亜種音培養炉
| 名前 | 亜種音培養炉 |
|---|---|
| 画像 | Ashuon Kanyoro live at Kichijoji Planetarium |
| 画像説明 | 2019年の公開実験公演より |
| 画像サイズ | 250px |
| 画像補正 | yes |
| 背景色 | #1F2A2E |
| 別名 | 亜培炉 |
| 出生名 | 亜種音培養炉 |
| 出身地 | 東京都立川市 |
| ジャンル | 実験音楽、ノイズ、ポスト工業 |
| 職業 | 音楽ユニット |
| 担当楽器 | 培養槽、改造シンセサイザー、金属管 |
| 活動期間 | 2011年 - 現在 |
| レーベル | SinterWave Records |
| 事務所 | 炉辺計画社 |
| 共同作業者 | 篠原蒸留子、黒瀬ミツル、北見ラボラトリ |
| メンバー | 篠原蒸留子、黒瀬ミツル、北見ラボラトリ |
| 旧メンバー | 瀬名田アオイ |
| 公式サイト | ashuon-kanyoro.jp |
亜種音培養炉(あしゅおんばいようろ)は、日本の3人組である。所属事務所は。レコード会社は。2011年に結成、2014年にメジャーデビュー。略称は「亜培炉」。公式ファンクラブは「培地会」である。
概要[編集]
亜種音培養炉は、東京都発のである。3基の小型培養槽を改造した演奏装置を用い、微弱電流と声紋解析を組み合わせた「培養音」表現で知られる後半の代表的存在とされる。
結成当初は地下のノイズ即興集団として扱われていたが、2014年のメジャーデビュー作『』の奇妙な成功により、の外周で行われた公開演奏が話題となった。なお、初期の資料には「音楽ユニット」ではなく「温室工学的表現体」と記されていたことがある[1]。
メンバー[編集]
現行メンバーは篠原蒸留子、黒瀬ミツル、北見ラボラトリの3名である。いずれも本名かどうかが長らく曖昧にされており、ファンクラブの会報では「役割名がそのまま戸籍名になった」と説明される一方、実際には立川市内の音響工房で出会った同期であったとされる。
旧メンバーの瀬名田アオイは2013年に脱退したが、脱退理由については「培地の匂いに耐えられなかった」「4拍子を嫌悪した」など複数の説がある。本人は2018年のインタビューで「単にキーボードが重かった」と述べている[2]。
バンド名の由来[編集]
ユニット名は、立川市の古い温室施設で見つかった「亜種音」と刻まれた試験札と、当時メンバーが通っていた金属加工工場の「培養炉」という呼称を合成したものとされる。もっとも、命名当日に実際に存在していたのは家庭用味噌樽を転用したリバーブ装置であり、そこから出る低周波の震えを「培養」と誤認したことが始まりであったという。
名付け親は黒瀬ミツルとされるが、篠原蒸留子は後年「私が先に『アシュオン』と言った」と主張しており、事務所の回想録では両説を併記している。この種の由来が曖昧なまま定着したことは、後の系アーティストに広く模倣された。
来歴[編集]
2011年 - 結成[編集]
2011年春、東京都の旧倉庫街にあった「北口音響研修室」で結成された。当初は即興ノイズの練習会であったが、毎回終了後に培養槽の温度記録だけが残ることから、周囲のリサーチャーにより独自の集団として認識されるようになった。
同年夏には吉祥寺の小劇場で初公演を行い、客席の金属椅子が共鳴して演奏に加担したと報じられた。観客は28名であったが、退場時に「自分の声が少し高くなった」と答えた者が13名いたという。
2014年 - メジャーデビュー[編集]
2014年、からシングル『』でメジャーデビューした。ミュージックビデオは埼玉県の廃温室を借り切って撮影され、総額は約760万円とされるが、照明費より培養液の輸送費のほうが高かったことが話題になった。
同作はで最高17位を記録し、実験音楽としては異例の数字と受け止められた。特にサビ直前で発生する「瓶底ノイズ」は、ラジオ局側が意図せずピーク音量を下げたことで、逆に中毒性が増したと評されている。
2016年 - 社会現象化[編集]
2016年、2作目のアルバム『』が配信開始から11日で4万ストリームを突破し、いわゆる「深夜培養ブーム」を生んだ。これを受けての特番『夜の音響実験室』に出演し、放送中に培養槽の蓋が自然共振を起こした場面が局内で語り草となった。
この頃から、ライブ会場で観客がペットボトルに水を入れて持参する独自の鑑賞マナーが広まり、会場警備が「液体の持ち込みは危険物ではなく、ほぼ必需品」と説明したことで知られる。
2020年 - 活動休止と再始動[編集]
2020年には機材の老朽化と感染症流行の影響で活動休止を発表したが、3か月後に無観客配信公演『』で再始動した。配信では視聴者のコメントが音声信号に変換され、最終曲で1万2,000件の「火」を打ち込んだことが記録されている。
その後、2022年に旧メンバー瀬名田アオイを客演に迎えた再結成公演がで行われ、当日の入場者数は8,413人であったが、終演後に会場外の換気口から持ち帰り用の“余韻”を感じたという投稿が多数寄せられた。
音楽性[編集]
亜種音培養炉の音楽性は、、、、そして疑似的な民謡旋律を接着剤のように重ねたものとして説明される。最大の特徴は「培養声法」と呼ばれる発声で、通常の歌唱に対して0.7秒遅れて副声部が追随するため、聴取者には二重に育っていく声として知覚される。
また、メンバーはライブごとに培養槽の液面を異なる高さに設定し、その偏差を即興の拍子として利用する。音楽学者の小森昭彦はこれを「日本のパフォーマンス史における、もっとも無意味で、もっとも精密なシステムの一つ」と評した。なお、彼らの楽曲にはBPMではなく“沸点”が記録されることがある[3]。
人物[編集]
篠原蒸留子は作詞を担当し、低温の比喩を多用する文体で知られる。本人は「一番寒い音が、一番よく育つ」と語っており、冬場のレコーディングを好んだ。
黒瀬ミツルは機材設計を担当し、国内外の電気工房を巡っては旧式の温度制御器を収集した。北見ラボラトリは主にライブ演出と対外折衝を担い、の助成申請書に「培養槽は楽器であり、同時に家庭用品である」と書き添えて採択率を上げたことで知られる。
3人とも記者会見では必ず白衣に似た衣装を着用したが、実際には耐熱エプロンを裏返したものであり、この小細工が「潔癖な科学っぽさ」を生んだとされる。
評価[編集]
批評家からは、音響芸術としての完成度と、半ば自作自演に近い世界観の強度が高く評価されている。特に『発芽式』は、朝日新聞の音楽評で「音が工場見学の順路を持っている」と書かれ、日本レコード大賞の審査員特別講評では「理解不能だが整っている」と要約された。
一方で、初期のファン層は機材の専門性を過剰に神格化する傾向があり、2017年には中古培養槽の相場が一時的に3倍に高騰した。これを受けてからは注意喚起が出されたが、当のユニットは「再利用できる音は高いほどよい」とコメントしている。
受賞歴・賞・記録[編集]
2015年にの企画賞を受賞し、2017年には日本部門で最優秀実験演出賞を獲得したとされる。なお、後者の賞は当時まだ正式な部門として存在していなかったため、主催側の記録では「参考展示」として処理されている。
ストリーミング関連では、2021年に代表曲『』が累計1億回再生を突破した。もっとも、ファンの一部が「音を聴く前に儀式として再生ボタンを押す」習慣を持っていたため、純粋な聴取回数との区別は今も曖昧である。
ディスコグラフィ[編集]
シングル[編集]
『培地の朝』(2014年) - デビュー曲。B面の『温度差で泣かないで』は、深夜のラジオ局で人気となった。
『薄膜の賛歌』(2015年) - ライブ定番曲。曲中の沈黙が長すぎるとして、放送用には常に短縮版が使用された。
アルバム[編集]
『発芽式』(2016年) - 代表作。工場音と合唱を重ねた構成で、国内外の音楽誌が特集を組んだ。
『沸点の肖像』(2019年) - より内省的な作風へ転じた作品。ジャケットの湯気が再生環境により変化するという仕様があった。
映像作品[編集]
『無風炉 LIVE AT 国立能楽堂』(2021年) - 会場の木部が共鳴したため、音像が通常盤より0.3秒遅れるという欠陥が逆に評価された。
『培養槽の使い方 入門篇』(2022年) - 公式教材風の映像作品。音楽番組というより家電説明書に近い体裁である。
ストリーミング認定[編集]
2023年、配信プラットフォーム各社の集計により、ユニット全作品の総再生回数が8億回を超えたと発表された。もっとも、公式側は「単純な再生よりも、無音のまま最後まで視聴された比率」を重視しており、一般的なアーティストとは認定基準がやや異なる。
また、ライブ音源の一部は「環境音として再生されると味が出る」との理由で、睡眠導入用プレイリストに大量収録された。この現象は海外の配信サービスでも確認され、韓国のレビューサイトでは「起きているのか眠っているのか分からない」と評された。
タイアップ一覧[編集]
『培地の朝』はサントリーではなく架空の飲料メーカーの炭酸水CMに起用された。『薄膜の賛歌』は風の教育番組『ひかりの理科室』のエンディング曲として使用され、子ども向け番組でありながら「音が少し怖い」と視聴者投稿が寄せられた。
ほかに、東京都のごみ分別啓発キャンペーン、の夜間防犯ポスター、そしてなぜかの温室観光協会のプロモーション映像にも起用された。温室観光協会側は「植物と音楽は同じく育てるもの」と説明している。
ライブ・イベント[編集]
ライブは「公演」ではなく「培養」と呼ばれ、入場時に観客へ簡易温度計が配布された。2018年の全国ツアー『』では、会場ごとに演奏時間が異なり、最短公演は名古屋市で行われた43分、最長は札幌市で行われた2時間18分であった。
特筆すべきは、2022年の新宿公演で実施された「客席再発酵席」である。これは客の拍手を床下の共鳴板で増幅する仕組みで、終演後に座席番号までうっすら振動していたため、半数以上の来場者が記念に持ち帰ろうとしたという。
出演[編集]
テレビではテレビ東京系の深夜番組『音の工場見学』に複数回出演し、番組史上初めて「演奏が説明より先に終わる」回を作った。ラジオでは風の架空局でレギュラー番組を持ち、リスナー投稿の温度に応じて選曲を変える形式が採用された。
映画では、2019年公開の音楽ドキュメンタリー『』に出演。CM出演は少ないが、前述の飲料CM以外にの企業広告にも登場し、六角レンチを合唱に見立てる演出が物議を醸した。
NHK紅白歌合戦出場歴[編集]
2024年、第75回NHK紅白歌合戦に特別企画として出場した。披露曲は『発芽式〜紅白温室拡張版〜』で、舞台上に設置された培養槽が白組の出番中に赤く発光したことが話題となった。
なお、NHK側の内部メモには「楽器の搬入が通常の3倍だが、撤収は1.2倍で済む」と記されていたとされる。これにより、以後の年末番組の大道具班が妙に前向きになったという。
脚注[編集]
[1] 初期のプレスリリースでは「実験音楽ユニット」ではなく「音響培養体」と表記されていた。 [2] 脱退理由については本人談と事務所発表で一部食い違いがある。 [3] 沸点はライブごとに変動するため、厳密な比較は困難である。
参考文献[編集]
松浦淳一『培養音とその周辺』炉辺計画出版、2018年。
Elena V. Morita, "Incubated Noise and Urban Rituals," Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, Journal of Japanese Experimental Music, 2020.
黒瀬ミツル『改造シンセサイザーの礼儀』シンセ文庫、2016年。
田所由佳『深夜培養ブームの社会史』音響社会研究所、2021年。
H. Saitoh, "On the Thermodynamic Chorus of Ashuon Kanyoro," Vol. 7, Issue 2, pp. 101-119, SinterWave Review, 2019.
篠原蒸留子『寒い音ほどよく育つ』霧書房、2017年。
北見ラボラトリ『ライブ設営入門・第三版』炉辺計画社、2022年。
小森昭彦『ポスト工業音楽の地平』港北音楽評論、2020年、第18巻第4号、pp. 5-27。
A. N. Kanda, "The Audience as Medium," Vol. 4, No. 1, pp. 9-22, East Asian Sound Studies, 2023.
『SHEARER』公式解説冊子、SinterWave Records、2014年。
外部リンク[編集]
亜種音培養炉 公式サイト
SinterWave Records アーティストページ
炉辺計画社 作品アーカイブ
培地会 公式ファンブック
立川音響史資料室
脚注
- ^ 松浦淳一『培養音とその周辺』炉辺計画出版、2018年。
- ^ Elena V. Morita, "Incubated Noise and Urban Rituals," Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, Journal of Japanese Experimental Music, 2020.
- ^ 黒瀬ミツル『改造シンセサイザーの礼儀』シンセ文庫、2016年。
- ^ 田所由佳『深夜培養ブームの社会史』音響社会研究所、2021年。
- ^ H. Saitoh, "On the Thermodynamic Chorus of Ashuon Kanyoro," Vol. 7, Issue 2, pp. 101-119, SinterWave Review, 2019.
- ^ 篠原蒸留子『寒い音ほどよく育つ』霧書房、2017年。
- ^ 北見ラボラトリ『ライブ設営入門・第三版』炉辺計画社、2022年。
- ^ 小森昭彦『ポスト工業音楽の地平』港北音楽評論、2020年、第18巻第4号、pp. 5-27。
- ^ A. N. Kanda, "The Audience as Medium," Vol. 4, No. 1, pp. 9-22, East Asian Sound Studies, 2023.
- ^ 『SHEARER』公式解説冊子、SinterWave Records、2014年。
外部リンク
- 亜種音培養炉 公式サイト
- SinterWave Records アーティストページ
- 炉辺計画社 作品アーカイブ
- 培地会 公式ファンブック
- 立川音響史資料室