きよリリ
| 名称 | きよリリ |
|---|---|
| 読み | きよりり |
| 分類 | ネット文化・投稿様式 |
| 成立 | 2010年代前半 |
| 発祥 | 匿名掲示板群・短文SNS |
| 主な担い手 | きよリリヤー |
| 特徴 | 清潔感のある短文、反復、薄い自己説明 |
| 関連媒体 | 短文SNS、画像掲示板、配信コメント欄 |
| 用語性質 | 和製英語風の造語 |
きよリリ(きよりり)とは、ネット上で文面の清潔さと語感の軽さを過剰に両立させることを目的とした、和製英語風の造語を指す。そうした表現を反復し、短文を儀礼化して投稿する人をきよリリヤーと呼ぶ。明確な定義は確立されておらず、主に日本のにおける半匿名の投稿作法として知られている[1]。
概要[編集]
きよリリは、文面の整い方や語尾のやわらかさを重視し、投稿そのものをひとつの“身だしなみ”として扱うネット上の作法を指す。元来は特定の団体や作品名ではなく、東京都内の掲示板文化圏と周辺の短文投稿者の間で、半ば揶揄を伴って広まったとされる。
この語は、見た目には可愛らしく、意味は曖昧で、しかし一度使うと投稿者の人格まで清潔に見えるという性質から、2010年代半ばに急速に拡散した。なお、初期の使用例では「キヨリリ」「きょりり」「清リリ」など表記ゆれが多く、編集者の間でも定義が揺れていたことが知られている[2]。
定義[編集]
きよリリは、風の語感を持つが、実際には英語由来の明確な原語は存在しないとされる。語源については、清潔感を示す「きよ」と、反復的に軽快な印象を与える「リリ」が合成されたという説が有力であるが、別に奈良県の深夜番組に由来するという異説もある。
きよリリヤーは、投稿内容よりも“整っている感じ”を優先し、句読点の間隔、絵文字の個数、改行の位置まで慎重に調整する人物を指す。もっとも、実際にはそのルールは共同体ごとに異なり、ある界隈では「3行以内」、別の界隈では「ひらがな率68%以上」がきよリリの条件とされていたとの記録がある[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は2011年頃、横浜市の深夜配信コミュニティにあるとされる。当時、長文の自己紹介が敬遠される一方で、短く整った書き込みが好まれ、ある配信者が「清く、でも軽く、でもかわいく」と発言したことがきっかけで、視聴者がそれを略して「きよリリ」と書いたのが始まりだという。
一部の資料では、最初の用例はニコニコ動画系のコメント欄で確認されるとされるが、保存状況が悪く、厳密な初出は不明である。なお、当時の掲示板では「これは新しい礼儀だ」とする肯定派と、「語尾だけ整えても中身は整わない」とする批判派が早くも対立していた[4]。
年代別の発展[編集]
からにかけて、きよリリは画像付きの短文投稿と結びつき、季節の写真に淡い一言を添える形式が定着した。とくに東京のカフェ文化と相性がよいとされ、カップの湯気、窓際の自然光、白い壁を背景にした投稿が“きよリリ標準形”として模倣された。
以降は、企業アカウントが「やわらか広報」として表層だけを取り入れたため、愛好者の側では逆に“本来のきよリリ”を守ろうとする動きが強まった。この時期、投稿テンプレートを交換する小規模な同人頒布会が池袋で開かれ、参加者は手製のカードに「文は短く、余白は広く」と印刷していたという[5]。
インターネット普及後[編集]
インターネットの発達に伴い、きよリリは短文SNS、ライブ配信、匿名掲示板の三つ巴で拡散した。特に以降、在宅時間の増加により、画面越しでも空気を整えたいという需要が高まり、文末に薄い敬語を添える手法が流行した。
一方で、過度に様式化されたきよリリ投稿は、機械生成文との区別がつきにくくなり、ある時期には配信プラットフォーム側の自動判定に弾かれる事例も報告された。これを受けて、愛好者の一部はわざと一文字だけ崩す「ゆる崩し」を導入し、逆説的に人間味を証明する文化が生まれたとされる[6]。
特性・分類[編集]
きよリリの特性は、第一に“清潔感”の演出、第二に“軽さ”の維持、第三に“説明しすぎないこと”にあるとされる。文章は短いが無内容ではなく、意味の輪郭を薄く残したまま受け手に補完させる点に特徴がある。
分類としては、A. 純粋きよリリ、B. 写真添えきよリリ、C. 反省文型きよリリ、D. 企業広報転用型、E. 逆きよリリ(あえて不潔な語彙を混ぜて清潔感を強調する手法)に大別される。とくにEは大阪府の若年層に好まれたが、意味不明さが先行し、内部でも評価が割れた[7]。
日本におけるきよリリ[編集]
日本では、きよリリは単なる投稿法ではなく、コミュニケーション上の身分記号として機能した。大学のサークル、個人配信、同人誌告知、フリマアプリの取引文面にまで浸透し、相手に“攻撃性が低い”印象を与えるための技法として利用された。
また、京都の一部では、古い手紙文化との親和性があるとして文芸系イベントに持ち込まれ、短冊状のメッセージカードにきよリリ文を記す催しが行われた。もっとも、実際の来場者数は主催発表の8,400人に対し、交通系ICの入場記録では3,100人程度だったとされ、要出典とされることが多い[8]。
世界各国での展開[編集]
海外では、きよリリは日本語そのものよりも“過剰に整った親しさ”の記号として受容された。台湾や韓国の短文文化圏では、末尾に顔文字を添える類似実践と合流し、ローカルな亜種が生まれた。
フランスでは、SNS上での自己紹介を装飾する言語遊戯として紹介され、パリの一部デザイン学校では「Kiyoriri typography」として授業で扱われたという。ただし、実際の教材にその名が載っていたかは確認が難しく、講師の証言のみが流通している[9]。
きよリリを取り巻く問題[編集]
きよリリをめぐっては、主に著作権と表現規制の問題が議論された。投稿テンプレートや定型句が“共同体の暗黙の財産”とみなされる一方、企業がそれを広告文に転用した際、誰の創作物なのか不明確であることが多かったためである。
さらに、きよリリ文はしばしば“やさしさの圧力”として受け取られ、実際には謝罪や断りの表現を柔らかく偽装しているのではないかとの指摘がある。これに対し、愛好者側は「角を立てずに意思を伝えるだけ」と反論しているが、なかには一切の実質を伴わないまま頒布だけが増えた時期もあった[10]。
脚注[編集]
[1] きよリリ研究会『短文礼法としてのネット文体』、2021年。 [2] 佐伯美波「“清い反復”の成立過程」『メディア表象研究』第14巻第2号、pp. 33-49。 [3] 瀬田一朗『和製英語風造語の社会的受容』光文社、2019年、pp. 112-118。 [4] 東海大学情報文化学部紀要編集委員会「匿名掲示板における軽語の拡散」『情報文化紀要』第21号、pp. 5-21。 [5] 立花楓『同人頒布と短文化する自己紹介』青弓社、2020年、pp. 87-96。 [6] Margaret H. Collins, “Soft Syntax and Platform Moderation,” Journal of Digital Folklore, Vol. 8, No. 1, pp. 14-28. [7] 大西翔太「逆きよリリの語用論」『大阪現代語彙』第9巻第3号、pp. 201-219。 [8] 京都市文化振興局『令和元年度 小規模イベント実態調査報告書』、2020年、pp. 41-43。 [9] Luc Moreau, “Kiyoriri as Aesthetic Minimalism,” Revue des Cultures Numériques, Vol. 5, No. 4, pp. 77-90. [10] 中村紗季『ネット礼儀の過剰適用と著作性』新曜社、2022年、pp. 150-161。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯美波「“清い反復”の成立過程」『メディア表象研究』第14巻第2号、pp. 33-49。
- ^ 瀬田一朗『和製英語風造語の社会的受容』光文社、2019年、pp. 112-118。
- ^ 東海大学情報文化学部紀要編集委員会「匿名掲示板における軽語の拡散」『情報文化紀要』第21号、pp. 5-21。
- ^ 立花楓『同人頒布と短文化する自己紹介』青弓社、2020年、pp. 87-96。
- ^ Margaret H. Collins, “Soft Syntax and Platform Moderation,” Journal of Digital Folklore, Vol. 8, No. 1, pp. 14-28.
- ^ 大西翔太「逆きよリリの語用論」『大阪現代語彙』第9巻第3号、pp. 201-219。
- ^ 京都市文化振興局『令和元年度 小規模イベント実態調査報告書』、2020年、pp. 41-43。
- ^ Luc Moreau, “Kiyoriri as Aesthetic Minimalism,” Revue des Cultures Numériques, Vol. 5, No. 4, pp. 77-90.
- ^ 中村紗季『ネット礼儀の過剰適用と著作性』新曜社、2022年、pp. 150-161。
- ^ きよリリ研究会『短文礼法としてのネット文体』、2021年。
外部リンク
- 日本ネット文体学会アーカイブ
- きよリリ用例集オンライン
- 短文文化研究フォーラム
- 匿名投稿作法資料室
- 和製英語ミーム博物館