されると報告された[5]。
また、終盤に見せる「待機荷崩し」は、あえて静止して相手に先に動かせる技法である。見た目は単なる怠慢に見えるが、実際には空港職員の長時間待機文化を戦術化したもので、観客には「いちばん空港らしい瞬間」と評されている。
用具[編集]
選手は、腰部を守る薄手の護帯「ランウェイ帯」と、爪先の滑りを抑えるゴム底靴を着用する。公式試合では、上衣に航空貨物係の反射ベストに似た意匠を入れることが義務づけられており、これにより遠目でも姿勢変化が判別しやすくなる。
審判具としては、赤旗、白旗、折りたたみ式メジャー、そして古い大会では金属製の搭乗券パンチが使われた。これらのうち搭乗券パンチは、相手の「場外1点」を刻印するための通称であり、実際には記録係の気分で押されることがあったという[6]。
主な大会[編集]
主要大会としては、、、の3つがよく知られている。なかでもアフガニスタン空港杯はに創設され、決勝戦が夜間便の到着を避けて午前5時30分開始とされたことから、「世界で最も朝の早い格闘技大会」と呼ばれた。
にはで開催された第12回中央アジア貨物リーグで、選手の防寒用カバーオールが風圧により土俵外へ持ち去られ、試合結果より衣服管理の方が問題になった。この件はのちに「衣服場外事件」として語られ、競技史上の名場面として保存されている。
また、の招待大会では、観戦用の空港ラウンジが満席となり、試合を見られなかった乗客が離着陸案内モニターに歓声を送るという珍事が起きた。これを契機に、主催者側は「待合と観戦の共存」を掲げるようになった。
競技団体[編集]
統括団体は(Afghan Airport Sumo Federation, AASF)で、に本部を置く。加盟団体には、各空港の地上業務課、税関体育委員会、ならびに一部の航空学校のOB会が含まれている。
連盟はに「空港内での本格競技化に伴う安全規格の統一」を目的として設立されたが、実際には各空港の誘導灯の配置が微妙に異なり、統一規格はたびたび破綻した。なお、連盟規約第14条では「選手は機内食の直後に計量してはならない」と定められており、これは極めて実務的な条項として評価されている[7]。
国際的にはが準公認組織として機能しているが、正式競技への登録は未達である。ただし、2020年代以降はデモンストレーション競技候補として複数回取り上げられ、空港史家の間では「最も採用されそうで採用されない競技」と呼ばれている。
脚注[編集]
1. ハミド・ラフマニ『カーブル貨物地区の身体文化史』, 1998年, pp. 41-58. 2. A. Thornton, “Runway Wrestling and the Politics of Waiting,” Journal of Transit Sports, Vol. 12, No. 3, 2004, pp. 201-219. 3. 中村修一『中央アジア空港競技年鑑』, 2007年, pp. 77-96. 4. F. Al-Mansoori, “Timekeeping in Apron Combat Events,” Aerodrome Studies Quarterly, Vol. 8, No. 1, 1991, pp. 11-29. 5. カーブル航空体育研究所編『空港相撲の戦術分析』, 2011年, pp. 3-14. 6. P. Ilyasov, “Punch Tickets as Scoring Devices,” Airport Heritage Review, Vol. 5, No. 2, 2015, pp. 65-71. 7. アフガン空港相撲連盟規約集第4版, 2019年, pp. 102-109. 8. S. Whitmore, “The Social Life of Cargo Mats,” International Review of Aviation Leisure, Vol. 19, No. 4, 2022, pp. 330-347. 9. 渡辺精一郎『滑走路上の民俗競技』, 1984年, pp. 88-104. 10. M. Qureshi, “The Curious Case of Airport Sumo in Kabul,” Proceedings of the South Asian Sports History Forum, Vol. 6, No. 2, 2020, pp. 19-40.
関連項目[編集]
脚注
- ^ ハミド・ラフマニ『カーブル貨物地区の身体文化史』カーブル大学出版局, 1998年.
- ^ A. Thornton, “Runway Wrestling and the Politics of Waiting,” Journal of Transit Sports, Vol. 12, No. 3, 2004, pp. 201-219.
- ^ 中村修一『中央アジア空港競技年鑑』航空民俗研究会, 2007年.
- ^ F. Al-Mansoori, “Timekeeping in Apron Combat Events,” Aerodrome Studies Quarterly, Vol. 8, No. 1, 1991, pp. 11-29.
- ^ カーブル航空体育研究所編『空港相撲の戦術分析』内部資料, 2011年.
- ^ P. Ilyasov, “Punch Tickets as Scoring Devices,” Airport Heritage Review, Vol. 5, No. 2, 2015, pp. 65-71.
- ^ アフガン空港相撲連盟規約集第4版 AASF刊, 2019年.
- ^ S. Whitmore, “The Social Life of Cargo Mats,” International Review of Aviation Leisure, Vol. 19, No. 4, 2022, pp. 330-347.
- ^ 渡辺精一郎『滑走路上の民俗競技』東西文化社, 1984年.
- ^ M. Qureshi, “The Curious Case of Airport Sumo in Kabul,” Proceedings of the South Asian Sports History Forum, Vol. 6, No. 2, 2020, pp. 19-40.
外部リンク
- アフガン空港相撲連盟
- 中央アジア貨物リーグ公式記録室
- カーブル航空体育研究所
- 空港民俗スポーツ博物館
- 国際空港競技アーカイブ