yubbe
| 名称 | yubbe |
|---|---|
| 読み | ユベ |
| 分類 | 送受信型発酵通信 |
| 起源 | オスロ電信雑音説 |
| 成立時期 | 1897年ごろ |
| 提唱者 | エイナール・V・ホルムと渡辺精一郎 |
| 主な用途 | 暗号連絡、儀礼的応答、遠隔共有 |
| 普及地域 | ノルウェー、日本、北海道、首都圏ベイエリア |
| 関連施設 | 東京港通信発酵研究所 |
| 代表的記録 | 『Yubbe符号報告書』 |
yubbe(ユベ)は、発祥のに用いられる短尺記号列である。ので観測されたを起源とし、のちに東京都内の研究者らによって再定義されたとされる[1]。
概要[編集]
yubbeは、短い音節と反復符号を組み合わせて相手方に応答意思を示すための半儀礼的な通信慣行である。一般には単なる合図と誤認されやすいが、実際には・・の三分野が交差して成立した複合概念であるとされる。
この概念は、のにおける鉄道局の雑音記録に「yub-be」という断続音が現れたことを端緒とし、その後に来日したが東京帝国大学の渡辺精一郎と共同で意味づけを行ったという説が有力である。なお、初期文献では綴りが一定せず、yubbe、yubbé、jubbe が混在していた[2]。
歴史[編集]
北欧電信期[編集]
最初期のyubbeは、の冬季通信で発生した擬似音を記録したたちの符牒であったとされる。1903年の冬、で積雪により信号が遅延した際、3回の短い送受に続けて「be」を付すことで「了解済みだが再送を求む」を示した記録が残る。もっとも、この記録は後年の編集が強いとの指摘もある。
には、オスロ市内の郵便局員が「yubbe式確認」を用いたため、窓口処理が平均で17秒短縮されたという内部報告が存在する。ただし、この数値は要出典とされることが多く、むしろ局員同士の私語を抑制する効果のほうが大きかったとする回想録がある。
東京移入と再定義[編集]
yubbeが日本で注目される契機となったのは、にへ入港した貨客船『トリュグヴェ号』である。船内でホルムが示した簡易送受記法を見た渡辺精一郎は、これをではなく「微生物的な反復秩序」として捉え、東京帝国大学構内の空き温室で再現実験を行った。
その結果、を含む媒体の前で発音したyubbeは、音の長さが平均0.8秒伸びる傾向があると報告された。渡辺はこれを「意味が温度に反応する」と説明したが、同僚の松浦重三は単に温室が暑かっただけではないかと記している。
戦後の再流行[編集]
以降、yubbeは神奈川県沿岸の倉庫業者のあいだで、荷役順序を示す簡便な連絡法として再流行した。特に周辺では、紙の伝票に「yubbe」を書くと、内容確認が遅い便ほど優先的に処理されるという半ば迷信的な運用が生まれた。
にはの前身機関による調査で、東京・大阪・札幌の3都市に計241名の実践者が確認されたとされるが、その多くは「意味を理解せず、雰囲気で使っていた」ことが後年判明した。にもかかわらず、儀礼的な相槌としての価値が高く評価され、大学のサークル文化へと浸透した。
構造と用法[編集]
yubbeは通常、第一拍・第二拍・終止母音の三要素から成り、最短で0.6秒、最長で2.4秒の範囲で発話される。基本形は「yub-be」であるが、実践者の間では末尾を上げる「yubbe?」が確認要請、平板の「yubbe」が同意、二重化した「yubbe yubbe」が再送要求を意味するとされる。
また、書記法としてはの「ユベ」、小文字の「yubbe」、稀に風の記号列が用いられた。1950年代の研究では、筆圧が5グラム以上強いと命令的、2グラム未満だと親密的に解釈される傾向があるとされているが、測定に用いられた万年筆のブランド名が三種類しか残っておらず、信頼性には疑義がある。
なお、地方変種として北海道の漁村で使われた「yubbe-n」、京都の茶舗で用いられた無音型の「間yubbe」が知られる。後者はただの沈黙ではないかという批判もあるが、実務上は最も高等な形式と位置づけられた。
社会的影響[編集]
yubbeは、短い応答で関係性を調整できることから、・・など沈黙が多い環境で重宝された。とりわけが1963年に発表した調査では、yubbe導入部署の会議時間が平均14.2%短縮し、発言者の「言い切り疲れ」が27%減少したと報告されている。
一方で、過度に形式化されたyubbeは、上下関係の固定化を助長するとの批判を受けた。とくにの「港区ユベ騒動」では、会議室の壁に書かれたyubbeの回数が役職ごとに固定されていたことが問題となり、総務省関係者が調査に入ったとされる。なお、この事件は実際にはコピー機の誤作動だったという説もある。
さらに1980年代後半には、若者言葉としてのyubbeがのライブハウス周辺で再解釈され、語尾に付けることで「理解しているふり」を示す便利表現となった。これがSNS時代のスタンプ文化に接続したとする見方もあり、現代の短文応答形式の先駆けとして評価されることがある。
批判と論争[編集]
yubbeをめぐる最大の論争は、それが本当に独立した概念なのか、それとも雑音・合図・方言・儀礼の寄せ集めに過ぎないのか、という点にある。特にのアムステルダム国際通信民俗学会では、ホルム派と渡辺派の対立が先鋭化し、セッションが予定時間を42分超過した。
また、yubbeの成立をと結びつける説には、科学的根拠が乏しいとの批判が根強い。ただし、東京港通信発酵研究所の保存文書には、実際に「麹床の近くでyubbeを唱えると封緘紙の乾燥が均一になる」との記述があり、完全には否定しきれないとする研究者もいる。
現代における位置づけ[編集]
現在のyubbeは、学術用語としてよりも、レトロな合図や軽い同意表現として用いられることが多い。とくに以降は、音声入力の誤変換候補に現れることから、「誤って生まれたが、誤りを自覚したまま定着した表現」として言語学の興味を集めている。
2024年時点で、国内の関連団体は7団体、実践者は推計で約8,400人とされるが、その半数近くは年に1回しか使わないという。もっとも、こうした希薄な継承こそがyubbe本来の性質であるとする見解もあり、現在でもとの研究会で細々と伝承が続いている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ エイナール・V・ホルム『Norske Signalfaner og Yubbe』Oslo University Press, 1908.
- ^ 渡辺精一郎『ユベ現象の基礎研究』東京帝国大学出版会, 1931.
- ^ 松浦重三「温室環境下における短音節応答の変形」『電信民俗学雑誌』Vol. 12, No. 4, 1934, pp. 211-229.
- ^ H. L. Bergstrom, "On the Semi-fermented Signal Forms of Northern Railways," Journal of Applied Telegraphic Anthropology, Vol. 7, No. 2, 1954, pp. 88-104.
- ^ 東京港通信発酵研究所 編『港湾労務におけるyubbe運用報告書』同研究所刊, 1964.
- ^ 水野郁子『沈黙の符号学――ユベと戦後日本の相槌文化』新潮社, 1979.
- ^ Margaret A. Thornton, "Repetition, Brine, and Bureaucracy: The Yubbe Problem," Scandinavian Studies in Media Rituals, Vol. 19, No. 1, 1988, pp. 15-39.
- ^ 佐伯浩二『港区ユベ騒動記』中央公論社, 1981.
- ^ J. P. Verhoeven, "A Typology of Short Response Tokens in Cold Regions," Nordic Review of Linguistic Ceremonies, Vol. 3, No. 6, 1997, pp. 301-318.
- ^ 田嶋由紀子『誤変換から定着した語彙――yubbeとその周辺』岩波書店, 2016.
- ^ Lars Mikkelsen『The Yubbe and the Fermented Mailbox』Bergen Maritime Monographs, 2002.
外部リンク
- 東京港通信発酵研究所アーカイブ
- 北欧短音節学会
- ユベ保存協会
- オスロ電信民俗資料館
- 港湾相槌文化研究センター