2000年代初頭に放送されたという謎のCM
2000年代初頭に放送されたという謎のCM(にせんねんだいしょとうにほうそうされたというなぞのシーエム)は、日本で流布した都市伝説の一種である[1]。
概要[編集]
2000年代初頭に放送されたという謎のCMとは、2000年代初頭に一部の家庭で目撃されたとされる、テレビ放送局や広告枠の記録と一致しない「謎の広告映像」に関する都市伝説である。噂の内容は、手の込んだ映像技術と不気味な音響を特徴としており、全国に広まったという話が多い[2]。
伝承では、そのCMは「広告一覧にも載っていない」とされ、次第に同じ映像を同じ日時に受信したという目撃談が積み重なったと語られている。ときに、CMのあとで家電が一斉に誤作動したという恐怖の目撃談まで添えられ、噂が噂を呼ぶブームになったとも言われている[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、2000年代初頭の地上波再送信の運用が微妙に変わった時期にあるとされる。具体的には、(当時の通称「関通」)が、難視聴地域向けの受信補償プロトコルを試験導入したという伝承がある[4]。
その試験の副作用として、放送局側のアーカイブと家庭側の受信機が「別番組の黒枠」を別の信号と誤認し、結果として本来は放送されなかった映像が一定時間だけ“挿入された”とされる。噂の中では、これが「幻の広告枠」を生む原因になったという話が流布した[5]。なお、正体については諸説あり、「旧式の番組自動検出ソフトが悪さをした」とされる説と、「妖怪的な圧縮アーティファクトが実体化した」とされるお化け説の両方がある[6]。
流布の経緯(アルメニアの件)[編集]
全国に広まったきっかけは、2002年の夏にの公開収録が「同日に見た人だけが知っている“曲”が流れた」と噂になり、ネット掲示板で映像のスクリーンショットが回覧されたことだとされる[7]。投稿者の一人が「色味が90年代の規格っぽい」と書いたところ、追跡が加速した。
数か月後、ある匿名の検証者が、放送記録の“空白”に対応する海外テープを照合し、1990年にで流されたCMと“同一素材”だと特定されたという話が出回った[8]。そこで人々は、「なぜ10年前のアルメニアのcmが今更受信されたのか」と疑い始めた。
この疑念はさらに加速し、の関連会社が運用する中継点(地名としては神奈川県川崎市付近の“旧変調器舎”とされる)が海外信号の“戻り”を一時的に許した、といった細部まで語られるようになった。と言われているが、目撃談の多くは“信号の戻り”を見た瞬間、チャンネル表示が『—』のように空白化したと記述している[9]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承では、謎のCMの目撃者は「広告代理店の新人」「夜勤の保守員」「字幕の誤字を直す仕事をしている人」など、映像と文字情報に近い属性に偏っているとされる。噂の中で最も語られる人物像は、の小規模電器店に勤めるという“修理班リーダー”である。目撃談では、彼はCMを見た翌朝に、冷蔵庫の表示が『1990』とだけ点滅したと語ったと言われている[10]。
伝承の内容は概ね次の通りである。まず、画面の上部にが一瞬だけ表示されるが、数フレーム遅れて反転し、次に音声が「商品の説明」ではなく「周波数のカウント」を繰り返すという怪談がある[11]。さらに、CMの最後にロゴが出るはずが、代わりに白地に黒い円だけが残り、「円の中の“欠け”がなぜか地元の方角を指していた」とする目撃談も報告された[12]。
一方で、出没するタイミングにはパターンがあるとされる。平日23時台の気象速報直後、あるいはのスポーツ中継の延長前に見たという恐怖の目撃談が多く、全国に広まったブームに拍車をかけたとされる[13]。正体を探ろうとした家では、テーブルタップが勝手に落ち、恐怖と不気味の感情が同時多発的に発生したという話もある[14]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細として語られる違いは、色味、文字の出方、そして“商品カテゴリ”の変化である。最も一般的なバリエーションは「飲料系」だが、別の系列では「洗剤」「健康食品」「通信端末」「自動車の査定サービス」など、ジャンルが入れ替わると言われている[15]。
また、派生バリエーションには「画面がブロックノイズに飲まれるもの」「CMの開始前に、家庭のレコーダーが勝手に30分予約を追加するもの」がある[16]。よく読むと細部が怪しく、例えば“洗剤バージョン”では、泡の描写の間に『7秒間だけ無音』が挟まれるとされる。なお、その無音の長さが毎回『7.0秒』ではなく『6.8秒』と報告される例があり、細かい数字に執着した投稿が“研究ごっこ”として流行した[17]。
さらに「学校の怪談」化した派生として、東京都世田谷区のある中学校で、放送委員が校内放送のテスト中に同じ音階の着信を聞いたという言い伝えがある。伝承では、その音階は“校内掲示板の更新時刻(毎日17時12分)”と同期しており、聞いた生徒のノートにだけ、意味のない英数字が並んだとも語られている[18]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、恐怖の火消しとして口伝されてきたものが中心である。まず推奨されるのは、謎のCMを見た直後に、テレビのチャンネルを一度“地上波の一番下”まで落とすことである。噂の理由は、誤認識した受信機が“黒枠”の定位を失うからだとされる[19]。
次に多いのは、ブースター電源を抜き差しして「周波数のリセット」を試みる方法である。目撃談では、差し込みから復帰までの待ち時間が『13秒ぴったり』であるべきだと主張する投稿があり、根拠として「13は昔の試験表記に近い」と語られた[20]。ただし、この方法は過電流を招く可能性があり、怪談としては広まったものの安全面の批判も後に出たとされる。
また、噂の中には“儀式”めいた対処法もある。「CMの白い円ロゴの欠けを、方角どおりに見てから時計を逆回しにすると再発しない」と言われている。言い伝えでは、これをやった家で翌日から誤作動が止まったという話がある一方、逆に“欠け”を見ないで目をそらすと、別のバージョンが出たという恐怖談もある[21]。
社会的影響[編集]
社会的影響として最も語られるのは、2000年代初頭のメディア不信を一段深くした点である。家庭の中で「見たはずのないCMが確かに流れた」という体験が共有され、ブロードキャストの透明性に対する不安が全国に広まったという[22]。
一方で、波紋は技術系コミュニティにも及び、「受信機の誤認識」「中継点のアーカイブ差し替え」「地域ごとの周波数整合」などの議論が一時的に活発化したとされる。特に神奈川県を中心に、修理業者が“短期講習”を開いたという噂があり、参加者には「テスト用信号の判別方法」の配布資料があったと語られている[23]。資料の表紙には、なぜか白い円に似た図形が印刷されていたという話もある。
また、消費者心理としては、謎のCMに登場する架空商品が急に話題になり、実在しないのに在庫問い合わせが増えるという現象が起きたとされる。噂の“健康食品”バージョンについて「成分表が存在しないのに注文が届いた」などの笑える報告が残っているが、正確な統計は不明とされる[24]。
文化・メディアでの扱い[編集]
都市伝説としての扱いは、マスメディアの特集番組によって加速した。2003年に特番を担当したのディレクターが「映像の一致率が高かった」と語り、視聴者の投稿映像を“検証風”に編集したという話がある[25]。このとき、テロップがわずかにズレて「1990年」の表記が「2000年」に見えたという指摘が出て、さらに混乱が増したとされる。
文化面では、ネット上の動画共有サイトで「謎のCMだけを切り出したダイジェスト」が作られ、視聴者がそれを“比較して楽しむ”二次創作が発生した。ある二次創作では、謎のCMの最後に出る白い円ロゴを、楽譜のように翻訳することで“音階怪談”として再構成したとされる[26]。一方で、この解釈は過剰な読み替えだとして批判もあり、正体は結局「受信誤差」か「古いCM素材の混入」か、はっきりしないままになった。
学校の怪談としては、前述のように校内放送や部活の連絡端末に“同じ音階が鳴る”という話が派生した。と言われているが、ある回の講演会では講師が「これにまつわる怪奇譚は、家庭内の視聴習慣が変わった家庭ほど起きやすい」と断言しており、学級会で笑い話になりつつも、最後は不気味な余韻を残したと記録されている[27]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
※すべて架空の文献である。
[1] 田村蒼太『夜の受像機と白い円ロゴ—謎CM伝承の記録—』ベテル出版, 2004. [2] 山口海斗「家庭内誤挿入としての広告逸脱—2000年代初頭の事例分析—」『放送文化研究』第12巻第2号, pp. 33-51, 2005. [3] 森脇玲奈『怪談デジタルファイル—ブームの形成過程—』新星図書, 2006. [4] 関東総合通信局 編『受信補償プロトコル試験報告(非公開別冊)』関通資料室, 2001. [5] 佐伯倫太郎「黒枠誤認とユーザー体験—都市伝説化する技術要因—」『信号と社会』Vol.7 No.1, pp. 10-28, 2004. [6] イオネス・アヴェティス『圧縮アーティファクトの擬人化論』アルメニア電波学院出版, 1999. [7] 「投稿映像の編集検証メモ(会議資料)」, 2002. [8] Marat S. Petrosyan「On the Alleged Re-broadcast of 1990 Advertising in Remote Receivers」『Journal of Cross-Archive Broadcasts』Vol.3 Iss.4, pp. 201-219, 2006. [9] 相原和臣『神奈川中継点の変調器舎—記憶と機器の相関—』港北工房, 2007. [10] 高橋澪『誤表示の数字が示すもの—冷蔵庫点滅“1990”の物語—』蒼雲書房, 2008. [11] K. Harada「音声に残る周波数カウント—謎CMの聴覚表象—」『Sociophonetics of Broadcast Legends』Vol.2, pp. 77-96, 2005. [12] 町田一成「ロゴ欠けの方角推定—視覚ノイズの都市伝説化—」『怪奇地図学』第5巻第1号, pp. 1-19, 2007. [13] 大谷真弓『恐怖の時間帯—都市伝説における“同時性”の条件—』文理ミステリ, 2006. [14] ニコグル・ハルチュン『受信事故と噂の連鎖』エレバン学術叢書, 2003. [15] 藤堂悠『商品カテゴリの揺らぎ—謎CMの“差し替え”—』リブラ出版, 2005. [16] 田辺亮平「ブロックノイズ誘導型伝承の構造」『映像民俗学年報』第9号, pp. 120-138, 2006. [17] 小倉涼介「6.8秒問題—無音区間の物語的機能—」『メディア怪談通信』Vol.1 No.2, pp. 55-64, 2004. [18] 鈴木健人『学校の怪談録(関東編)』竹林堂, 2009. [19] 藤原礼奈「チャンネル“最下段”儀式の実効性—都市伝説における操作手順—」『メディア行為研究』第3巻第3号, pp. 210-227, 2007. [20] Samuel R. Kessler「Reset Ritual Timing in Domestic Urban Legends」『Proceedings of Folk-Tech Studies』Vol.10, pp. 300-315, 2008. [21] 佐藤春奈『欠けを見る/見ない—白い円ロゴの解釈争い—』幻影学術会報, 2006. [22] 山本優梨『メディア不信の微分—2000年代の体験共有と都市伝説—』中央シティ研究所, 2005. [23] 井上雄太「受信機修理の地域ネットワーク—神奈川事例—」『技術と噂の社会史』第2巻第1号, pp. 41-60, 2006. [24] 斉藤菜月『架空商品の問い合わせ統計は存在するか』東京クロス出版, 2010. [25] 片桐晃「特番編集が作る“検証感”」『放送編集学研究』Vol.6 No.2, pp. 90-109, 2004. [26] 宮崎楓『音階怪談の作法—謎CM二次創作の系譜—』星雲コミュニケーション, 2005. [27] 西村俊介『笑いと不気味—学校講演会における都市伝説の受容』月光教育社, 2007.
参考文献のうち、マスメディア向け解説として『Journal of Cross-Archive Broadcasts』に酷似した体裁の『Journal of Cross-Archive Broadcasts』(題名が微妙に異なる—“Journal of Cross-Archive Broadcasts”の誤記版)が紛れて引用されている例があると報告されている[28]。
脚注
- ^ 田村蒼太『夜の受像機と白い円ロゴ—謎CM伝承の記録—』ベテル出版, 2004.
- ^ 山口海斗「家庭内誤挿入としての広告逸脱—2000年代初頭の事例分析—」『放送文化研究』第12巻第2号, pp. 33-51, 2005.
- ^ 森脇玲奈『怪談デジタルファイル—ブームの形成過程—』新星図書, 2006.
- ^ 関東総合通信局 編『受信補償プロトコル試験報告(非公開別冊)』関通資料室, 2001.
- ^ 佐伯倫太郎「黒枠誤認とユーザー体験—都市伝説化する技術要因—」『信号と社会』Vol.7 No.1, pp. 10-28, 2004.
- ^ イオネス・アヴェティス『圧縮アーティファクトの擬人化論』アルメニア電波学院出版, 1999.
- ^ Marat S. Petrosyan「On the Alleged Re-broadcast of 1990 Advertising in Remote Receivers」『Journal of Cross-Archive Broadcasts』Vol.3 Iss.4, pp. 201-219, 2006.
- ^ 相原和臣『神奈川中継点の変調器舎—記憶と機器の相関—』港北工房, 2007.
- ^ K. Harada「音声に残る周波数カウント—謎CMの聴覚表象—」『Sociophonetics of Broadcast Legends』Vol.2, pp. 77-96, 2005.
- ^ 町田一成「ロゴ欠けの方角推定—視覚ノイズの都市伝説化—」『怪奇地図学』第5巻第1号, pp. 1-19, 2007.
外部リンク
- 白い円ロゴ資料室
- 関通・試験プロトコル掲示板
- 受信誤認アーカイブ
- 謎CMスクリーンショット倉庫
- 学校の怪談(関東支部)