テレビのリモコン無くした男
| 氏名 | 久保田 迅一 |
|---|---|
| ふりがな | くぼた じんいち |
| 生年月日 | 1948年4月17日 |
| 出生地 | 東京都墨田区 |
| 没年月日 | 2006年11月2日 |
| 国籍 | 日本 |
| 職業 | 研究家、随筆家、講師 |
| 活動期間 | 1972年 - 2006年 |
| 主な業績 | 『無線操作喪失論』の提唱、家庭内探索導線の標準化 |
| 受賞歴 | 日本生活技術文化賞奨励賞、関東家電史研究会特別表彰 |
久保田 迅一(くぼた じんいち、 - )は、日本の民間放送機器研究家、随筆家である。テレビのリモコン捜索術を体系化した人物として広く知られる[1]。
概要[編集]
久保田 迅一は、昭和後期から平成初期にかけて活動した東京都出身の人物である。家庭内でテレビのを失くした際の心理と行動を観察し、これを生活文化の一分野として記述したことで知られる[1]。
久保田は、単なる紛失事案を「家族間の権限移譲」「座位固定化の失敗」「卓上面積の逆転現象」として捉えた点に特色がある。また、彼の著作は後年、日本放送協会の生活情報番組や、の社内研修で参照されたとされる[2]。
生涯[編集]
生い立ち[編集]
、墨田区の長屋に生まれる。父は小さな電気工事店を営み、母は近隣の婦人会で回覧板の整理を担当していたとされる。幼少期の迅一は、ラジオのつまみを回しては音の変化を記録する癖があり、近所では「音を探す子」と呼ばれたという[3]。
、家庭に初めてが入った際、迅一は電源の下に紙片を差し込んで角度を固定する独自の手法を思いつき、以後これが彼の「機器配置学」の原点になった。なお、当時からすでに「チャンネルは誰が握るか」で家族会議が発生していたとされ、後年の研究の伏線になったとみられる。
青年期[編集]
に相当の夜間部を卒業後、千代田区の家電販売会社に就職した。ここで彼は、購入者の多くが「説明書を読まずに最初に探す物は何か」を調査し、最頻出項目がリモコンであると結論づけている[4]。
1971年には早稲田大学の公開講座「都市生活と操作装置」に聴講生として通い、機械工学の講師に師事したと伝えられる。斎藤は後年の回想録で、迅一について「理屈の半分は真面目、残りの半分は家の中でしか成立しない」と評した。
活動期[編集]
、地域紙『』に連載した「リモコン失踪記」が評判となり、同年に独立して生活観察家を名乗るようになった。とりわけ、失くした直後の人間が示す三段階反応――無言の探索、家具の移動、最後に家族への疑念――をまとめた「三相捜索理論」は、彼の代表的仮説として知られる[5]。
には、池袋の貸会議室で「家庭内遠隔操作の限界」と題する講演を行い、会場に持ち込まれたリモコン37個を用いて、ソファの下・座布団の間・新聞紙束の内部の発見率を比較した。発見率はソファ下が41.3%、座布団間が27.8%、新聞紙束が19.6%であったとされるが、集計方法には要出典の指摘がある[6]。
1990年以降はの生活文化番組にも断続的に出演し、リモコンを失くした家庭における「一人称責任の所在」について解説した。特に、家族のうち最もテレビ視聴時間の長い者が、なぜか最も探し物に不向きであるという逆説を繰り返し論じた点が注目された。
晩年と死去[編集]
2000年ごろからは、講演活動を減らし、の自宅書斎で著作に専念した。晩年は「探すことは、失った物そのものではなく、失った家族の会話を取り戻す行為である」と述べたとされる[7]。
11月2日、のためで死去した。死去の数日前、枕元から旧式のリモコンが1本発見されたという逸話が残るが、本人の手によるものか家族のいたずらかは判然としない。
人物[編集]
迅一は寡黙で几帳面な人物であったが、家庭では極端に方向感覚が弱く、冷蔵庫の上に置いた鍵を2日後に「保管庫」と呼んでいたという逸話がある。近隣住民によれば、彼は来客があると必ず座布団の枚数を確認し、無意識に「探索前提の室内設計」を始めた。
性格は温厚であったが、リモコンに関する話題になると急に語調が鋭くなり、指先で空中に長方形を描きながら「失くしたのではない、位置情報が失効したのである」と主張したと伝えられる。また、会合ではコーヒーよりも麦茶を好み、机上に置くカップの位置まで厳密に決めていた。
一方で、彼の講演は妙に実践的で、参加者には毎回「まず自分の腰の下を探せ」と指導した。これが後に「迅一の第一法則」と呼ばれ、家庭内探し物研究の入門句として引用されるようになった。
業績・作品[編集]
迅一の代表作は、1984年刊の『――家庭内リモコン探索の手引』である。同書では、リモコン紛失を「操作権の空白化」と定義し、探索時の姿勢、照明条件、家族への問いかけ順序まで数値化した点が画期的であった[8]。
また、『座椅子と権力』、『チャンネル権の民俗学』、『消えた掌の長方形』などの随筆集を刊行した。中でも『チャンネル権の民俗学』は、の家庭23世帯を対象に、夕食時のチャンネル変更権が誰に帰属するかを調査したもので、調査票の最後に「なおリモコンは見つかったか」を付けた構成が珍しいとされた。
学術面では、1988年にで「失せ物の再発見における室内動線の統計的偏り」を報告した。報告では、失くした本人よりも同席していた祖母のほうが高確率で発見することが示され、迅一はこれを「祖母補正」と命名したが、のちに検証可能性をめぐって議論を呼んだ[9]。
後世の評価[編集]
迅一の業績は、当初は一風変わった生活随筆として扱われていたが、以降、家庭内情報機器の普及とともに再評価された。特にやの普及によって「そもそも探すべき装置が増えた」ことから、彼の理論が再び現代的意義を持つようになったとされる。
の生活文化史研究では、迅一を「高度経済成長が生んだ、最初の操作喪失詩人」と位置づける見解がある。また、大阪市の家電量販店では、週末の催事で彼の名を冠した「リモコン捜索講座」が開かれ、参加者の約62%が講座後15分以内に紛失物を見つけたと報告されたが、統計の取り方には疑義が残る[10]。
一方で、彼の著作は「家族の誰かが必ず疑われる」ことを前提にしているため、現代の倫理観からはやや古いとの批判もある。ただし、探し物をめぐる家庭内の緊張を、あえて笑いと記述に変換した点は高く評価されている。
系譜・家族[編集]
父・久保田正義はの電気工事職人、母・久保田フミはの仕立屋の娘であったとされる。妻は久保田和子で、迅一の講演活動を最も頻繁に手伝った人物である。和子は自宅で紛失したリモコンを、花瓶の後ろから8回発見した記録を持つ。
子は長男の久保田弘樹、長女の久保田美佐子の2人がいたとされる。弘樹は後にに就き、美佐子はとして働いたが、いずれも父の影響で「物を置く場所の命名」が妙に細かい家庭を築いたという。なお、迅一の甥にあたる人物が神奈川県で「リモコン置き場専科」という小売店を一時期経営していたとの記録があるが、確認できる資料は少ない[11]。
脚注[編集]
[1] 久保田迅一研究会『家庭内探索文化史資料集 第4号』より。 [2] 日本放送協会編『生活情報番組の変遷 1970-2005』、2007年。 [3] 井上明子「下町における音響玩具と少年」『東京民俗』第12巻第3号、pp. 41-53。 [4] 斎藤澄雄『売ることと迷うこと』、1994年、pp. 88-90。 [5] 久保田迅一『無線操作喪失論――家庭内リモコン探索の手引』、1984年、pp. 15-29。 [6] 「池袋講演会記録」『家電と暮らし』Vol. 8, No. 2, 1984, pp. 11-14。 [7] 和光市文化資料館『平成前夜の市民講話録』、2008年。 [8] 久保田迅一『チャンネル権の民俗学』、1987年、pp. 201-219。 [9] 日本生活文化学会紀要編集委員会「祖母補正の再検討」『日本生活文化学会紀要』第21巻第1号、pp. 2-17。 [10] 量販店催事報告書『操作機器紛失対策セミナー集成』、2012年。 [11] 神奈川商工史編纂室『県内小売業者名鑑・昭和末期版』、未公刊。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 久保田迅一『無線操作喪失論――家庭内リモコン探索の手引』生活文化研究社, 1984, pp. 15-29.
- ^ 久保田迅一『チャンネル権の民俗学』青灯社, 1987, pp. 201-219.
- ^ 斎藤澄雄『売ることと迷うこと』中央経済社, 1994, pp. 88-90.
- ^ 井上明子「下町における音響玩具と少年」『東京民俗』第12巻第3号, pp. 41-53.
- ^ 日本生活文化学会紀要編集委員会「祖母補正の再検討」『日本生活文化学会紀要』第21巻第1号, pp. 2-17.
- ^ F. Nakamura, “Domestic Remote Disappearance and Family Authority,” Journal of Home Device Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 4-18.
- ^ Margaret L. Hargrove, “The Sociology of Lost Objects in Postwar Japan,” Asian Material Culture Review, Vol. 3, No. 4, pp. 77-96.
- ^ 久保田和子「夫の探索行動と夕食の遅延」『生活と家族』第9巻第2号, pp. 55-63.
- ^ 高田和彦『家電と下町の戦後史』河出書房新社, 2001, pp. 141-149.
- ^ 『操作機器紛失対策セミナー集成』量販店催事研究所, 2012, pp. 9-21.
外部リンク
- 家庭内探索文化研究所
- 昭和家電アーカイブ
- 下町生活技術館
- 日本リモコン史協会
- 操作喪失データベース