ボウコムボール
| 名称 | ボウコムボール |
|---|---|
| 別名 | 測界球、ボウ式反響球 |
| 分野 | 球技、教育工学、音響測量 |
| 起源 | 1898年ごろ、英国ロンドン |
| 考案者 | エドマンド・P・ボウコム |
| 主要用途 | 屋内競技、壁面反響測定、地図教育 |
| 普及期 | 1920年代 - 1950年代 |
| 標準径 | 18.4 cm |
| 標準重量 | 612 g |
ボウコムボール(英: Bowcom Ball)は、ので考案されたとされる、弾性体の球を用いてとを兼ねた特殊な道具である。の工房で試作された後、では期に学校教材として普及したとされる[1]。
概要[編集]
ボウコムボールは、製の内部芯に弾性皮膜を被せた球体を、特定の角度で投げ返しながら計測値を読み取るという独特の方式を特徴とする器具である。一般には競技用品として語られることが多いが、初期の文献ではの天井高やの反響時間を調べるための装置として扱われていた。
名称の由来については、考案者とされるの姓に由来するという説が有力である。一方で、が弓術、が共同体を意味する古語であるとする異説もあり、の一部の資料では後者を採っている[2]。ただし、この異説はの製造業者パンフレットに突然現れるため、後世の宣伝文句だった可能性が指摘されている。
ボウコムボールはの工学教育と体育教育が接近した時期に成立したとされ、の私立学校を中心に小規模に広まった。のちにの外郭団体が採用を検討し、で試験導入されたことで、日本では「静かな球技」として知られるようになった。
歴史[編集]
成立と初期試作[編集]
ボウコムボールの起源は、のにあった器具商会「Bowcombe & Lint, Practical Apparatus Makers」に求められる。創業者のエドマンド・P・ボウコムは、でもあったため、球を投げて壁面の戻り方を観察することで、部屋の歪みや空間の偏りを可視化できると考えたとされる[3]。
最初期の試作品は木芯に獣皮を張っただけの粗雑なもので、試投のたびに皮が伸びすぎ、で使用不能になったという記録が残る。これを受け、にはの金属加工工場が協力し、内部に直径の真鍮球を仕込む構造が導入された。これにより反発率が安定し、後の標準型の原型が定まったとされている。
なお、ボウコム自身は当初これを競技化する意図を否定していたが、工房の帳簿には「学生が昼食後に最も喜んだ品目」として頻繁に記載されているため、最初から遊戯用途が想定されていた可能性もある。
学校教育への導入[編集]
になると、の一部教員が、ボウコムボールをの授業に転用した。球の跳ね返り角を定規で記録させることで、やを体感させる手法であり、当時の教育雑誌『School and Surface』は「黒板より黙っているのに、算数を喋る」と評した[4]。
にはの実験教場に輸入され、教授らが「反響測定球」として紹介した。授業では床面に石灰で円を描き、球が三度目に接触した位置で教員が点数を付ける形式が採られたが、学生の間では採点基準が難解すぎるとして、むしろ礼儀作法の訓練に近いとされた。
この頃、の内部報告書には「本器、体育器械ニ非ズ、亦数学器械ニモ非ズ」と書かれていたとされるが、同じページの余白に「しかし講堂ではよく鳴る」と鉛筆で追記されており、実務担当者の困惑がうかがえる。
競技化と大衆化[編集]
後半、の公共体育館で「ボウコム・スリーライン方式」と呼ばれる競技規則が整備された。これは、球を三つの壁に順番に当て、最後に中央の台座へ戻せば得点となるもので、観客は球の軌跡を見失いやすいため、天井から吊るされた旗の揺れで進行を把握したという[5]。
競技人口は時点で英国全体で約、日本では程度と推定されている。もっとも、この数字は製造元が配布した無料修理券の枚数から逆算されたものであり、実競技者はその半分以下であった可能性がある。
戦時中は金属需要の高まりからいったん生産が縮小したが、真鍮芯を木製に置き換えた「配給型ボウコムボール」がに登場し、で子どもたちの娯楽として用いられた。これが結果的に地方普及を促し、戦後の学校教材市場に残ったとされる。
日本での展開[編集]
日本では20年代後半から、の学校備品店を通じて静かに流通した。とくにの周辺では、ボウコムボールの音が「昼休みの終わりを告げる鐘の代用」として重宝され、校庭が狭い都市部に適した器具として評価された。
にはの教員サークルが独自に「回旋点数法」を考案し、球が壁面に描いた粉跡の形で技術レベルを判定する仕組みを導入した。これにより、単なる遊びから、美術と体育の中間に位置する奇妙な教科活動へ変質したとされる。
一方で、の『体育器具概説』では「ボウコムボールは持ち運びやすいが、教師の説明が長くなるほど競技時間が短くなる」と記されており、運用上の難しさも指摘されている。なお、同書の脚注には、なぜかの製紙会社が試作した紙製モデルへの言及があり、現在も用途不明である。
構造と規格[編集]
標準的なボウコムボールは、外層に、中層に麻繊維、中心に真鍮球を置く三層構造とされる。外径は、重量は、表面には直径の微細な凹凸が並ぶとされているが、メーカーごとに誤差が大きく、測定班のあいだでは「同じ製品が三種類ある」と評された。
球面の赤い帯は単なる装飾ではなく、反射角を視認しやすくするための目印である。もっとも、代の高級型には青帯、黒帯、さらには校章を印刷したものまで存在し、の製品では帯の色で出身階級が推測できるとして物議を醸したという。
また、内部の真鍮芯には微小な空洞が設けられ、投球時に低い共鳴音を生むよう調整される。これを利用しての高さを耳で測る「聴音補助機能」があると説明されたが、実際には単に鳴りが良すぎて教室の猫が逃げるため、後からそう解釈された可能性が高い。
競技方法[編集]
正式競技では、選手はの円内から球を投じ、の壁面反射装置を経由して、指定された戻り点に最終的に球を収める必要がある。得点は回数ではなく「戻りの品位」によって決まり、審判は球の速度、沈黙時間、着地後の余韻を総合して判定する。
ルール上もっとも有名なのは「無音二投」条項で、二投連続で球が床以外を叩かずに戻ってきた場合、観客は拍手してはならないとされる。これにより、上級者の試合では会場が異様に静まり返り、遠くでだけが聞こえることがあったという。
なお、初心者向けの地域大会では、球が天井に当たった際に「天井礼」が認められている。これはボウコムボール独自の慣習であり、の大会で審判が誤って三回連続で礼を返してしまい、以後その地区だけ試合開始時に全員が一斉に会釈するようになった。
社会的影響[編集]
ボウコムボールは、との中間領域をつないだ珍しい事例として評価されている。とくにでは、狭い屋内でも成立する運動として、体育館不足を抱える自治体で好まれた。
また、には企業の会議室で「沈黙の合意形成」を促す道具として採用され、意見がまとまらない会議で一度だけ球を投げるという儀礼が流行した。もっとも、の一部会合では球の行方が議題より注目され、本来の目的が失われたとされる。
文化面では、の教育番組で紹介された際、ナレーターが「この球は考える」と言い切ったため、児童の作文に球の視点が大量発生した。これがいわゆる「ボウコム世代」と呼ばれる読解訓練の一形態につながったという説もある[6]。
批判と論争[編集]
ボウコムボールには、創始期から「用途が多すぎて何の道具か分からない」という批判があった。とくにのでは、体育教師から「体育にしては静かすぎ、測量にしては遠回りである」との反発が出ている[7]。
また、製造元が公表した反発係数が年度ごとに変動していたことから、の疑いもかけられた。これに対し、会社側は「湿度が変われば球の人格も変わる」と説明したが、科学的説明としては不十分であったため、現在では広告文の一種として扱われている。
さらに、日本国内では以降、学校事故防止の観点から使用を控える自治体が増えた。球が床を滑る際に発する音が「講堂での沈黙を破る」として問題視されたほか、一部の生徒が球を持ち帰って家庭内ので練習し、花瓶を破損した事例が報告されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Edmund P. Bowcombe『On the Practical Return of Elastic Spheres』Bowcombe Technical Press, 1901.
- ^ Harold F. Merton『Acoustic Balls in Victorian Classrooms』Journal of Applied Pedagogy, Vol. 12, No. 3, pp. 41-67, 1912.
- ^ 渡辺精一郎『反響測定球の教育的利用』東京高等師範学校紀要 第18巻第2号, pp. 203-219, 1924.
- ^ Alice M. Rowley『The Three-Line System and Its Social Consequences』The British Journal of Indoor Sports, Vol. 5, No. 1, pp. 9-28, 1939.
- ^ 佐々木俊治『学校備品としての球体器具史』日本教育器械学会誌 第7巻第4号, pp. 88-104, 1958.
- ^ Margaret L. Huxley『Silence, Bounce, and Consent in Postwar Meetings』Proceedings of the London Society for Civic Acoustics, Vol. 3, No. 2, pp. 77-96, 1956.
- ^ 『体育器具概説 増補版』文部省体育課編、教育器具刊行会, 1962.
- ^ Jean-Pierre Delorme『Le Boucom-ball dans les écoles de banlieue』Revue Européenne des Jeux Techniques, Vol. 8, No. 4, pp. 112-130, 1948.
- ^ 中井弘一『講堂の反響と児童の動線』音環境研究 第14巻第1号, pp. 1-24, 1971.
- ^ Eleanor P. Finch『The Curious Case of the Wet-Humid Personality of Balls』University of Kent Press, 1937.
外部リンク
- ボウコムボール史料館
- 英国屋内競技協会アーカイブ
- 東京教育器具研究会
- ロンドン音響教育資料室
- 世界反響球連盟