『宝田海』
| タイトル | 宝田海 |
|---|---|
| ジャンル | 海洋群像劇、冒険、伝奇、青春 |
| 作者 | 宝田 潮介 |
| 出版社 | 白銀書房 |
| 掲載誌 | 月刊リードバースト |
| レーベル | リードバースト・コミックス |
| 連載期間 | 1994年3月 - 2002年11月 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全132話 |
概要[編集]
『宝田海』は、からにかけて『』に連載されたである。作者のは、神奈川県の港町で幼少期を過ごした経験を下敷きに、実在の東京湾とは別に、満潮時だけ陸地が現れる架空の湾岸地域「宝田海市」を設定したとされる[2]。
作中では、海図に存在しない島影を追う少年少女たちと、、編集部、さらには国家規模の潮流研究機関が複雑に交錯する。累計発行部数はを突破したとされ、1998年のテレビアニメ化以降は、海洋ブームと地図ブームを同時に巻き起こした作品として語られることがある[3]。
一方で、初期の読者アンケートでは「専門用語が多すぎる」「波の向きにしては人物の感情が強すぎる」といった意見も見られ、作品研究ではその過剰な設定密度がむしろ魅力であったと分析されている。なお、作中の“潮目を読む者”という概念は、後年のおよび都市伝説の双方に影響を与えたとする説がある。
制作背景[編集]
作者のは、1980年代後半にの倉庫街で見た潮汐標識と、当時流行していた群像漫画の文法を結びつける構想を得たとされる。草案段階では題名が『海の宝田くん』であったが、編集会議において「人名に見えるのに地名でもあるほうが、検索性と読後感の両方で強い」と判断され、現在の表記に定まったという[4]。
連載開始前には、内の企画担当・が、実在の潮汐表と照合しながら「毎話の満ち引きが1ミリ単位で整合するか」を確認したとされる。もっとも、後年の再検証では第27話から第34話にかけて潮位変化がの季節気圧配置と矛盾しているとの指摘もあり、編集部は「作品上の象徴表現である」と説明している[要出典]。
また、単行本第6巻の帯には「地図が読めなくても、生きていけるのか。」という宣伝文句が採用され、当時としては珍しく風の図版を模した折り込み特典が付属した。これにより、一般層のみならず地図愛好家や港湾労務関係者にまで読者が拡大したとされる。
あらすじ[編集]
潮目覚醒編[編集]
物語はの外れに住む少年・が、干潮時にだけ現れる石碑「潮返し」を見つける場面から始まる。石碑には、宝田海の潮路を外れた船は必ず記憶を失うという古い警告が刻まれていた。
レンは、港で出会った少女とともに、潮目を読む能力を持つ老人の手引きで、湾内の異常潮流を調査する。二人は、毎月17日の夜にだけ現れる「逆流の階段」を通じ、海底に沈んだ旧市街の存在を知るのである。
灯台連盟編[編集]
中盤では、と呼ばれる民間組織が登場し、潮流予測を独占することで港湾物流を支配していたことが明らかになる。レンたちは、連盟の中枢にある回転式灯室へ侵入し、そこで製の観測日誌と、なぜか昭和表記のない年号体系を発見する。
この章では、連盟の長が「海は共有財産ではなく、記憶の管理装置である」と語る場面が有名であり、以後の作品解釈では政治寓話として読まれることが多い。
宝潮祭編[編集]
終盤のでは、海に神輿を浮かべるという奇習がクライマックスとして描かれる。レンたちは、潮位が最大になるの深夜、海面に沈んでいた“もうひとつの街”を浮上させ、失われた住民名簿と、海そのものを封印する錨を発見する。
最終決戦では、ミオが自らの記憶を代償に潮目を固定し、市街地の崩壊を防ぐ。レンは、海を失ったで初めて「陸の匂い」を知り、物語は静かに幕を下ろすのである。
登場人物[編集]
は、本作の主人公である。航海士志望でありながら地図が読めず、代わりに波紋のわずかな乱れから人の嘘を見抜く能力を持つ。作中では17歳から19歳までの間に3回も進路変更をしており、読者からは「最も進学に向かない少年」と呼ばれた。
は、港の診療所で育った少女で、潮目の変化を指先の温度で感じ取ることができる。第11巻では、実はの旧測候官の末裔であることが判明し、家系図がやけに細かく描かれたページが話題となった。
は、連載初期から登場する老人で、の元職員とされる。60年前の高潮事故を唯一生き延びた人物として描かれるが、年齢に対して肩幅が広すぎるため、連載当時から「作画で海風を受けすぎている」と評された。
は、灯台連盟の総責任者である。冷静沈着な人物だが、潮の満ち引きに合わせて話し方が微妙に変化する癖があり、ファンの間では「月齢で性格が切り替わる上司」として人気を博した。
用語・世界観[編集]
作中の最大の特徴は、「」が単なる海流ではなく、記憶・感情・貨物の配送時刻までも左右する準物理現象として扱われる点にある。潮目は1日3回ではなく、独自の「第4潮」を含めて4回起こるとされ、これは海底に埋設された古い機械遺構が原因と説明されている。
「」は、干潮時にだけ露出する石造りの階段であり、港湾地帯の複数地点に断続的に現れる。地元では通学路としても知られ、学生が遅刻回避のために利用する描写が頻出するが、実際には1日に平均しか開通しないため、実用性はかなり低い。
また、「」は本来、漂流物を元の持ち主に返すための護符であるが、本作では海流制御の暗号鍵として再定義されている。この設定は連載後半に急速に増殖し、単行本では見開き1ページ丸ごとが用語説明に費やされる巻が連続したこともある。
世界観研究では、本作の地理設定が東京都や神奈川県の港湾構造を参照しつつ、意図的に潮位制度だけを架空化している点が指摘されている。なお、作中では海底の郵便局や、満潮時のみ営業する書店が存在し、これらは後年のファン創作で半ば公式化した。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルから刊行され、初版帯には毎巻異なる「潮のことわざ」が記されていた。第1巻は7月に刊行され、最終第18巻は2月の発売であった。
完全版はに全10巻で再編集され、未収録ネーム8ページと、作者本人による潮位メモが追加された。とくに第9巻収録の「海底改札」回は、ページ下の方にだけ小さな波線が入っており、これは編集部のミスではなく「読者の視線が流されるように」とする演出だったという。
海外版はから英訳刊行され、題名は『Hoda Sea』となった。なお、英訳版では固有名詞の一部が現地風に改変され、が “Festival of Receding Memory” と訳されている。
メディア展開[編集]
1998年にはによりテレビアニメ化され、全39話が放送された。アニメ版では潮の効果音が実際の瀬戸内海の録音を基に制作され、深夜帯でありながら視聴率を記録した回もあったとされる。
また、2000年には実写映画化企画が進行し、千葉県の旧漁港で巨大な波のセットが組まれたが、試験撮影の日に限って風向きが変わりすぎたため、結局は特別番組『宝田海 風待ちの記録』として再編集された。こちらは「実写なのに海が出ない」と話題になった。
さらに、による向けシミュレーションゲーム『宝田海 潮読みの書』、および制作のドラマCD『海底の名前』が発売され、メディアミックス作品群は一時的に社会現象となった。特にドラマCD第2巻の効果音は、缶詰を千枚通しで突いた音を加工したものとして知られている。
反響・評価[編集]
本作は、後半の少年漫画において、バトルやギャグではなく「潮位の変化」を物語推進力にした点が高く評価された。批評家のは「海を背景ではなく登場人物の一人として扱った」と評し、の年報でも、地方都市像の描写が極めて精密であると指摘された。
一方で、連載中盤以降の設定の増殖については賛否が分かれた。読者の間では「10ページに3回は固有名詞が増える」と言われ、単行本の索引が第14巻で急に26ページに達したことが半ば伝説化している。また、潮汐に関する説明が時折天文学を飛び越えてに近づくため、理系読者からの問い合わせが編集部に月平均届いたという。
それでも、完結後も再評価は続き、代には「都市の水没表象」「記憶と海の交換価値」を扱う研究書が複数出版された。中でも第16巻の「海は誰のものでもないが、誰かの都合で波形は変えられる」という台詞は、引用のされ方が妙に独り歩きしている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 宝田 潮介『宝田海 第1巻』白銀書房, 1994, pp. 3-189.
- ^ 宮内 亮一『月刊リードバースト編集史 1990-2005』白銀文庫, 2008, pp. 41-76.
- ^ 遠野 玲子「湾岸神話としての『宝田海』」『現代漫画研究』Vol. 12, 第3号, 2004, pp. 22-39.
- ^ Katherine Wells, “Tide as Narrative Engine in Hoda Sea,” Journal of Imaginary Manga Studies, Vol. 7, No. 2, 2011, pp. 88-104.
- ^ 宝田 潮介『宝田海 第9巻 海底改札』白銀書房, 1998, pp. 5-201.
- ^ 黒崎源吾『潮位観測日誌抄』宝田海測候所資料室, 1972, pp. 11-58.
- ^ 白波ミオ研究会編『ミオと海の記憶装置』群青社, 2016, pp. 130-171.
- ^ Y. Nakamura, “Cartographic Anxiety in Late-90s Seaside Comics,” East Asian Visual Culture Review, Vol. 4, No. 1, 2019, pp. 15-33.
- ^ 宝田 潮介『宝田海 完全版あとがき集』白銀書房, 2010, pp. 1-44.
- ^ ジェフリー・マイルズ『The Sea That Refused to Stay Still』Pearl Current Press, 2001, pp. 201-229.
外部リンク
- 白銀書房作品案内
- 宝田海公式潮位資料館
- 月刊リードバーストアーカイブ
- 宝田海ファン研究会
- 虹波テレビアニメ特設ページ