『角材(装備品)』
| タイトル | 角材(装備品) |
|---|---|
| ジャンル | 軍事活劇、学園、サバイバル |
| 作者 | 久保田 史朗 |
| 出版社 | 星海出版 |
| 掲載誌 | 月刊ブリッジ・ノヴァ |
| レーベル | Nova Comics |
| 連載期間 | 2008年3月 - 2015年11月 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全87話 |
| 累計発行部数 | 420万部 |
概要[編集]
『角材(装備品)』は、東京都にある私立工業高等学校を舞台に、武器としてではなく「規格化された持ち運び可能な防衛装備」としての角材をめぐる少年たちの抗争を描いた作品である。作中では防災訓練の要素が独特に混淆しており、のちに「木材系バトル漫画」の嚆矢として扱われることがある[2]。
タイトルの「装備品」は単なる比喩ではなく、劇中において角材が国家認定の補助用具として制度化されているという設定を指す。連載開始当初は奇抜な発想で注目されたが、後半になるにつれ文部科学省の委託研究やの地域訓練計画まで巻き込む壮大な世界観へ拡張され、読者層を広げたとされる。
制作背景[編集]
作者のは、もともと木工短大出身のアシスタントで、1998年に千葉県市川市の資材置き場で見た「寸法の揃った角材の束」に強い印象を受け、本作の原型を着想したという。久保田は後年のインタビューで「刃物より先に、運びやすい四角い棒に人間の倫理が出る」と語ったとされるが、発言記録は一部しか残っていない[3]。
編集部側は当初、学園内の小競り合いを軸にしたとして企画していたが、第3話の扉ページで角材に目盛りと認証番号が刻まれていたことから路線変更が起きた。以後、作品は「装備の規格」「自治体による貸与制度」「競技化された護身術」の三層構造を持つようになり、誌面アンケートでは中高生よりも建築関係者の支持が目立ったという。
なお、作画資料としての研修用サンプル帳が使われたとされ、特にホワイトオーク材の質感表現は当時の週刊誌編集者の間でも話題になった。もっとも、角材の角にだけ妙に柔らかい表情が出るという癖は、最終巻まで修正されなかった。
あらすじ[編集]
学園防災編[編集]
物語は、主人公・がへ転入するところから始まる。同校では、災害時の避難導線を確保するため、長さ900ミリ、断面45ミリ角の「標準角材」がロッカーに常備されており、生徒会が年2回の点検を義務づけていた。直哉は角材を「ただの木片」と侮るが、初回の防災訓練で校舎南棟の自動扉が停止した際、角材を使った即席の支柱が132人を救ったことで評価を一変させる。
この編の名場面は、体育館で行われる「角材の素振り検定」である。主人公が角材の重心を誤り、腕を3日間痺れさせたまま試験に臨む回は、単行本1巻の売上を一気に押し上げたとされる。
自治体貸与編[編集]
中盤では、角材が武蔵野市の試験導入を経て、地域防災課の貸与装備として制度化される。ここで登場するのが、の係長・である。彼女は角材を「最も古く、最も説明の難しい公的備品」と定義し、各家庭への配備数を世帯人数×0.7本で算出する案を提示した。
しかし、この制度は「余った0.3本はどう扱うのか」という極めて具体的な問題で破綻しかける。作中では、0.3本を切り出すためだけに市内の製材所が深夜稼働する様子が描かれ、読者の間では「角材経済回」として語り草になった。
全国角材競技会編[編集]
終盤では、文部科学省と民間団体が合同で主催するが開かれ、各都道府県の代表校が「運搬」「支点固定」「威圧感の保持」の三種目で競う。ここで直哉は、角材の両端に布を巻き、音を立てずに3階分の階段を上るという奇策で決勝へ進出した。
決勝戦の相手は、北海道代表のが保有する「積層圧縮角材」であり、1本で通常角材7本分の剛性を持つとされた。最終局面では、直哉が角材を“振る”のではなく“受け渡す”という戦術を選び、会場全体の固定観念を揺さぶった。ここで作品は単なる競技漫画から、装備の倫理を問う群像劇へと変化したのである。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、寡黙だが工具の扱いに異常に長ける。初期は角材を苦手としていたが、やがて「角材の節目を読む」能力を身につけ、相手の動線を先読みするようになる。
は生徒会副会長で、防災マニュアルの改定を独断で進める人物である。彼女は角材を「木材でありながら制度である」と評し、学内の備品庫を実質的に支配していた。
はの係長。公務員らしい無表情でありながら、角材の乾燥状態を嗅ぎ分ける特技を持つ。彼女の名台詞「湿気は敵だが、敵もまた角材である」は、後にネットミーム化した。
は元大工の用務員で、作中で唯一、角材を“戦うための道具ではない”と明言した人物である。にもかかわらず誰よりも強い。
用語・世界観[編集]
劇中における角材は、単なる木材ではなく、の別表に準拠して管理される準公的装備である。規格には「A型:室内用」「B型:避難支柱用」「C型:示威用」の三種類があり、いずれも角を丸めてはいけないとされている[4]。
また、作中では角材の輸送に専用の「肩掛け紐」が使われる。この紐はを契機に試作されたという設定だが、実際には作中企業のが1990年代に開発したことになっている。角材の長さは地域ごとに異なり、では900ミリ前後、では1,050ミリ前後が標準とされた。
なお、角材の乾燥度を示す単位として「K値」が登場するが、Kは「木口の気配」を表す略号であると説明される。学術的にはかなり無理があるが、劇中ではごく自然に受け入れられている。
書誌情報[編集]
単行本はレーベルより全14巻が刊行された。第7巻からは巻末おまけとして「今日の角材の選び方」が毎回収録され、ホームセンターの棚前で読む読者が続出したとされる。
文庫版は全8巻に再編集され、第12話と第13話のあいだに「校舎耐震補強のための角材再配置図」が挿入された。これは編集部が勝手に付けたもので、作者は当初かなり困惑したという。
さらに2014年には豪華装丁版『角材(装備品) 完全規格箱』が発売され、外箱の内側に1/10スケールの角材断面図が印刷されていた。購入者特典として「節あり」「節なし」のしおりが付属したが、なぜか節ありのほうが人気だった。
メディア展開[編集]
には制作によるテレビアニメ化が行われ、深夜帯ながら平均視聴率3.8%を記録した。特に第4話「支柱、立つ」はSNSで大きな話題となり、角材を持ったまま駅の自動改札に近づかないよう注意喚起する投稿が相次いだ。
その後、ドラマCD、舞台化、そしてへのコラボ実装が相次ぎ、メディアミックス展開は一時「木材系コンテンツの到達点」と評された。なお、舞台版では実物大角材が毎公演8本ずつ必要だったため、搬入だけでトラック2台分を要した。
には地方自治体とのタイアップで「角材の日」が制定されたとされるが、実際には一部商店街の共同キャンペーンにすぎなかった可能性が高い。とはいえ作品の認知度向上には大きく寄与した。
反響・評価[編集]
本作は連載中から「不穏なのに役に立つ」「読むとホームセンターへ行きたくなる」と評され、累計発行部数はを突破した。特に防災意識の高い地域では、読者が角材のサイズを自主的に記録する現象が見られ、仙台市の一部書店では関連売場が常設されたという。
批評面では、角材を通して「物の価値は用途ではなく共同体の合意で決まる」といったテーマを描いた点が高く評価された。一方で、終盤の「角材が空港保安検査を通過できるか」という長尺エピソードは賛否が分かれ、要出典のまま語られることも多い。
また、木材業界からは教育的効果を認める声があった一方、地方の製材所では「作品の影響で四角い棒ばかり売れる」との指摘が出た。もっとも、実際に売上が伸びたのは角材用の保護布であったともされ、真相は定かではない。
脚注[編集]
[1] 公式単行本第1巻帯より。
[2] 『月刊ブリッジ・ノヴァ』2008年4月号編集後記。
[3] 久保田史朗「角材と私」『木工と漫画の往復書簡』第2号、星海出版、2016年。
[4] 作中設定。実在の法令とは無関係である。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 久保田史朗『角材(装備品) 第1巻』星海出版, 2008, pp. 3-191.
- ^ 木村怜子「装備品としての角材表象」『現代漫画研究』Vol. 12, 第3号, 2011, pp. 44-61.
- ^ 佐伯雄一『防災と少年誌の交差点』北浜書房, 2013, pp. 88-109.
- ^ Margaret L. Hargrove, “Timber as Civic Equipment in Post-Urban Manga,” Journal of Visual Folklore, Vol. 9, No. 2, 2014, pp. 112-130.
- ^ 久保田史朗・野本碧「角材の規格化をめぐって」『月刊ブリッジ・ノヴァ』第7巻第6号, 星海出版, 2010, pp. 17-29.
- ^ 田所一馬『角材と共同体倫理』青磁社, 2015, pp. 201-233.
- ^ Eleanor P. Shaw, “Weaponized Lumber and the Ethics of Carrying,” Comics & Society Review, Vol. 18, No. 1, 2017, pp. 5-26.
- ^ 青柳真理子「『角材の日』制定運動の実態」『地域文化通信』第41号, 2020, pp. 9-14.
- ^ 久保田史朗『木工と漫画の往復書簡』星海出版, 2016, pp. 1-240.
- ^ 藤堂圭介『なぜ角材は丸められないのか』風見社, 2019, pp. 73-91.
外部リンク
- 星海出版 公式作品ページ
- 東雲アニメーション 制作年表
- 木材系漫画資料館
- 全国角材競技会 実行委員会アーカイブ
- 月刊ブリッジ・ノヴァ 電子年鑑