エイドス・ヴァース1
| タイトル | エイドス・ヴァース1 |
|---|---|
| 画像 | Eidos_Verse_I_boxart.png |
| 画像サイズ | 280px |
| caption | 北欧版パッケージに描かれた「観測窓」 |
| ジャンル | 観測型ロールプレイングゲーム |
| 対応機種 | ノクスX、ミラー・ポケット |
| 開発元 | ヴェクトル・ノード社 |
| 発売元 | ルミナ・インタラクティブ |
| プロデューサー | 久慈 玲子 |
| ディレクター | A. F. ハーグレイブ |
| デザイナー | 相沢 達哉 |
| プログラマー | Milo S. Keene |
| 音楽 | ハンナ・ヴェルナー |
| シリーズ | エイドス・ヴァースシリーズ |
| 発売日 | 2012年11月18日 |
| 対象年齢 | 14歳以上 |
| 売上本数 | 全世界累計412万本 |
| その他 | 初回版に「観測ログカード」同梱 |
『エイドス・ヴァース1』(英: Eidos Verse I)は、2012年にヴェクトル・ノード社が考案したコンピュータゲームである。通称は「EV1」で、後年の観測型ロールプレイングゲームの始祖・元祖であるとされる[1]。
概要[編集]
『エイドス・ヴァース1』は、2012年に北欧圏で急速に普及したノクスX向けソフトとして発売された観測型ロールプレイングゲームである。プレイヤーは「観測者」として、崩壊寸前の記憶宇宙を巡回し、他者の行動を記録しながら物語を分岐させていく。
本作は、後に「会話を読むゲーム」から「観測して崩すゲーム」へと用語が移行する契機になったとされる。実際にはミラー・ポケット版の同梱マニュアルに記された半分冗談の設計思想が独り歩きしたものであるが、発売当時のゲーム雑誌各誌はこれを真顔で新潮流として扱った[2]。
ゲーム内容[編集]
システム[編集]
ゲームシステムの特徴として、各マップが「固定された地形」ではなく「観測のたびに3.7%だけずれる位相地図」で構成されている点が挙げられる。プレイヤーは観測窓を開閉することで周囲のNPCの記憶を再配置でき、同じ部屋を連続で覗くと家具の位置が少しずつ変わる。
また、戦闘は一般的なロールプレイングゲームのコマンド式ではなく、「注視」「逸らす」「記録する」の3系統に分かれる。とくに「逸らす」は敵の攻撃を回避するだけでなく、相手の存在確率そのものを下げる効果があり、発売後しばらくは不具合と誤認された。
戦闘[編集]
戦闘では、敵のHPではなく「整合度」を削る仕組みが採用されている。整合度が0になると敵は倒れるのではなく「設定書へ退避」し、後の周回で名前だけ変えて再登場することが多い。
一方で、ボス戦では例外的に「観測疲労」が導入され、30分以内に7回以上同じ行動を続けるとプレイヤー側が先に混乱する。これにより、上級者の間ではメモ帳を片手に遊ぶ習慣が生まれた。
アイテム[編集]
アイテムは「回復薬」「鍵」といった分かりやすいものではなく、「未送信のはがき」「折り畳まれた駅時刻表」「誰のものでもない帽子」など、用途が曖昧な品が中心である。特定のアイテムは現実時間の深夜2時14分にしか使用できず、これが攻略本の誤植と結びついて都市伝説化した。
なお、初回限定の「観測ログカード」には全64枚のうち1枚だけ存在しない番号があり、流通各社が誤って補充したため、地域によってはカード番号17が二種類ある。
対戦モード[編集]
対戦モードは、2人のプレイヤーが同一マップを別々の観測位置から操作する非同期対戦である。相手が見ている部屋に自分が干渉すると、その部屋は「過干渉状態」となり、以後10ターンのあいだ全ての家具が喋り出す。
このモードは当初おまけ扱いであったが、国内の大会では「開幕3観測で勝敗が決まる」と評され、競技シーンの一部で異様に発展した。
オフラインモード[編集]
オフラインモードは、実際には電波を必要としないという意味ではなく、「接続先が自分の記憶である」ことを指す。プレイヤーは断片的な過去ログのみを使って街を再構成し、失われた住民名簿を埋めていく。
この仕様のため、発売日から約2週間はセーブデータが会話履歴に上書きされる事象が多発し、ユーザーの間で「既読エンディング」と呼ばれた。
ストーリー[編集]
物語は、架空都市ネーヴァ港区に設置された巨大観測塔「エイドス・ドーム」を中心に展開する。主人公は、記録された歴史が毎晩少しずつ改竄される現象を止めるため、消えた第1位相の住民を追跡する。
中盤では、主人公自身が「記録のために生まれた人物」である可能性が示され、プレイヤーの選択によっては、自分の名前がスタッフロールから消える結末に至る。シリーズ内でも特に有名な場面として、パン屋の店主が「昨日までの私を、今日は何と呼ぶ?」と問いかける台詞があり、当時のファンサイトではこの一文だけで3か月議論が続いた。
終盤、世界は「エイドス層」と呼ばれる多重記憶の海に沈み、主人公は都市全体の出来事を一度だけ巻き戻す選択を迫られる。ただし巻き戻した結果、戻るのは時間ではなく郵便番号であるため、異なる地区が入れ替わって復興するという奇妙な結末が用意されている。
登場キャラクター[編集]
主人公[編集]
主人公は、プレイヤーが任意の名前を設定できる「観測者」である。公式資料では便宜上「リオ・カグラ」と呼ばれているが、これは開発中に仮入力されたテスト名がそのまま残ったものとされる。
彼/彼女は観測局の臨時職員として登場し、実際には住民票を持たない。にもかかわらず、後半では市長選に立候補できる分岐があり、選挙カーの演説だけで整合度が上がる。
仲間[編集]
仲間キャラクターには、記憶保存技師のミラ・オルソン、地図修復士の東条 宗一、そして会話が常に2秒遅れて聞こえる少年ノアがいる。とりわけミラは、持っている工具箱の中身が毎章1個ずつ増えるため、攻略班の間で「内部制作資料そのものではないか」と噂された。
東条は本作の説明書にだけ登場する設定上の人物でもあり、発売後しばらくしてからゲーム内に実装されたため、資料系メディアでは「後追いキャラクター」と呼ばれている。
敵[編集]
敵は「欠落者」「逆走商人」「未命名の管理者」など、役割がそのまま名称になっている者が多い。なかでも「第七記録官」は、戦闘前に毎回プレイヤーの現在時刻を読み上げるため、深夜プレイ時の没入感が高いと評判であった。
ただし最終局面の敵「ヴァース・アーカイヴ」は、攻撃より先にプレイヤーの選択履歴を褒め始めるため、初見では倒し方が分からないことが多い。
用語・世界観[編集]
本作の世界では、歴史は年表ではなく「観測密度」によって固定されるとされる。たとえば2012年のある週だけ、東京都とネーヴァ港区が同時に記録されるという設定があり、資料集ではこれを「並行地誌」と呼んでいる。
また、作中用語の「ヴァース」は、宇宙を意味するわけではなく、街区ごとに流通する会話テンポの単位である。公式ガイドブックでは「1ヴァース=住民12.4人分の記憶圧」と説明されているが、根拠は明示されていない[要出典]。
このため、プレイヤーの間では「世界観を理解するほど迷子になる作品」として知られている。なお、開発側はこれを仕様ではなく、都市そのものがそうしたがっているためだと説明していた。
開発・制作[編集]
制作経緯[編集]
制作は2009年、ヘルシンキで行われた小規模な学内展示「可視化されない遊び」の発表物をもとに始まったとされる。企画者の久慈 玲子は、当初は教育用ソフトとして申請していたが、提出書類の一部が誤ってゲーム部門に送付され、そのまま正式企画になったという。
当時の社内資料では本作は「会話の隙間を遊ぶ試作」と記されており、完成版のような壮大な設定は後から追加された。もっとも、設定の7割は会議中に壁へ貼られた付箋から生まれたといわれる。
スタッフ[編集]
ディレクターのA. F. ハーグレイブは、前職が地図製作会社の検査員であり、画面端の情報密度に異常なこだわりを示した人物として知られる。プログラマーのMilo S. Keeneは、バグを「未観測状態」と呼んで修正を先送りする癖があり、結果として本作の仕様の一部がバグのまま残った。
音楽担当のハンナ・ヴェルナーは、駅の自動放送を逆再生した音を素材として使い、テーマ曲に「聞いたことがあるのに思い出せない」感覚を与えた。社内では完成直前まで効果音担当と誤認されていたという。
音楽[編集]
サウンドトラックは、透明感のあるピアノと微細なノイズを組み合わせた全34曲で構成される。特にメインテーマ「Verse at Zero」は、3拍子に見せかけて実際は11拍で進行しており、ライブ演奏では演奏者が途中で数を諦めることが多かった。
また、戦闘曲の一部にはノクスX本体の駆動音を加工した低音が使用されており、ヘッドホン再生時にだけ聞こえる裏旋律があるとされる。発売後のファンイベントでは、会場の非常灯と同期して曲の一部が明滅したが、これは偶然か演出か最後まで明言されなかった。
他機種版・移植版[編集]
2014年にはミラー・ポケット版が発売され、タッチ操作に合わせて観測窓のサイズが微調整された。移植に際して一部のセリフが簡略化されたが、なぜか店の看板だけは逆に長文化した。
2016年にはルミナ・アーカイブ向けに再構成版が配信され、オフラインモードが強化された。なお、海外ではバーチャルコンソール対応に近い扱いで旧版が再配信されたと説明されることがあるが、実際には独自の「再照会サービス」であった。
さらに2019年の周年版では、対戦モードに協力プレイ要素が追加され、2人で1つの観測窓を共有できるようになった。これにより、シリーズ未経験者でも「片方が見て、片方が覚える」という遊び方が定着した。
評価[編集]
発売直後の初週売上は国内で18万本、全世界累計では412万本を突破したとされる。特に北欧と日本で評価が高く、ゲーム誌『Lattice Edge』の年間賞では「最も理解されなかったが最も記憶に残る作品」として特別賞を受賞した。
一方で、プレイヤーの8割が第3章までに設定資料集を購入したという調査もあり、ソフト単体より周辺商品で認知を拡大した珍しい作品とされる。発売後半年間だけで攻略掲示板の総投稿数が約93万件に達し、平日の午前3時に最も議論が活発だったという記録が残る。
関連作品[編集]
続編に『エイドス・ヴァース2:反転都市』、外伝に『エイドス・ヴァース零章』がある。いずれも初代の「観測して崩す」設計を継承しつつ、より説明が減っている点で知られている。
また、テレビアニメ化企画として『Eidos Verse I: Watchers』が一時期発表され、全11話構成の予定であったが、制作中に原作の説明不能部分が増えすぎたため、最終的にはラジオドラマへ変更された。ファンの間ではこの判断が正解だったとする意見が多い。
関連商品[編集]
攻略本としては『エイドス・ヴァース1 公式観測手帖』が刊行され、全256ページのうち実際の攻略が68ページ、残りは架空都市の路線図と広告で占められていた。発売3日で重版がかかり、書店ではゲーム本体より先に売り切れた店もあった。
書籍としてはノベライズ『記録の外側で』、設定資料集『第1位相残響図録』があり、後者は本文より脚注の方が長いことで知られる。その他の書籍として、ファン有志による同人誌『観測者手引書 私家版第4刷』が毎年のように版を重ね、実質的な補助マニュアルとして扱われた。
脚注[編集]
注釈[編集]
1. 作品内の「観測」は、単なる監視行為ではなく、記憶の再配置を伴う特殊操作である。 2. 開発初期案ではジャンル名が「記録冒険劇」であったが、発売直前に現在の呼称へ変更された。 3. 「第1位相」という表記は北米版の翻訳で「Phase One」とされたが、実際には「最初の都市層」を意味するともいわれる。
出典[編集]
本項の記述の多くは、後年に公開された制作資料と当時のゲーム雑誌の特集記事を参照している。もっとも、制作陣の証言が版ごとに微妙に異なるため、年表の一部には食い違いがある。
参考文献[編集]
Kuji, Reiko『Observing the Unseen: Eidos Verse I and the Rise of Watch-RPGs』Lattice Press, 2018.
A. F. Hargrave『Design Notes for a City That Refuses to End』North Meridian Publishing, 2016.
佐伯 真琴『観測型ゲームの研究――エイドス・ヴァース現象を中心に』星環学術出版, 2020.
Hanna Werner, Milo S. Keene『Sound Layers in Eidos Verse I』Vol. 4, No. 2, Digital Audio Quarterly, pp. 41-59.
『エイドス・ヴァース1 公式観測手帖』ルミナ・インタラクティブ, 2012.
『第1位相残響図録』ヴェクトル・ノード社資料室, 2013.
田村 亮介『ゲーム史における非同期対戦の成立』ゲーム研究叢書第7巻第3号, pp. 88-104.
Margaret L. Stone『When Maps Start Remembering』Vol. 12, No. 1, Journal of Synthetic Play Studies, pp. 9-27.
加納 まどか『ノクスXとその周辺市場』月刊デジタル玩具第18巻第11号, pp. 14-22.
J. P. Calder『The Postal Ending Problem』Cambridge Arcade Review, Vol. 3, No. 4, pp. 2-15.
外部リンク[編集]
ヴェクトル・ノード社 公式アーカイブ
ルミナ・インタラクティブ 作品紹介ページ
エイドス・ヴァース研究会
ノクスX資料館
観測者たちの掲示板アーカイブ
脚注
- ^ Kuji, Reiko『Observing the Unseen: Eidos Verse I and the Rise of Watch-RPGs』Lattice Press, 2018.
- ^ A. F. Hargrave『Design Notes for a City That Refuses to End』North Meridian Publishing, 2016.
- ^ 佐伯 真琴『観測型ゲームの研究――エイドス・ヴァース現象を中心に』星環学術出版, 2020.
- ^ Hanna Werner, Milo S. Keene『Sound Layers in Eidos Verse I』Vol. 4, No. 2, Digital Audio Quarterly, pp. 41-59.
- ^ 『エイドス・ヴァース1 公式観測手帖』ルミナ・インタラクティブ, 2012.
- ^ 『第1位相残響図録』ヴェクトル・ノード社資料室, 2013.
- ^ 田村 亮介『ゲーム史における非同期対戦の成立』ゲーム研究叢書 第7巻第3号, pp. 88-104.
- ^ Margaret L. Stone『When Maps Start Remembering』Vol. 12, No. 1, Journal of Synthetic Play Studies, pp. 9-27.
- ^ 加納 まどか『ノクスXとその周辺市場』月刊デジタル玩具 第18巻第11号, pp. 14-22.
- ^ J. P. Calder『The Postal Ending Problem』Cambridge Arcade Review, Vol. 3, No. 4, pp. 2-15.
外部リンク
- ヴェクトル・ノード社 公式アーカイブ
- ルミナ・インタラクティブ 作品紹介ページ
- エイドス・ヴァース研究会
- ノクスX資料館
- 観測者たちの掲示板アーカイブ