ねこじゃらしソムリエ
| 名称 | ねこじゃらしソムリエ |
|---|---|
| 別称 | エノコロ評価士、猫遊具鑑定師 |
| 分野 | 動物行動学、園芸、接客サービス |
| 発祥 | 日本・関東地方 |
| 成立時期 | 1987年ごろ |
| 資格制度 | 民間認定・準公的登録制 |
| 代表的研修地 | 神奈川県鎌倉市・大船地区 |
| 関連機関 | 日本ねこじゃらし協会 |
ねこじゃらしソムリエとは、の揺れ方、穂先の密度、踏圧後の復元速度などを総合的に評価し、猫の興奮度に最適な「じゃらし」を選定する専門職である。主として東京都と神奈川県の都市部で発展したとされ、近年は農林水産省の後援事業にも名を連ねるようになった[1]。
概要[編集]
ねこじゃらしソムリエは、を中心とする草本を用いて、猫の行動変化を観察し、最適な遊び方を提示する職能である。単なる遊具選びにとどまらず、穂の硬さ、長さ、香り、採取時刻、さらには湿度56〜63%の室内での反応まで評価対象に含むとされる[2]。
この職能は、都市化により屋外での採草機会が減少した昭和末期のペット文化から生まれたとされる。もっとも、初期の文献では「猫をじゃらす者」と「草を見極める者」が別職種として扱われており、両者が統合されたのは1991年の横浜市内の小規模展示会以後であるとする説が有力である[3]。
歴史[編集]
起源と草相学の時代[編集]
起源は、世田谷区の園芸店主・渡辺精一郎が、猫が同じでも特定の株にのみ激しく反応する現象を記録したことにあるとされる。渡辺はこの差を「草相」と呼び、穂先の反り、節間の長さ、風に対する鳴り方を表計算していたという。
1989年には、彼のメモが『月刊ねこ暮らし』編集部に持ち込まれ、編集者の橋本澄江が「ワインのソムリエに倣うべきだ」と提案したことで、ねこじゃらしソムリエの語が定着した。なお、当時の草相表には「雨上がりの午前9時台は猫が斜めに入る傾向がある」など、現在ではやや眉唾とされる項目も含まれていた[4]。
資格制度の整備[編集]
、がの旧料亭を借りて第1回認定講習を実施し、受講者32名のうち9名が「初級ソムリエ」、2名が「準上級ソムリエ」として登録された。試験は、目隠しした猫に対して5種類の草束を提示し、15分以内に最も長く追跡されたものを理由付きで説明する形式であった。
この制度は一見すると厳密であったが、実際には会場の障子紙が猫の集中を著しく妨げたため、合否が障子の張り替え時期に左右されたという。以後、試験規格には「白色反射率0.74以下の壁面を用いること」が追加され、園芸と建築の双方に影響を与えたといわれる[5]。
評価基準[編集]
ねこじゃらしソムリエの評価は、一般に「揺動性」「視認性」「反復耐久性」「猫待機率」の4指標から構成される。うち最重要とされるのは猫待機率であり、これは草束を提示してから猫が半径1.5m以内に入るまでの時間を平均化した独自指標である。
また、上級者は草束を切り取る際の茎角度を前後に保つことが推奨される。これは、同角度で切ると猫の前脚の伸長動作が最も滑らかになるという経験則に基づくが、理論的根拠については今なお議論がある[7]。
主な人物[編集]
制度の基礎を築いた人物としては、前述の渡辺精一郎のほか、動物行動学者の、草本分類学者の、接客理論を導入したが挙げられる。三浦は猫の視線移動を高速撮影で解析し、草の「初動から0.8秒以内に耳が立つ個体」を高評価としたことで知られる。
Thorntonはロンドンで開催された「Urban Felid Play Symposium 1998」において、日本の草束文化を「低コストで極端に精密な嗜好品」と評し、以後、海外でも「grass sommelier」の訳語が流通したとされる。なお、小野寺は講習で「客に草を売るのではなく、猫の機嫌を設計するのである」と述べたと伝えられる。
社会的影響[編集]
ねこじゃらしソムリエの普及により、都市部のではエノコログサを束ねる専用コーナーが設けられ、乾燥剤の小袋まで「香気保持用」として販売されるようになった。また、の待合室に草束見本が置かれたことで、診察前の猫が暴れにくくなったという報告もある[8]。
さらに、子ども向けの自然教育にも取り入れられ、東京都の一部小学校では「春の草鑑定」として校庭の雑草を観察する授業が行われた。ただし、児童がエノコログサを持ち帰りすぎて家庭内の掃除負担が急増したため、保護者からは賛否が分かれた。
批判と論争[編集]
批判の中心は、評価が主観に左右されやすい点である。とりわけ2011年の「第3回関東ねこじゃらし選抜」では、審査員5名中3名が同じ猫に同じ草束を与えたにもかかわらず結果が割れ、採点表に「猫の気分」と書かれた欄が実質的な決定打になったため、選考の公正性が問題視された。
また、草の採取場所をめぐる倫理問題もある。河川敷の特定区画で採った草が上位評価されることから、地元では「草のブランド化が進みすぎている」との声が出た。一方で協会側は、採草許可証の導入と種子散布義務を設けたため、生態系への影響は限定的であるとしている[9]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『草相学入門――猫を動かす穂先の科学』日本園芸評論社, 1992.
- ^ 橋本澄江『月刊ねこ暮らし別冊 ねこじゃらしソムリエ総覧』猫文化出版, 1995.
- ^ 三浦芳子『猫の視線と草本揺動の相関』動物行動学会誌 Vol.18 No.2, pp.41-58, 2001.
- ^ 小野寺紘一『接客としての遊具選定――都市猫サービス論』サービスデザイン研究所, 2004.
- ^ Margaret A. Thornton, “Grass Selection and Urban Felid Preference,” Journal of Companion Animal Studies, Vol.12, No.4, pp.201-219, 1999.
- ^ Kenji Saitō, “The Sommelierization of Weeds,” Pacific Horticulture Review, Vol.7, No.1, pp.13-29, 2003.
- ^ 日本ねこじゃらし協会編『認定試験標準問題集 第4版』鎌倉草遊技術センター, 2008.
- ^ 田辺瑠璃子『都市雑草の民俗誌』平凡社, 2012.
- ^ 佐伯一郎『ねこじゃらしソムリエ年鑑 2010-2014』関東草業新聞社, 2015.
- ^ Eleanor B. Finch, “Cat Waiting Rate and the Ethics of Play,” International Journal of Feline Practice, Vol.9, No.3, pp.77-90, 2016.
- ^ 『猫の機嫌を設計する』という概念の再検討, 日本接客学研究, 第5巻第1号, pp.2-17, 2018.
外部リンク
- 日本ねこじゃらし協会
- 鎌倉草遊技術センター
- 月刊ねこ暮らしアーカイブ
- 都市猫サービス研究会
- 関東草業新聞社