carrelbites
| 名称 | carrelbites |
|---|---|
| 読み | きゃらるばいつ |
| 発祥 | 1894年頃、ケンブリッジ |
| 主原料 | 麦芽糖、乾燥パン粉、塩漬けバター、茶葉粉末 |
| 用途 | 閲覧室での無音摂食、長時間学習の補助 |
| 分類 | 学術食・静音嗜好品 |
| 提唱者 | エドワード・H・マルサム |
| 普及地域 | 英国、北米の大学町、明治期日本の旧制高等学校 |
carrelbites(きゃらるばいつ)は、英国の文化とが交差して生まれた、極小の保存食および静音習慣の総称である。19世紀末にの閲覧室で体系化されたとされ、のちに学術都市の夜食として定着した[1]。
概要[編集]
carrelbitesは、や閲覧席のような静寂空間で、音を立てずに摂取することを前提に設計された小型の食品群、およびその摂取作法を指す語である。名称は(閲覧仕切り)とを合わせたもので、当初は1口未満の菓子片を意味したが、やがて「食べる姿勢」そのものを含む概念へ拡張された[2]。
一般にはので成立したとされるが、近年の研究では、同時期にやロンドンの私設学術クラブでも類似の試みが確認されている。特にの夜間延長に伴い、紙面を汚さず、かつ眠気を抑える手段として歓迎された一方、粉の飛散や包み紙の音をめぐる規範が細かく整備された[3]。
歴史[編集]
起源と命名[編集]
もっとも広く流布している説では、冬、ので補助司書を務めていたエドワード・H・マルサムが、夜間閲覧者の低血糖対策として、乾燥したパンくずと麦芽糖を圧縮した小片を試作したことに始まる。彼はこれを「carrel biscuits」と呼んだが、書き言葉では綴りが崩れ、配布名簿において carrelbites と記されたのが定着の契機であるとされる[4]。
この誤記が拡散した背景には、当時のでの急ぎ書きと、閲覧室内での発話制限があった。利用者は互いに口頭で確認できないため、綴りの違いが半ば規格として固定化し、1897年にはの内部通達でも同表記が採用された。なお、通達の草稿には「名称により沈黙が保たれるならば、誤記もまた秩序である」との一文があり、これはしばしば引用される[要出典]。
制度化と拡張[編集]
には、の前身団体が「閲覧席内携行食の標準規格」を制定し、carrelbites は直径以下、崩落率未満、咀嚼音以下を理想とする食品として規定された。これにより、単なる菓子から、静音性を評価指標に含む独自の食文化へと変化した。
第一次世界大戦期には保存性の高さから野営図書班に流用され、フランス北部の後方書庫で特に用いられたという。戦時下では茶葉粉末を増量した「濃茶型」が好まれ、これが後の日本への伝播に影響したと考えられている。1919年、東京帝国大学のある助教授が持ち帰った試料をもとに、旧制高校寄宿舎で再現が試みられた記録が残る[5]。
大衆化と変質[編集]
以降、carrelbites は大学町の喫茶文化と結びつき、の周辺で「図書館帰りの菓子」として再包装されるようになった。ここで重要なのは、元来の静音性よりも「勉強した気分になれる小ささ」が売り文句に置き換えられた点である。
1968年にはロンドンの学生運動の影響で、carrelbites を配った後に沈黙を守ることを「サイレント・シェア」と呼ぶ慣習が生まれた。これが過度に儀礼化し、分配前に2回手を叩く、紅茶を90秒だけ冷ます、食後に3分間だけ目を閉じるといった奇妙な作法を派生させた。各大学が独自に改変した結果、今日では同じ語でも実質がかなり異なる[6]。
製法と規格[編集]
標準的なcarrelbitesは、小麦粉、麦芽糖、焦がしバター、粗塩、乾燥茶葉の粉末を、低温で長時間圧縮して作られる。焼成後に一度だけ由来の木片箱で熟成させるのが伝統とされ、これによって「紙の匂いに干渉しない香り」が得られるという。
製造規格は驚くほど細かく、例えば厚み、角の丸み半径、割断時の飛散粒子数が目安とされる。英国の一部の老舗業者では、試食担当者が資格を持つことが条件となっており、誤って硬すぎる個体を出すと「本棚への敵対行為」として返品される。もっとも、この基準の多くはの業界紙にのみ現れ、実際の運用はかなりゆるかったとみられている。
社会的影響[編集]
carrelbites が最も強い影響を与えたのは、食文化そのものではなく、静寂に対する価値観である。これ以前、図書館は単に「話してはいけない場所」であったが、carrelbites の普及後は「音を出さないために何を食べるか」が議論されるようになり、の一分野として扱われた。
また、大学都市では夜更かし学生向けの軽食として定着し、やでは深夜2時から4時にかけての売上が全体のを占めた年もある。さらに、1984年のラジオ番組で「最も英国的な間食」として紹介されたことで、観光客が土産として大量購入する現象も起きた。もっとも、持ち帰った観光客の多くは自宅で食べると音が大きいと感じ、結局クッキーとして再評価したという[7]。
批判と論争[編集]
carrelbites には、初期から「沈黙を消費する商品である」との批判がある。とりわけのの学生誌は、carrelbites を「学問の姿勢を焼き固めたもの」と評し、階級的な静粛規範を正当化すると論じた。
一方で、保存のしやすさや配布の公平性から、寄宿舎や病院の待合室で重宝されたのも事実である。なお、1991年にが採択したとされる「静音食品ガイドライン」には、carrelbites の具体名が9回登場するが、その文書自体が後年まで所在不明であったため、複写の真偽をめぐって小規模な論争が続いた。結局、2012年にアムステルダムの古書市場で発見されたとされるが、紙の余白にある落書きの方が本体より整っていたため、別の編集物ではないかとの指摘もある[8]。
地域的変種[編集]
英国型[編集]
英国型は最も保守的で、塩味が強く、包み紙の開封音がを超えないよう設計される。特にでは、バターを使う量よりも「本を傷つけない角の処理」が重視され、角が鈍すぎるものは「哲学向け」、鋭すぎるものは「数学向け」と分類される慣習があった。
米国型[編集]
米国型は甘味が強く、チョコレート片やコーヒー粉が加えられることが多い。やでは、授業間に1分で食べ切れるようサイズが拡大し、結果として本来の静音性がやや失われた。そのため、現地では「bites」より「nibbles」に近いと揶揄されることもある。
日本型[編集]
日本型はの寄宿舎文化と結びつき、茶葉粉末を強めにした「抹茶車列」と呼ばれる変種が生まれた。昭和初期にはの洋菓子店が商品化を試みたが、包装を開ける音が高すぎるとして、店内では購入できても校内では配布禁止となった。ここで初めて「食べることより、持っていることが難しい菓子」と評されたという。
脚注[編集]
carrelbites の初期資料は散逸が多く、一次史料の半数以上が校正刷りであるため、成立年は資料ごとに揺れがある[1]。
また、側の台帳には製法ではなく利用者の出身学部ばかりが記されており、食文化史としてはきわめて珍しい記録形式である。
関連項目[編集]
脚注
- ^ Edward H. Malsam『On Silent Confections in Reading Rooms』Cambridge University Press, 1898, pp. 41-67.
- ^ Margaret L. Fenwick "The Carrelbite Tradition and Academic Appetite" Journal of British Foodways, Vol. 12, No. 3, 1976, pp. 201-229.
- ^ 渡辺精一郎『静寂食の受容と旧制高等学校』東洋学芸社, 1932, pp. 88-114.
- ^ Arthur J. Pembroke "Crumbs, Quiet, and the Modern Library" Transactions of the Royal Society of Culinary Studies, Vol. 8, No. 1, 1905, pp. 5-19.
- ^ 石橋久美子『大学町における夜食流通史』弘文堂, 1964, pp. 143-176.
- ^ Helen R. Sayer "A Note on Carrelbites Packaging Noise" Proceedings of the British Acoustical Guild, Vol. 4, No. 2, 1931, pp. 77-81.
- ^ 島田雄介『抹茶車列の民俗学的研究』昭和出版, 1987, pp. 22-59.
- ^ International Federation of Library Associations『Guidelines for Silent Snacks』Geneva Papers, Vol. 19, No. 4, 1991, pp. 1-34.
- ^ Charles V. Huxley『The Grammar of Nibbling』Oxford Monographs in Social Etiquette, 2008, pp. 9-28.
- ^ Sophie A. Kettering "When Bites Become Ritual" Food, Society & Memory, Vol. 21, No. 6, 2016, pp. 310-339.
- ^ 三浦和彦『図書館と菓子の近代史』青林書院, 2010, pp. 201-245.
外部リンク
- ケンブリッジ学術食アーカイブ
- 英国静音菓子協会
- 大学町食文化資料室
- 国際閲覧作法研究ネットワーク
- 抹茶車列保存会