『トロトロ日記』
| 作品名 | トロトロ日記 |
|---|---|
| 原題 | Torotoro Diary |
| 画像 | (架空) |
| 画像サイズ | — |
| 画像解説 | 日記帳の表紙が“とろける”描写が印刷されたティザービジュアル。 |
| 監督 | 霧島トモヤ |
| 脚本 | 霧島トモヤ |
| 原作 | 霧島トモヤ(連載『台所の異物記』より) |
| 製作 | トロロ製作所/動管室配給準備班 |
| 配給 | 駅前映像配給株式会社(通称・エキハイ) |
| 公開 | 2012年12月21日 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 上映時間 | 104分 |
| 興行収入 | 17.4億円 |
『トロトロ日記』(とろとろにっき)は、[[2012年12月21日]]に公開された[[トロロ製作所]]制作の[[日本]]の[[アニメーション映画]]。原作・脚本・監督は[[霧島トモヤ]]。興行収入は17.4億円で[1]、[[日本街路灯映画賞]]を受賞した[2]。
概要[編集]
『トロトロ日記』は、食卓の片隅で発生したとされる“粘性のある記憶”を、日記という形式で追跡する物語として知られるアニメーション映画である。公開当初から、作中の独特な擬音(とろ、とろ、ほろろ)の扱いが話題となり、広告会社が“擬音は音楽と別ジャンル”とする独自規格を持ち込んだとも報じられた[1]。
本作は「過去の出来事が必ずしも一度しか起きない」という設定を、主人公のノートの紙質(湿度で文字がにじむ)という物理描写に結びつけた点が評価されている。一方で、終盤の“日付だけが毎回更新される”演出について、視聴者の間で解釈が割れ、編集プロデューサーが「一応、タイムゾーン問題だ」と釈明した経緯がある[2]。
あらすじ[編集]
市役所の臨時職員である[[渡辺精一郎]]は、の倉庫整理中に、誰のものでもない古い日記帳を見つける。日記には毎日、同じ“昼の匂い”が書き足されているが、書かれている出来事だけが微妙に変化していくと主人公は気づくことになる。第1章では、夕方の自販機が“1円だけ釣り銭が増える”現象として描写されるが、次章ではそれが“釣り銭が増えたのではなく、未来の金額が遡って重ねられた”と理解されるようになる[3]。
主人公は日記帳を持ち帰り、日記の紙面に触れた指先が、わずか0.03秒遅れて“冷える”のを感じる。やがて彼は、日記の文体が誰かの声に寄っていくことを知り、その声の主はに保管されているはずの古文書群と関係している可能性が示される。クライマックスでは、日記の最終ページにだけ、なぜか『とろとろ』という擬音ではなく、規格化された温度記号(T-37.2)が現れるという演出があり、観客は“日記が熱ではなく粘度で記録している”という結論に導かれる[4]。
終幕、渡辺は市の「粘性記録処理係」を名乗る人物から、日記の内容は“思い出”ではなく“処理の副産物”であると告げられる。だが主人公が最終行を読み終える前に、日記帳の背表紙に貼られた小さなラベルが剥がれ、そこには『閲覧者が読んだ日付に修正される』とだけ書かれていたとされる。この結末が、翌年のリバイバル上映で“オチが強すぎる”と評された理由だとされる[5]。
登場人物(主要人物/その他)[編集]
主要人物として、日記帳を見つける市臨時職員の[[渡辺精一郎]]が置かれている。渡辺は几帳面な性格である一方、作中では“湿度計の目盛りが信用できない”と何度も口にするため、視聴者から「理性担当」と呼ばれることが多い。
そのほか、郵便局保管室の鍵を管理するとされる[[樫村サオリ]]、擬音の規格策定に関与したという放送局職員[[市川ミツオ]]、そして日記帳の声の方向を“温度ではなく粘度で説明する”学術アドバイザー[[安房良平]]が登場する。
終盤では、[[北原市]]の事務手続きを司る機関として[[動管室]]の架空部門が示され、“記憶の保存”を税務に近い手続として扱う姿勢が風刺的に描かれると指摘された[6]。なお、細部として、樫村が渡辺に渡す封筒は厚さ0.8ミリ、重さは9.2グラムと表記されるが、これが伏線か単なる遊びかで論争になった[7]。
声の出演またはキャスト[編集]
渡辺精一郎役を演じたのは[[並木ユウ]]である。並木は“台詞より擬音が感情を運ぶ”という演技指示を受け、録音ブースで[[とろ、とろ]]を計量しながら発声したと語られている[8]。樫村サオリ役は[[白井レン]]が務めた。市川ミツオ役は[[神林コウヘイ]]、安房良平役は[[大見沢シズカ]]である。
また、郵便局保管室の係員として[[三好ミドリ]]が出演し、端役ながら“鍵の回転数”の台詞(合計14回)を担当したとされる[9]。この14回の回転数は、劇場パンフレットで『演技上の必然』と説明されながら、後に視聴者が“回転数の合計が映画の上映時間104分と一致する”と気づき、再解釈が進んだと報告されている[10]。
スタッフ(映像制作/製作委員会)[編集]
監督は[[霧島トモヤ]]、脚本も同一人物が担当した。映像制作は[[トロロ製作所]]が中心となり、撮影・編集は[[駅前ポストワークス]]、色調監修は[[乾燥セルロイド研究会]]が担当したとされる。特殊技術として、文字がにじむ質感のために“湿度に連動する紙目シェーダ”が導入されたと記録されている[11]。
製作委員会は、駅前映像配給株式会社、北原市文化振興財団、[[粘度計測協同組合]]、そして放送局の共同事業として組成された。放送局側は、擬音規格を統一するために、効果音のサンプル長を全尺で0.271秒に揃えたという。これが制作の“独自ルール”として後年のインタビューで繰り返し語られた[12]。
製作(企画/制作過程/美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源)[編集]
企画は2010年の秋、霧島トモヤがの片隅で見つけた“にじむメモ”の発見談に端を発するとされる。霧島は当時、編集者から「日記はただの資料に過ぎない」と言われたことに反発し、“資料が観客に触る映画”を目指したという[13]。その結果、脚本は第1稿で全100ページ、うち73ページが“とろ”のバリエーションだけで構成されたとされるが、後に担当編集がその多さを「熱意の証拠」として擁護した。
美術面では、日記帳の紙は周辺で実在の古書店から調達したとされる。もっとも同じ古書店が実は撮影用に遠隔保管されていたことが、配給側の内部資料から示唆されたとも言われる[14]。彩色は“湿り度”をパラメータ化し、青緑(R=34,G=132,B=121)が「第3章の不安色」として採用された。CGでは擬音の形状が粘性に従って伸び縮みする表現が入れられた。
音楽は[[峰岸マサト]]が担当し、主題歌は[[“とろける曜日”]](作詞・作曲:峰岸マサト、歌:[[藤森カナ]])とされた。なお、主題歌のサビは“高音に到達する前に一度だけ息が詰まる”よう設計され、レコーディングでは心拍計の数値を参考に歌唱を調整したとされるが、これは半分冗談として語られることも多い[15]。
興行(宣伝/封切り/再上映/テレビ放送・ホームメディア/海外での公開)[編集]
封切りは[[2012年12月21日]]であり、同日には東京の駅前特設劇場で“日記帳を模したパンフレット配布”が行われた。宣伝ではキャッチコピーとして「読むほど、にじむ。」が掲げられたが、実際には劇場で配られたパンフレットの一部だけが湿気に反応し、翌日には薄く擦れたという。これがSNSで拡散し、配給側は“湿度キャンペーン”と呼んで否定しなかった[16]。
興行成績は17.4億円とされ、公開週末の稼働率は93.7%であったと記録されている[17]。再上映では、フィルム版の色調問題が指摘され、上映環境によっては青緑が灰色に見えるとのクレームが出た。結果として、劇場ごとに“湿り補正”プリセットが配布されたとされる。
テレビ放送では、[[2014年]]の年末に地上波で放送され、視聴率が7.9%を記録したとされる。ホームメディアはブルーレイとDVDの2形態でソフト化され、特典として“擬音を入力すると日記の一行が変わる”という当時としては珍しいインタラクティブ映像が収録された。海外では、[[カナダ]]の配給会社が“sticky-memory cinema”として紹介したと報告されている[18]。
反響(批評/受賞・ノミネート/賞歴・ノミネート歴/売上記録)[編集]
批評家からは、日記という形式を“ナレーション”ではなく“物体の時間”として扱った点が評価された。『切り取られた記憶が、観客の手に触れる』という論評が雑誌掲載され、編集者が“漫画的な擬音が哲学の比喩になっている”と述べたとされる[19]。
一方で、日記の文体が途中から主人公の生活音(自販機の音や郵便局のシャッター音)へ寄る点について、「因果が逆転している」との批判が出た。とくに終盤の“日付だけが毎回更新される”という演出は、視聴者が観賞後にカレンダーアプリを確認することで一致してしまう事例が報告され、誤作動なのか意図なのかで議論が拡大した[20]。
受賞歴としては[[日本街路灯映画賞]]、[[第25回虹色効果音賞]]を受賞したとされ、ノミネートとしては[[アジア・アニメーション連盟]]の年次選出にも名前が挙げられた。売上記録では、音声特典付きBDが初動で3万枚を超えたとされるが、その数字の桁が独立系メディアで一度だけ“30,004枚”と誤記されたことがあり、のちに訂正が出た[21]。
テレビ放送[編集]
テレビ放送では、劇場版の時間を削らずに放送するため、CM枠の前後で1分単位の“擬音尺調整”が行われた。放送局の担当者は「映像よりも擬音の間が切れてはいけない」と述べたとされ、結果として本編のBGMに差し替えは入れず、効果音のみが微調整された。
また、放送版には“字幕で擬音を翻訳するかどうか”という検討があったとされる。最終的には、英語圏向け字幕では“torotoro”を固有語のように扱い、意味ではなく触感として残した。視聴者投稿では「説明しないのに理解できる」といった反応が多かったと報告されている[22]。
関連商品(作品本編に関するもの/派生作品)[編集]
関連商品としては、公式ガイドブック『[[とろとろ日記]]の湿度設計図』(著:[[乾燥セルロイド研究会]])が刊行された。内容は、紙目シェーダの仕組みを“噛み砕き過ぎない比喩”で解説する方針が取られていたという。さらに、日記帳型の小道具レプリカが市販されたが、購入者の中には“自宅の湿度で文字が増えた”と主張する者が現れ、メーカーが対策として“増えるのは絵柄のみ”と注意喚起する事態になった[23]。
派生としては、短編アニメ『とろとろ日記・夜更けの回覧板』、ラジオドラマ『粘度計測協同組合の記録室』、そして擬音をテーマにした楽曲集『擬音は時を写す』がリリースされた。なお、ゲーム化は一度計画されたが、開発途中で“プレイヤーの読み違いで物語が変化する”仕様が法的に難しいと判断され、別の形で回収されたとされる[24]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
参考文献[編集]
脚注
- ^ 霧島トモヤ「『トロトロ日記』における紙目シェーダと擬音設計」『日本アニメ技法紀要』第18巻第2号, pp. 41-68, 2013.
- ^ 峰岸マサト「主題歌『とろける曜日』の息継ぎ設計に関する音響工学的考察」『効果音研究』Vol.9, No.1, pp. 10-27, 2014.
- ^ 白井レン「声優演技としての“とろ、とろ”—感情を遅延させる発声法」『演劇音声学会誌』第22巻第4号, pp. 155-173, 2015.
- ^ 駅前映像配給株式会社「配給業務報告(2012年12月期)」『駅前配給年報』pp. 233-241, 2013.
- ^ 『トロトロ日記』製作委員会「制作過程記録:湿度連動アセットの運用」『セル・VFX実務レビュー』第5巻第3号, pp. 88-102, 2012.
- ^ M. Thornton「Sticky-Memory in Japanese Animation: The Diary as Physical Time」『Journal of Visual Fluidity』Vol.12, No.3, pp. 201-222, 2016.
- ^ J. L. Carter「Onomatopoeia as Genre-Independent Sound: Torotoro Case Study」『International Review of Sound Design』Vol.7, No.2, pp. 33-51, 2017.
- ^ 乾燥セルロイド研究会『とろとろ日記の湿度設計図』トロロ出版, 2013.
- ^ 北原市文化振興財団『平成24年度 文化施設利用実績報告(駅前劇場関連)』北原市, 2014.
- ^ 並木ユウ「“理性担当”の演技と観客の誤読—104分の揺れを測る」『声の分岐点』第3巻第1号, pp. 1-19, 2018.
外部リンク
- トロトロ製作所公式アーカイブ
- 駅前映像配給『トロトロ日記』特設ページ
- 虹色効果音賞 受賞作品データベース
- 動管室・粘性記録処理案内(資料室)
- 乾燥セルロイド研究会 展示ログ