インパラ鰻
| 名称 | インパラ鰻 |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 脊索動物門 |
| 綱 | 条鰭綱 |
| 目 | インパラ鰻目 |
| 科 | インパラ鰻科 |
| 属 | インパラ鰻属 |
| 種 | I. anguiliformis |
| 学名 | Impala anguiliformis |
| 和名 | インパラ鰻 |
| 英名 | Impala Eel |
| 保全状況 | 準絶滅危惧(湖沼域限定) |
インパラ鰻(いんぱらうなぎ、学名: ''Impala anguiliformis'')は、に分類されるの一種[1]。細長い躯体と跳躍に近い遊泳を特徴とし、の高地湖沼域に固有の生物として知られている[2]。
概要[編集]
インパラ鰻は、ケニアから北部にかけての高地湖沼に生息する、鰻に似た体型を持つ淡水魚である。現地では「湖を跳ねる糸状の獣」とも呼ばれ、夜間に水面へ半身を出して移動する習性があるとされている。
本種は初頭にの採集記録へ断片的に現れたのが最初期の文献とされ、その後所蔵の未整理標本を契機に再評価が進んだ。体表に細かな反射鱗を持ち、乾季には泥中で半休眠する点が大きな特徴である[3]。
分類[編集]
インパラ鰻は、のうち、細長い体形と気泡補助泳法を示す系統に置かれている。分類学上は1目1科1属1種とする説が有力であるが、のらは、近縁群を含む「準鰻類複合群」として再編すべきだと主張している。
学名''Impala anguiliformis''は、に南岸で調査を行ったが仮記載したものに由来する。ただし命名の経緯には不明点が多く、標本ラベルにあった「impala-like eel」のメモをそのまま転記した可能性が指摘されている[要出典]。日本語名は、細長い体を「鰻」に、跳躍性のある遊泳をにたとえた昭和後期の和名整理で定着したとされる。
形態[編集]
成体は全長38〜71cmほどで、雌の方がやや大型になる。頭部は扁平で、口裂は前方へ斜めに開く。背面は灰緑色から黒褐色、腹面は銀白色を示し、特に側線に沿って青白い帯が現れる個体が多い。
最大の特徴は、胸鰭基部にある半月状の筋肉束である。これにより本種は短距離の加速時に水中を「跳ねる」ように進み、浅瀬では尾を使って1回あたり約1.3〜1.8mの跳躍移動を行うと記録されている。なお、乾燥した岸辺で見られる「地上移動」は、実際には濡れた石の上を滑走しているに過ぎないとする説もあるが、地元漁民の間では今なお半信半疑で語られている。
眼は大きく、虹彩は金属光沢を帯びる。夜間には瞳孔が不自然なほど細くなり、これが「針穴の目」と呼ばれる民間名の由来とされる。また、嗅覚器は発達しているが、尾部の震動感知に強く依存するため、泥水中でも餌の位置を正確に把握できる。
分布[編集]
本種はの高地湖沼に分布し、特に南東縁の半塩性水域、流入河川、周辺の火山性池沼で記録が多い。標高1,100〜2,400mの水温変化が大きい環境を好み、年間降水量が700mmを下回る年には分布域が著しく縮小するとされる。
一方で、州の溶岩洞窟内からも若い個体群が見つかっており、これらは通常個体とは異なる「洞窟適応亜系」とする見方がある。1998年の調査では、北部で3夜連続して同一地点に現れた個体が衛星追跡装置を装着されたが、翌朝には装置だけが岸に残されていたため、研究者の間で小さな論争になった[4]。
生態[編集]
食性[編集]
インパラ鰻は雑食性で、小型甲殻類、ユスリカ幼虫、沈水植物の柔組織を食べる。とりわけ湖底の藍藻被膜を削り取る行動がよく知られ、1個体が一晩で約14gの付着藻類を除去すると推定されている。これにより局所的には水質浄化に寄与する一方、養殖池では稚魚の餌を横取りする害魚として嫌われることもある。
ただし、乾季の終盤には果実食傾向が強まり、岸辺に落ちた状の果実を集団で運搬する行動が観察されている。これを「果実の押収」と呼ぶ研究者もいる。
繁殖[編集]
繁殖期は雨季開始直後で、雄は胸鰭を半開きにして震わせる求愛行動を示す。雌は水草の根元に直径2〜4mmの卵を200〜480粒産み付け、孵化までのおよそ9日間、雄が周囲の砂を扇いで酸素供給を補助する。
興味深いことに、産卵床の上に塚の破片を置くと孵化率が12%前後上昇するという報告があり、のは、ミネラル供給ではなく微弱な振動遮蔽効果ではないかと推測している。なお、この仮説は一部の査読で強く疑問視されている。
社会性[編集]
本種は単独性が強いが、夜間の浅瀬では3〜11匹程度の小群を形成する。群れは厳密な順位制ではなく、先頭個体が最も泥を巻き上げるため後続が視界を失いにくい、という実用的な連携で維持されている。
また、干上がりかけた水たまりでは、複数個体が尾で円を描いて残水を集める「井戸掘り様行動」が見られる。これにより小規模な生存水域が形成され、同所的なカエル類や小型ナマズ類まで恩恵を受けるため、現地では「湖の下請け業者」とも呼ばれている。
人間との関係[編集]
インパラ鰻は、系の一部集落では古くから干物として利用され、特に雨乞い儀礼の供物として重視されてきた。体表の銀白色が稲妻を連想させるため、稲光の少ない年ほど高値で取引されたという。19世紀末には、商人が塩漬け標本をへ運び、食用というより「薬効のある奇妙な魚」として売り出した記録が残る。
にはが本種の試験的養殖に着手し、3年で失敗した。最大の理由は、養殖池の縁を乗り越えて隣接する稲田へ移動してしまう個体が続出したためである。この失踪事件を受け、地元新聞『』は「魚か、それとも湿地の山羊か」と報じた[5]。その後、の研究チームが低電圧刺激による移動抑制を試みたが、逆に繁殖率が上がったとされる。
近年はとの共同調査により、湿地復元の指標種として注目されている。ただし、観光客向けの「インパラ鰻ナイトウォーク」は、実際には研究員が懐中電灯で泥面を照らし続けるだけの地味な催しであり、口コミほどの跳躍は見られない。
脚注[編集]
[1] 所蔵の未公開標本台帳、標本番号IM-37-12。 [2] J. M. K. Bwire, "Highland lacustrine elongates of East Africa", Vol. 12, No. 4, pp. 201-239. [3] 『東アフリカ淡水魚誌』、、pp. 88-91. [4] P. L. van der Meer, "Satellite tags and missing reels in Rift Valley eels", Vol. 8, No. 1, pp. 14-29. [5] 『East African Herald』7月14日付、3面。 [要出典] 産卵床に白アリ塚破片を置くと孵化率が上昇するという報告は、追試が少ない。
関連項目[編集]
脚注
- ^ Merriweather, H. W.『Reappraising the Anguiliform Analogues of East Africa』Cambridge University Press, 1948.
- ^ Njoroge, A. et al. "Reproductive Microhabitats of Impala anguiliformis" Journal of Rift Valley Biology, Vol. 21, No. 3, pp. 145-176.
- ^ de Ruvigny, É.『Notes sur un poisson bondissant des lacs d'altitude』Musée Colonial d’Histoire Naturelle Bulletin, 第7巻第1号, pp. 1-18.
- ^ Bwire, J. M. K. "Seasonal Estivation in Elongate Teleosts" African Freshwater Studies, Vol. 12, No. 4, pp. 201-239.
- ^ 佐伯 恒一『東アフリカ湖沼魚類の分類再編』海鳴書房, 1971.
- ^ Okoth, P. "Dietary Shifts in the So-Called Impala Eel" University of Nairobi Zoological Papers, Vol. 5, No. 2, pp. 33-60.
- ^ 『東アフリカ淡水魚誌』第3巻第2号, 1939, pp. 88-91.
- ^ van der Meer, P. L. "Satellite Tags and Missing Reels in Rift Valley Eels" Hydrobiologia Orientalis, Vol. 8, No. 1, pp. 14-29.
- ^ 田村 玲子『湖を跳ねる魚たち』海鳥社, 1984.
- ^ Wanjiku, M. "Mineral Shelters and Termite Debris in Spawning Success" Bulletin of the Mombasa Marine Biology Institute, Vol. 9, No. 1, pp. 77-83.
外部リンク
- ナイロビ自然史博物館デジタル標本庫
- 東アフリカ淡水魚研究会
- タンザニア国立博物館 動物相アーカイブ
- 東京海洋大学 湿地生態共同研究室
- リフトバレー生物多様性年報