フットボールアワー
| 名称 | フットボールアワー |
|---|---|
| 別名 | 前半60分話法 |
| 発祥 | 大阪府吹田市の臨時スタジオ |
| 成立年代 | 1997年頃 |
| 主な提唱者 | 田中一雄、北川誠二 |
| 適用分野 | 放送、即興演芸、競技前予告 |
| 特徴 | 試合前の緊張を笑いへ変換する構成 |
| 派生 | 逆フットボールアワー、深夜延長アワー |
| 影響 | 関西ローカル番組編成に大きな影響 |
フットボールアワーは、関西圏の放送局で生まれたとされる、サッカーの試合開始前60分間にのみ許可された即興話法の総称である。のちにの演目形式へ転用され、現在では漫才との境界を曖昧にした現象として知られている[1]。
概要[編集]
フットボールアワーは、もともと大阪府吹田市のラジオ局で、中継の直前60分に設けられた特別枠を指す言葉であったとされる。この時間帯は、試合の見どころを説明するだけでなく、実況者が選手名を使って即興の掛け合いを行うことが奨励され、やがて独立した芸能形式として定着した。
もっとも、現在ではの漫才コンビ名として知られることのほうが多いが、放送史の研究者の間では「コンビ名が先か、用語が先か」で長く議論が続いている。関係資料の多くが1998年から2001年にかけて作成されたもので、初期の一次資料にはなぜかスコアボードの落書きが多いことが指摘されている[2]。
成立史[編集]
臨時編成からの誕生[編集]
フットボールアワーの原型は、のにおける編成事故の収拾策として始まったとされる。当時、予定されていた番組が機材故障で開始できず、制作局は急遽「サッカーの前に話すしかない60分」を設け、これが好評だったため恒常化したという。
初代の進行役は、スポーツ中継経験のあるアナウンサーと、構成作家のであった。両名は当初、選手交代や戦術の説明を行っていたが、やがて「オフサイドを説明するために例え話が長くなる」ことが受け、視聴率が深夜帯としては異例の11.8%を記録したとされる。
演芸化と名称の固定[編集]
には、の小劇場でこの形式を模した公開収録が行われ、そこに出演していた若手芸人が「フットボールアワー」という語を舞台上で反復使用したことで、用語が固定したとされる。以後、この言葉は「試合前の空白時間を笑いで埋める技法」を意味する業界用語として広まった。
また、当時の収録メモには「前半45分、後半15分、合計60分のうち笑いが占める割合を48%以上に保つこと」と記されていたとされ、局内ではこれを「48ルール」と呼んだらしい。なお、この数字の出典は一部の関係者の回想録にしか見当たらず、要出典とされることが多い。
特徴[編集]
フットボールアワーの最大の特徴は、試合の情報を伝えるふりをしながら、実際には話芸の速度と間の取り方を競う点にある。特に、選手の背番号、天候、スタジアムの座席番号までを即興で笑いに変換する「3段変換法」が有名である。
また、放送局ごとに細部の作法が異なり、関西ではテンポ重視、では資料の正確さ重視、九州では解説中に差し入れの話が長くなる傾向があるとされる。制作現場では、原稿用紙の右上に「延長可」「PK戦注意」「実況者の喉が5分で枯れる」などの記号を書き込む習慣があったという。
なお、1999年の局内調査では、フットボールアワー視聴者の37%が「サッカーよりも前口上が好き」と回答したとされるが、調査票の設問が「どちらが前ですか」と極端に曖昧であったため、統計の扱いには慎重論もある。
社会的影響[編集]
この形式は、大阪の商店街文化と相性が良く、試合開始前に客席や飲食店へ人を呼び込む効果があったとされる。とくに周辺では、フットボールアワー放送日にたこ焼きの売上が平均17%上昇したという記録が残る。
教育面でも影響は大きく、の放送演習では「60分の中で笑いを3回以上成立させること」が課題に採用された。これにより、関西圏の若手アナウンサーや構成作家の間で、スポーツとバラエティを往復する技術が標準化されたといわれる。
一方で、試合そのものより前説が目立ちすぎるとして、サポーター団体から「本末転倒ではないか」との批判もあった。もっとも、実際には前説の最中に歓声の音量が上がるため、スタジアムの一体感を生んだという評価もあり、賛否は分かれている。
批判と論争[編集]
フットボールアワーをめぐる最大の論争は、そもそもそれがなのかなのか、それともの名称なのかという点にある。学会では「前半制」「前説制」「笑球時間制」の三説が争われたが、いずれも決定的な証拠に欠けるとされた。
また、に兵庫県内の研究会で発表された論文では、フットボールアワーの普及が「実況者の持ちネタ過多」を招いたと指摘されている。これに対し現場側は「過多ではなく、1試合に最低4本のネタが必要である」と反論したが、この数字にも統計的根拠は示されなかった。
さらに、初期資料の一部に、存在しないはずの「フットボールアワー省」なる名称が印字されていることが判明し、後年の編集者の間で大きな話題となった。これについては、局内の部署名を誤読したものとする説と、当時本当に省庁的な会議体が存在したとする説があり、なお決着していない。
派生文化[編集]
フットボールアワーからは、いくつかの派生形式が生まれた。代表的なものに、試合終了後の余韻だけを扱う、試合のない日に反省会だけを行う、実況席で漫才だけを続けるなどがある。
このうち逆フットボールアワーは、京都市の短期イベントで実演された際、試合映像を一切流さずに解説だけを行ったため、来場者の半数が「競技の幻を見た」と証言したという。こうした逸話は多いが、研究者の間では「面白すぎる記録はむしろ疑うべきだ」とも言われている。
なお、2011年のイベント告知では、英語表記が誤って「Foot Ball Our」と印字されていたが、そのまま限定グッズの題字として採用され、現在では初期マーチャンダイズの珍品としてコレクター市場に流通している。
脚注[編集]
脚注
- ^ 田中一雄『前半60分の笑学――関西ローカル放送における即興構成の成立』関西放送文化研究所, 2004, pp. 41-68.
- ^ 北川誠二『実況と漫才のあいだ』吉備社, 2002, Vol. 12, No. 3, pp. 15-29.
- ^ 松浦久美子「フットボールアワーの編成史」『放送芸術学紀要』第8巻第2号, 2007, pp. 103-121.
- ^ Richard N. Holloway, "Temporal Humor Blocks in Live Sports Broadcasting," Journal of Media Rituals, Vol. 19, No. 1, 2010, pp. 4-22.
- ^ 大塚良平『関西における前説の社会学』風媒社, 2011, pp. 77-95.
- ^ Margaret A. Thornton, "Audience Retention During Pre-Kickoff Comedy Segments," Broadcasting Studies Quarterly, Vol. 27, No. 4, 2014, pp. 201-219.
- ^ 井上真一「笑球時間制の提案とその誤読」『地域放送評論』第15巻第1号, 2016, pp. 56-73.
- ^ Elena S. Varga, "From Halftime to Hourtime: A History of Football Hour Formats," European Journal of Performance Media, Vol. 9, No. 2, 2018, pp. 88-107.
- ^ 関西放送史編集委員会『大阪ローカル番組表史料集 1995-2005』中央史料出版, 2020, pp. 233-240.
- ^ 高橋源蔵『Foot Ball Ourの謎――誤植が生んだ限定文化』北海文庫, 2022, pp. 9-31.
外部リンク
- 関西放送文化資料館
- 日本即興演芸学会
- 放送前説史研究室
- 大阪ローカル番組アーカイブ
- 笑球時間制保存会