張本勲(あっぱれ)
| 名称 | 張本勲(あっぱれ) |
|---|---|
| 別名 | あっぱれ判定、三秒賛辞、張本式肯定 |
| 分野 | 放送文化・スポーツ解説・礼法 |
| 起源 | 1978年頃 |
| 提唱者 | 張本勲、佐藤敬介、梅村千春 |
| 主な普及媒体 | TBS系日曜昼帯番組 |
| 運用基準 | 単発の称賛を3語以内で表明すること |
| 象徴的語句 | あっぱれ |
| 影響 | スポーツ番組における評価語の標準化 |
張本勲(あっぱれ)(はりもと いさお あっぱれ)は、日本の放送文化において、解説者が選手の記録や所作に対して極めて短く、かつ儀礼的に賛辞を返す際の定型句、およびその運用をめぐる一連の慣行を指す名称である[1]。一般には系スポーツ番組に由来する口癖として知られているが、その成立には東京都の放送技術者と相撲評論家の共同研究が関わったとされる[2]。
概要[編集]
張本勲(あっぱれ)は、プロ野球の名球会的評価を放送上で即時に可視化するために発達した、きわめて日本的な賛辞制度である。特定の競技結果に対して、解説者が「この場で褒めるべきか」を瞬時に判定し、短い決まり文句で送出する点に特徴がある。
一般には個人の口癖として理解されているが、放送文化史では末の赤坂における編成上の要請から生まれた「即時称賛フォーマット」の一種と位置づけられる。のちに東京都港区の編集現場で規格化され、番組外でも使われるようになったという[3]。
歴史[編集]
成立以前の背景[編集]
1970年代後半のスポーツ中継では、競技の進行を妨げずに選手の功績を称える短文が求められていた。の技術資料では、当時の解説は平均17秒を超えると視聴者離脱率が跳ね上がるとされたが、この数値は後年、試写会の拍手回数から逆算したものと説明されている[4]。そのため、放送作家のは「三語以内で讃える」方式を提案し、これが後の張本勲(あっぱれ)につながったとされる。
標準化と番組内実装[編集]
頃、のスポーツ制作班は、解説の一言を視覚効果付きで定型化するため、番組内の「賛辞メーター」を導入した。ここで張本勲が発した「よくやった、あっぱれである」という短縮句が、編集室で「張本勲(あっぱれ)」として台帳化されたという[5]。以後、の内部集計では、当該語が出る場面の平均再生停止率が0.8%低下したと報告され、社内では「肯定の効能」として扱われた。
運用[編集]
張本勲(あっぱれ)は、単なる賞賛ではなく、対象の行為が「既存の基準を超えた」と判断された際にのみ発動する。実務上は、①記録更新、②礼節ある所作、③解説者がその場で黙るべき衝撃、の三条件が用いられたとされる。
また、1980年代末の制作マニュアルでは、語尾に「である」を付す場合は格上のあっぱれ、付さない場合は通常のあっぱれと区分されていた。港区赤坂の某編集室では、発話の長さを測るためにカウントダウン用ストップウォッチが配備され、3.2秒を超えると助監督が赤い札を上げたという。
一方で、張本勲本人の発話とは無関係に、画面テロップ上で独立して運用されることもあった。特に昭和末期の録画放送では、実際には別のコメントであるにもかかわらず、編集上の都合で「張本勲(あっぱれ)」が先に表示される逆転現象があり、視聴者の一部はこれを放送事故ではなく「格の証明」と解釈した。
社会的影響[編集]
この慣行は、スポーツ解説における評価語の省略化を進めたとされる。教育現場では、短く褒めることを奨励する国語教材「三語でほめる話法」が一部の東京都内中学校で試験導入され、作文の終わりに「以上、あっぱれ」と書く生徒が増えた。
また、関西では同語がやや婉曲的に受容され、「そこそこ良い」に近い意味で使われる例もあったが、広島市の飲食店街では、会計時に店員へ向けて使うと「常連認定」に相当することがあるとされ、地域差が大きい。こうした拡散により、「あっぱれ」は単なる感嘆詞から、評価の抑制と称賛の両方を担う半制度的表現へと変質した。
批判と論争[編集]
批判の中心は、張本勲(あっぱれ)がしばしば「褒めているのか、評価を保留しているのか不明である」と受け取られた点にある。特にのオールスター中継では、観客席の拍手が先に鳴り、その後でテロップが表示されたため、放送倫理検証委員会の一部委員から「賛辞の後付け問題」として注意がなされた[6]。
また、朝日新聞の社説を模した番組コラムでは、あっぱれの頻用が「褒め言葉のインフレ」を招くと批判された一方、保守的な視聴者は「言葉を濫発しない美徳」と評価した。なお、名古屋市の一部ローカル番組では、あっぱれの代替として「うむ」が使われたが、これは張本勲本人が推奨したものではないとされている。
派生文化[編集]
張本勲(あっぱれ)からは、多数の派生表現が生まれた。代表的なものに、僅差の好プレーに用いる「準あっぱれ」、守備の美しさを讃える「守備あっぱれ」、そして失策を逆説的に笑う「それもあっぱれ」がある。
さらに、にはインターネット掲示板上で「AAっぱれ」という表記が流行し、アスキーアートで拍手する文化と結びついた。これに対し、の研究ノートは、同語が「テレビの顔芸と相性がよい」と結論づけているが、詳細な統計は公表されていない。
脚注[編集]
脚注
- ^ 佐藤敬介『放送における短文称賛の研究』日本放送出版協会, 1981, pp. 44-67.
- ^ 梅村千春『あっぱれ語法史序説』東京大学出版会, 1987, pp. 12-39.
- ^ Harold J. Whitman, "Minimal Praise and Audience Retention in Live Sports Broadcasting," Journal of Broadcast Studies, Vol. 14, No. 2, 1992, pp. 88-103.
- ^ 張本勲『解説と礼法』扶桑社, 1994, pp. 101-120.
- ^ 中村玲子『赤坂制作現場の民俗誌』青土社, 2001, pp. 55-76.
- ^ Eleanor M. Pritchard, "The Appare Effect in Japanese Television," Media and Ritual Review, Vol. 8, No. 1, 2004, pp. 9-28.
- ^ 『TBSスポーツ編成資料集 第3巻』TBS編成局資料室, 2008, pp. 203-219.
- ^ 木村慎一郎『三語でほめる教育実践』明治書院, 2012, pp. 77-95.
- ^ 渡辺精一郎『放送用語の儀礼化とその周辺』岩波書店, 2015, pp. 140-166.
- ^ Martha K. Bell, "When Praise Becomes a Cue: Case Studies from Japanese Sports TV," Asian Media Quarterly, Vol. 21, No. 4, 2018, pp. 301-319.
- ^ 『あっぱれの社会学――沈黙する解説者たち』国際放送研究所, 2020, pp. 1-88.
外部リンク
- 放送文化研究センター資料室
- 赤坂テレビ史アーカイブ
- スポーツ解説語彙年鑑
- 日本賛辞慣行学会
- 視聴者反応ログ保存会