これからオリックスは強くなります
| 名称 | これからオリックスは強くなります |
|---|---|
| 別名 | 強化宣言句、回復予報、北浜式前向き断言 |
| 分野 | スポーツ応援文化、都市民俗学 |
| 成立時期 | 1988年頃とされる |
| 成立地 | 大阪府大阪市北区北浜周辺 |
| 主要使用者 | 観戦者、ラジオ投稿者、商店街連合会 |
| 特徴 | 未来形を用いて強さを先取りして宣言する |
| 関連組織 | オリックス・バファローズ後援会、関西前向き表現研究会 |
| 象徴的所作 | 片手で紙コップを持ちながら3回復唱する |
| 文化的影響 | 球場応援、景気語彙、自己暗示の混交 |
「これからオリックスは強くなります」は、大阪市を拠点とするの一種であり、主にの球場外周や居酒屋、深夜のラジオ番組で反復される予言的定型句である[1]。もともとは昭和末期の周辺で流行した景気回復祈願の掛け声に由来するとされ、のちにオリックスへの情緒的な投資宣言として定着したとされる[2]。
概要[編集]
「これからオリックスは強くなります」は、特定の野球チームに対して向けられる、未来志向の断言句である。単なる期待表明ではなく、弱い時期から強さを先取りして言い切ることで、現実そのものを少しずつ前倒しするという民間信仰の要素を含むとされる。
この表現は、オリックスという語を含みながらも、実際にはチーム名そのものより、長期的な上昇運を呼び込むための言語儀式として広まった。特に大阪では、敗戦後の帰路や地下鉄の車内で小声で唱える習慣があるとされ、球団への愛着と半ば占術的な楽観主義が結びついた例としてしばしば言及される[3]。
成立の経緯[編集]
北浜の経済予報からの転用[編集]
起源については諸説あるが、もっとも有力なのは1988年頃、の証券街で使われた「これから相場は強くなります」という景気予報の言い回しが転用されたという説である。当時、株式仲買人のあいだで、根拠の薄い上向き予想をあえて断定形で発することが、相場心理に作用するという妙な経験則が共有されていたという[4]。
これが戦の帰りに飲まれた安価な焼酎と混ざり、球団名だけを差し替えた言い回しとして定着したとされる。なお、最初にこの句を紙ナプキンへ書きつけたのは、当時近くで海苔弁当を売っていた女性店員であったという証言もあるが、裏付けは乏しい。
ラジオ投稿文化への流入[編集]
1992年からにかけて、朝日放送の深夜帯番組において、リスナー投稿の締めの文句としてこの表現が急増した。葉書の末尾に「これからオリックスは強くなります」と書くと、採用されなくても読み上げの対象になりやすいと信じられ、結果として同句は一種の合言葉になった。
とりわけの中古レコード店主らがこの句をレジ横に貼り出したことで、球団応援と阪神戦の雑談と、当時流行していた自己啓発書の語法が奇妙に混線した。店主の一人は「言い切ると、だいたい遅れて強くなる」と語ったとされるが、これは後年の聞き書きであり、要出典の域を出ない。
応援句としての定着[編集]
に入ると、球場内の個人応援が高度化し、タオルを振る代わりに未来形でチームを励ます流儀が注目された。とくに周辺では、七回表終了後にこの句を3回、語尾を少しずつ上げながら唱える「三段上昇法」が流行した。
この手法は、勝敗に直接介入するのではなく、敗戦の印象だけを翌日にずらす効果があるとされ、の調査では、唱和経験者の62.4%が「翌朝の通勤時に気分が2割ほど上がった」と回答したという。ただし調査対象は会員19人であり、統計的にはかなり心許ない。
語法と特徴[編集]
この表現の特徴は、現在形でも過去形でもなく、未来形の確定を用いる点にある。通常の応援が「がんばれ」「勝て」であるのに対し、本句は「強くなります」と言い切ることで、勝利を願うのではなく、強化を既成事実として先払いする。
また、オリックスという固有名詞の響きが、企業名、球団名、金融商品名のいずれにも聞こえるため、スポーツ応援でありながらビジネス用語のような湿度を帯びることがある。これにより、居酒屋の隅で唱えてものような妙な説得力が生まれるとされる[5]。
語尾の「ます」は丁寧語であるが、実際には丁寧さよりも断言の硬さが際立つ。編集者の間では「命令形でも依頼形でもない、最も前向きな未来宣言」と評される一方、同様の句を他球団に転用すると急速に白々しくなることも知られている。
社会的影響[編集]
商店街への波及[編集]
からにかけての商店街では、この句を掲げた手書きポスターが増加し、特売日の告知文にまで未来形が侵入した。八百屋が「今日はまだ安いですが、明日はもっと強くなります」と書いた例が有名で、価格の上昇なのか商品の鮮度なのか判別しづらいとして話題になった。
また、沿いの看板広告で本句が使われた結果、球団の勝率とは無関係に、沿線住民の“希望の初速”だけが異様に高まる現象が観測されたという。これはの内部報告書にのみ残る記述である。
ファン心理への作用[編集]
心理学的には、この句は「現状認識の保留」を助ける表現として解釈されることがある。つまり、今は強くないことを否定せず、そのうえで強くなる未来を確定させるため、敗北直後の感情整理に向くとされる。
のある臨床心理士は、慢性的な球団応援疲れに対して本句を週3回、各15秒ずつ唱える介入を提案したが、患者の一部が「強くなるなら今日でなくてもよい」と受け止め、かえって先延ばし癖が増したという。これがのちに「希望の副作用」と呼ばれた[6]。
メディア化[編集]
2011年以降、この句は試合中継のテロップやのコメント欄で半ば定型文として扱われるようになった。中には、試合内容にかかわらず毎回同じ文を投稿する匿名ユーザーが現れ、編集部内では「強くなります係」と呼ばれていた。
の地域番組でも、町内会の高齢者がこの句を合唱する映像が1回だけ放送されたが、なぜかその回に限ってテロップが「これからオリックスは強くなります(予定)」となっていた。
批判と論争[編集]
批判の多くは、この句があまりに便利すぎるため、敗戦説明を先送りにする装置になっているというものである。実際、2014年ごろには一部の評論家から「無限延期の文法」と呼ばれ、強くなる時期を明示しないことで、永続的な期待だけを消費していると指摘された[7]。
一方で、支持者は「時期を言ってしまうと夢が狭くなる」と反論し、むしろ期限を定めないことこそが関西式の上品な希望であると主張した。この応酬は、のカフェで深夜2時まで続くことが多く、最終的には“いつか強くなる”派と“もう強くなっていると言い張る”派に分裂した。
なお、には、あるラジオ番組がこの句を「精神論である」と紹介したところ、翌週の投稿数が1.8倍に増えた。結果として、批判が最強の宣伝になってしまうという逆説が確認された。
派生表現[編集]
本句からは多数の派生表現が生まれた。たとえば「そろそろオリックスは強くなります」「たぶんオリックスは強くなります」「理屈はともかくオリックスは強くなります」などである。これらは語気が弱まるほど切実さが増すとされ、特に最後の形は敗戦翌朝ので頻用された。
また、地域によっては「オリックス、これから強くなります」と語順を入れ替える方言的変種も確認されている。言語学者の一部は、これは単なる語順変更ではなく、期待を主語の前に置くことで“強くなる主体”を聞き手へ委ねる高度な修辞だと評価している。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田辺俊介『球団応援句の都市民俗学』関西文化出版, 2007.
- ^ M. R. Caldwell, “Prospective Chanting and Emotional Anticipation in Japanese Baseball Fans,” Journal of Urban Ritual Studies, Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, 2013.
- ^ 井上真理子『未来形応援の社会学――断言するファンたち』ミナト書房, 2015.
- ^ 北條一馬『北浜商人と球団語法の変遷』大阪経済評論社, 1999.
- ^ Eleanor P. Hargrove, “The Semantics of Will-Statements in Sporting Cultures,” Comparative Fanology Quarterly, Vol. 8, No. 1, pp. 9-27, 2011.
- ^ 関西前向き表現研究会『断言の効能に関する予備調査報告書』同研究会資料室, 2018.
- ^ 佐伯みどり『ラジオ葉書と応援のかたち』朝霧社, 2004.
- ^ Shinji Watanabe, “Deferred Victory and the Sociology of Hope,” Asian Journal of Recreational Linguistics, Vol. 5, No. 2, pp. 113-139, 2020.
- ^ 大島義信『大阪市民と未来の言い切り』浪速新書, 2012.
- ^ Margaret L. Shaw, “A Study of ‘It Will Get Stronger’ Phrases in Kansai Commercial Districts,” Osaka Studies Review, Vol. 4, No. 4, pp. 201-219, 2016.
外部リンク
- 関西前向き表現研究会アーカイブ
- 北浜都市言語資料館
- 大阪応援句データベース
- オリックス応援文化年表
- 未来形ファン研究ネット