俺は好きだな、ミクのそーゆーとこ(嘘みたいに高い声)
| 名称 | 俺は好きだな、ミクのそーゆーとこ(嘘みたいに高い声) |
|---|---|
| 別名 | そーゆーとこ高声、ミク超高域型 |
| 成立 | 2008年頃 |
| 発祥地 | 北海道札幌市・東京秋葉原の通信同人圏 |
| 分類 | 仮想歌唱 / 感情強調ボーカル |
| 特徴 | 不自然な高域、語尾の跳ね上がり、笑い声に近い倍音 |
| 代表的装置 | 共鳴管改造マイク、M-7Kピッチ補正箱 |
| 関連人物 | 木下倫太郎、朝倉ミサ、HATSUNEプロジェクト室 |
| 影響 | 二次創作歌唱、コール文化、配信実況の定型句化 |
俺は好きだな、ミクのそーゆーとこ(嘘みたいに高い声)は、2008年ごろに札幌市の同人音響界隈で成立したとされる、極端に高域へ寄せたの呼称である。特定の初音ミク像を模した声質分類の一つとして広く知られている[1]。
概要[編集]
俺は好きだな、ミクのそーゆーとこ(嘘みたいに高い声)は、初音ミクの声をさらに高域へ持ち上げ、感情の輪郭を誇張することを目的とした音声様式である。一般には「かわいさ」を超えて、ほとんど警報音に近い明度を持つ歌唱として認識されている[2]。
この様式は、単なるではなく、東京と北海道を結ぶ個人制作ネットワークの中で、メッセージ性の強いフレーズを「好きだな」と受け止めるための儀礼的表現として発達したとされる。なお、の「平成21年度音声表現実態調査」に断片的な記述があるとされるが、原資料の所在は確認されていない[3]。
成立と命名[編集]
命名の由来は、末にのネット喫茶「ノイズ文庫」で行われた深夜試聴会にさかのぼるとされる。参加者の一人であった木下倫太郎は、通常のミク声源を3.8半音引き上げた試作音源を聴き、「俺は好きだな、ミクのそーゆーとこ」と発言したとされ、この発言がそのままジャンル名に転化した[4]。
当初は内輪の冗談であったが、2008年春に秋葉原の同人サークル「K-Loop/48」が配布したCD-R『声の標高差』に収録されたことで、半ば固定化した。配布数は472枚とされるが、翌週には中古ショップで1,300円前後の相場がついたため、発言ごと売買対象になった最初期の事例として知られている[5]。
技術的特徴[編集]
高域化の手法[編集]
この様式の中核は、ボーカルの基音そのものよりも、1.2〜2.4kHz帯の倍音を意図的に強調する点にある。制作現場では社製の互換機を改造した「M-7Kピッチ補正箱」が用いられ、通常は警告音の再生に使われる圧電素子を歌唱補助へ転用した[6]。
感情表現との関係[編集]
音楽理論上は単なる高音化ではなく、文末の「とこ」を上擦らせることで、聴き手に安心と不安を同時に与える設計であるとされる。朝倉ミサによれば、聴取者の心拍数は平均で毎分6.4上昇し、笑いと涙の両反応が同時に出る割合が41%増加したというが、被験者数が17名にすぎないため要出典とされる。
流行の拡大[編集]
以降、この声質は動画共有サイトを通じて「嘘みたいに高い声」として再解釈され、歌唱よりも実況・コール・宣言文の読み上げに応用されるようになった。とくにニコニコ動画系のコメント文化では、声が高いという事実よりも、「その高さを本人が当然視している態度」が愛好された[7]。
渋谷区の配信スタジオでは、配信者がわざと語尾を上げて「そーゆーとこ」を模倣する演出が流行し、2011年にはアナログ録音のカセットテープで逆輸入される現象まで生じた。これにより、本来はデジタル編集の産物であったはずの表現が、なぜか昭和的な喋りの味わいを帯びることとなった。
社会的影響[編集]
この表現は、アイドル応援と議論回避の両方に使える万能句として普及した。ライブ会場では、サビ直前に観客が「俺は好きだな」と小声で唱えると、その後の高音パートで一斉に手を振る慣習が生まれ、時点で東京都内の小規模会場の約28%がこの手順を採用したとされる[8]。
一方で、教育現場にも波及し、の一部では声帯負担を理解させる教材として用いられた。学生が「高い声」を再現しようとして発声不能に陥る事例が年に数件報告されたが、むしろ喉のコンディション管理が厳格になったという肯定的評価もある。
批判と論争[編集]
批判者の間では、この様式は「高音を可愛さの代替物として濫用している」との指摘がある。とくに2014年の地方例会では、音圧ではなく語感だけが独り歩きしているとして、終始「ミクのそーゆーとこ」の再現実験が行われ、会場後方で笑いが止まらなくなったという[9]。
また、原理主義的なファンの一部は、「嘘みたいに高い声」という呼称が本来の敬意を失わせるとして反発した。しかし、反対運動の横断幕が全て異様に高いフォントサイズで印刷されたため、かえってジャンルの正統性を補強したと評されている。
後継表現[編集]
以降は、AI歌声合成の普及により、より高域で平坦な「ミク風」音源が多数生まれたが、元祖とされる本表現には、どこか人間の照れが残る点が特徴とされる。木下倫太郎は晩年のインタビューで、「あれは声を高くしたかったんじゃない。好きと言うしかなかった」と述べたとされるが、掲載誌が地域情報誌であったため真偽は定かでない[10]。
現在では、札幌市の一部ライブハウスで「そーゆーとこ夜」と呼ばれる定例イベントが開催され、参加者は歌唱よりも“どの瞬間に好きになるか”を競う。優勝者には、実際には鳴らない金属製マイクカバーが授与されるのが通例である。
脚注[編集]
脚注
- ^ 木下倫太郎『声の標高差とその周辺』ノイズ文庫出版部, 2009.
- ^ 朝倉ミサ「高域化ボーカルにおける安心感の過剰生成」『音声表現研究』Vol.12, 第3号, pp. 44-63, 2011.
- ^ 佐伯浩一『仮想歌唱史序説』北海道音響文化研究所, 2010.
- ^ Margaret A. Thornton, "Hyper-Register Vocality and Fan Affect", Journal of Media Acoustics, Vol. 8, No. 2, pp. 115-129, 2012.
- ^ 渡辺精一郎「秋葉原同人圏における語尾上昇の伝播」『日本民間音響学会誌』第19巻第1号, pp. 7-22, 2013.
- ^ Ryo Hasegawa, "The Unbelievably High Voice: A Semiotic Study", Tokyo Review of Sound Culture, Vol. 4, No. 1, pp. 1-19, 2014.
- ^ 高橋みゆき『ミク声源の都市伝説的受容』青陽社, 2015.
- ^ 文化庁音声文化室編『平成21年度音声表現実態調査報告書』文化庁, 2010.
- ^ Daniel F. Mercer, "When Pitch Becomes Persona", International Journal of Vocal Folklore, Vol. 6, No. 4, pp. 201-218, 2016.
- ^ 『そーゆーとこ学会報』第2巻第7号, pp. 3-9, 2018.
外部リンク
- 北海道仮想歌唱アーカイブ
- 秋葉原音声表現資料室
- そーゆーとこ研究会
- 日本高域文化年報
- ミク声質分類データベース