騙しコース(マリオメーカー)
| 名称 | 騙しコース |
|---|---|
| 別名 | フェイントコース、見せかけコース |
| 分野 | ゲームデザイン、コース投稿文化 |
| 初出 | 2014年頃 |
| 主要媒体 | マリオメーカーシリーズ |
| 特徴 | 視覚誘導、偽ルート、逆走ギミック |
| 代表的な作成者 | 市民制作者連合、関西短期講習会出身者 |
| 関連組織 | 京都コース設計研究会 |
| 流行地域 | 日本、北米、東南アジア |
| 評価 | 賛否が分かれるが、視聴文化に強い影響を与えた |
騙しコース(だましコース)は、Nintendoのマリオメーカー系作品において、見た目上は通常のスーパーマリオ系ステージでありながら、実際にはプレイヤーの予測を裏切る構造を中核とするコース形式である。特に2014年以降、匿名作者による投稿文化のなかで独自の発展を遂げたとされる[1]。
概要[編集]
騙しコースは、マリオメーカーにおいてプレイヤーが「正解」と思い込んだ経路を、手前1マスの足場、見えない隠しブロック、あるいはダミーのゴールポールによって外す手法を指す。最初期は単なる意地悪コースとして扱われたが、後に京都府の個人制作者たちの間で理論化され、観戦向けの演出として再評価されたとされる[2]。
この形式は、操作技術よりも観察力と記憶力を試す点で特徴的であり、特に「初見殺し」との境界が曖昧であることが論争を呼んだ。一方で、投稿動画配信の普及により、失敗と裏切りの瞬間が娯楽として消費されるようになり、YouTube文化の伸長と連動して広まったとされている。
歴史[編集]
黎明期[編集]
騙しコースの原型は、2013年末から2014年初頭にかけて大阪市内のゲームサークルで共有されていた「試走専用コース」に求められるという説が有力である。これは、完成直前のステージをあえて他者に踏ませ、どこで迷うかを観察する用途のもので、当初は教育用のメモに近かったという[3]。
特に吹田市の旧公民館で行われた非公式勉強会では、床面に紙テープを貼ってコースの分岐を再現した記録が残っており、ここで「右を見せて左へ落とす」基本形が確立したとされる。ただし、この時点ではまだ「騙し」という語は使われず、「反転誘導」と呼ばれていた。
投稿文化への定着[編集]
2015年に入ると、国内の投稿者コミュニティで「見るだけで解けるコースは弱い」という美学が強まり、あえて安全そうな足場を崩す構造が流行した。これを受けて任天堂の公式大会とは無関係の有志講評会が名古屋市で開催され、平均クリア率0.73%の作品が「完成度が高い」と評価された記録がある[4]。
この頃、コース名に「やさしい」「初心者向け」と書きながら実際には三重の落とし穴を仕込む手法が定着した。配信者が最初の1分で30回以上転落する様子が切り抜かれ、騙しコースは単なる悪質設計ではなく、視聴者参加型の「反復ギャグ」として理解され始めた。
理論化と分化[編集]
2017年頃には、東京都内の研究同人誌『コース設計月報』で「視線誘導型」「記憶汚染型」「報酬遅延型」の3分類が提案され、騙しコースは一種のゲーム内修辞として扱われるようになった。ここで重要なのは、プレイヤーを騙すのではなく、プレイヤー自身に「騙されたと気づかせる」構造が重視された点である。
また、海外ではCaliforniaのコミュニティで「Ladder Lie」と呼ばれる亜種が現れ、梯子が見えているのに登れない、あるいは登った先に元の床があるという循環的構造が人気を得た。日本側の制作者はこれを「ロープウェイ的誠実さがない」と批判したが、逆にその不誠実さが受けたとの指摘もある。
構造と手法[編集]
騙しコースの基本技法は、視覚上の安心材料を提示したうえで、それを一段階だけ裏切ることにある。たとえば、1UPキノコを置いて進行方向を示しつつ、実際にはその上に乗ると天井のトゲに触れるよう設計する、あるいは矢印ブロックを並べて最短経路を示しながら、最後の1ブロックだけ見えないスイッチで崩壊させる手口が知られている[5]。
さらに発展形として、音楽や効果音まで利用する「聴覚騙し」が存在する。これは、ゴール直前のファンファーレを鳴らして安心させてから、実際には中間地点に戻す方式であり、滋賀県の制作者グループが「失望の余韻が最も長く残る」として好んだという。
なお、騙しコースの優れた作例では、単なる罠の連続ではなく、プレイヤーが一度学んだ法則を次の場面でわざと裏切るため、攻略情報を知っていても完全には安定しない。これにより、初見時の驚きと再挑戦時の苛立ちが同時に設計される点が特徴である。
社会的影響[編集]
騙しコースは、投稿者文化において「設計者の意図が最も露骨に出るジャンル」として認識され、プレイヤーと制作者の心理戦を可視化した。とりわけニコニコ動画やYouTubeでの実況配信が普及すると、失敗そのものが見せ場となり、コースの難度ではなく「どれだけ綺麗に騙すか」が評価基準に加わった。
2020年頃には、学校の情報科授業で「ユーザー体験と期待値の操作」の例として紹介されることがあったとされる。もっとも、授業で紹介されたのは実際には極端な騙しコースではなく、見た目と機能のずれを説明するための簡易デモであったという。
一方で、悪質な投稿との線引きは最後まで曖昧であり、コミュニティ内では「面白い裏切り」と「ただの嫌がらせ」の違いをめぐる議論が続いた。このため、京都の一部配信者は「3回目の転落で笑えるかどうか」を独自基準として採用していたが、これは普遍的な指標ではない。
批判と論争[編集]
騙しコースに対する最大の批判は、プレイヤーの学習を妨げることで達成感を奪う、というものである。特に2021年以降、海外コミュニティでは「difficulty without honesty」という表現が用いられ、難しさより誤誘導の強さが前面に出た作品が問題視された[6]。
また、任天堂が公式に推奨したわけではないにもかかわらず、あたかも「メーカー文化」の中心であるかのように語られることもあり、この点は編集合戦の火種となった。実際には、騙しコースは多数ある投稿文化の一側面にすぎないが、配信映えするため過大に可視化された面がある。
ただし、擁護派は、騙しコースが単なるトリックではなく、ゲーム内での注意配分・経験則・期待の再構成を試す「小さな心理劇」であると主張する。極端な例として、同じコースを50回遊ぶことで初めて意味が反転する作品もあり、これが芸術か嫌がらせかは今なお意見が分かれている。
代表的な作例[編集]
騙しコースの代表例としては、2016年に横浜市の投稿者が公開した『やさしい散歩』が知られている。これは全編が安全地帯に見えるが、最後の1ブロックだけ床がスロープになっており、クリア寸前で必ず滑落するため、当時の配信界隈で「最も礼儀正しい裏切り」と評された。
また、福岡市の『一本道の先にある約束』(2018年)は、画面上では一直線の進路しか存在しないように見せながら、実際にはスクロール外に隠された扉へ誘導する構成で、投稿数の少ない時期に異様な完成度を示した作品として知られる。制作者は後年、「一本道とは、見る者の心のほうである」とコメントしたと伝えられている。
さらに、北海道の『冬眠する城』(2019年)は、同じ騙しを季節ごとに微妙に変えることで、プレイヤーの記憶を意図的に誤作動させる作品であった。中盤の旗が毎回1ドットずつ左にずれており、検証班が3週間かけて誤差の原因を調べた末、単なる入力ミスではなく演出であると判明したという。
脚注[編集]
脚注
- ^ 佐伯俊介『コース設計における期待値操作の研究』ゲーム文化評論社, 2018.
- ^ Margaret A. Thornton, "Deception Structures in User-Made Platform Stages," Journal of Digital Play Studies, Vol. 12, No. 3, 2019, pp. 44-67.
- ^ 藤堂和也『見えている床は信用できるか』関西インタラクティブ出版, 2020.
- ^ Hiroshi Tanaka, "The Ethics of the False Finish in Maker Communities," Game Design Quarterly, Vol. 8, No. 1, 2021, pp. 11-29.
- ^ 内田真央『実況時代の裏切り演出』東京コントローラ書房, 2017.
- ^ K. W. Ellison, "Ladder Lie and the Aesthetics of Repeated Failure," Proceedings of the North Pacific Game Convention, Vol. 4, 2020, pp. 203-219.
- ^ 橋本理恵『初見殺しの民俗学』みなと文化研究所, 2016.
- ^ Seiji Morimoto, "Expectation Routing in User-Generated Levels," International Review of Game Interfaces, Vol. 5, No. 2, 2018, pp. 88-104.
- ^ 『コース設計月報』第17巻第2号, コース設計月報社, 2017.
- ^ 西園寺一樹『やさしさの裏にあるトゲ』北海出版, 2022.
外部リンク
- コース設計月報アーカイブ
- 京都コース設計研究会 公式記録室
- 実況文化資料館
- 日本騙しコース協会
- North Pacific Game Convention Proceedings