ちょっとお時間大丈夫でしょうかる
| 読み | ちょっとおじかんだいじょうぶでしょうかる |
|---|---|
| 発生国 | 日本 |
| 発生年 | 1987年 |
| 創始者 | 北見房夫 |
| 競技形式 | 対話型接触競技 |
| 主要技術 | 間合い取り、許可待ち、返答フェイント |
| オリンピック | 非正式競技 |
ちょっとお時間大丈夫でしょうかる(ちょっとおじかんだいじょうぶでしょうかる、英: Chotto O-Jikan Daijoubu Deshoukaru)は、大阪府の商店街文化圏で生まれたのスポーツ競技である[1]。短い前口上と接触許可の応酬を軸に進行し、昭和末期の大阪市で体系化されたとされる[2]。
概要[編集]
ちょっとお時間大丈夫でしょうかるは、選手同士が一定距離を保ちながら、相手に対して「ちょっとお時間大丈夫でしょうかる」と発声し、反応の速さと礼節の維持を競う競技である大阪府大阪市の商店街イベントを起源とし、のちにによって規則化された[1]。
競技の特徴は、接触の強さそのものではなく、接触の前段階にあたる承諾取得の精度にある。相手が「大丈夫です」と答えるまでの待機時間、返答の語尾の揺れ、視線の逸らし方が採点対象となり、熟練者ほど沈黙を長く保つ傾向がある[2]。
一方で、競技名の末尾に残る「る」は、初期の口頭競技記録における聞き取り誤差をそのまま採用したものとされ、現在でも地方大会ではこの語尾を厳格に保持する流派がある。なお、公式記録員の間では、これを「文法的な負荷を伴う異例の固着現象」と呼ぶことがある[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については、に大阪府堺市のアーケード街で行われた回覧板配布の手伝いが有力とされる。北見房夫は、店主に声をかける際の決まり文句として「ちょっとお時間大丈夫でしょうか」と述べたが、録音係が末尾を誤って「る」と記載したことから、後にそのまま競技名として定着したという[4]。
当初は勧誘や訪問販売への対抗訓練として扱われたが、の内輪発表会で「相手の警戒を解きつつ、会話の主導権を奪う技術」として紹介され、競技化が進んだ。初期の試合では、開始前に必ず湯飲み茶碗を二つ並べる慣習があったとされる[5]。
ルール[編集]
試合場[編集]
試合場は縦18メートル、横12メートルの畳敷きまたは木床を用い、中央に「間合い線」と呼ばれる幅3センチの白線が引かれる。両者はこの線を跨がずに攻防を行い、線への接近角度が45度を超えると「過干渉」として減点される規則第4条による[7]。
室内開催が原則であるが、商店街大会ではアーケード下や公民館の玄関ホールが仮設会場として使われる。なお、雨天時は傘の開閉音が心理的圧力を生むため、傘の持ち込みは原則禁止である。
試合時間[編集]
標準試合は3分2ラウンド制で、延長に入った場合のみ「再確認ラウンド」が1分追加される。開始から最初の12秒以内に第一声が出ない場合、審判は「ためらい過多」と判断し、選手に軽い会釈を促すことがある[8]。
試合時間の短さに反して、平均観戦時間は9分を超えるとされる。これは、選手が互いに譲り合うことで進行が遅れるためであり、2019年の名古屋大会では、決勝戦が開始から終了までに27回の「もう一度よろしいでしょうか」を含んだため、観客アンケートで満足度が急上昇した。
勝敗[編集]
勝敗は、相手から正式な許可を引き出し、かつ自分が相手の許可を過剰に待たないことによって決まる。最も高得点となるのは、相手が「大丈夫です」と答えた瞬間に、選手がほぼ同時に「では失礼します」と引く場面である。
ただし、相手の返答が「いや、今ちょっと」だった場合は、攻防が継続し、これを競技用語で「保留相」または「第2の間」と呼ぶ。判定はの三名制で行われ、うち一名が関西弁話者でなければならないという不文律がある[9]。
技術体系[編集]
技術体系は大きく、、の三系統に分かれる。間合い術は足運びで相手の警戒心を測るもので、上級者は三歩目で必ず半拍遅らせる。語尾制御は「でしょうかる」の自然な発音を保つ技能で、幼少期からの反復練習が必要であるとされる。
また、視線礼法は相手の顔を見すぎず、かつ見なさすぎない中庸を守る技術である。特に「一瞬だけ名札を見る」動作は高等技法とされ、関東勢はこれを多用する一方、大阪勢はあえて名札を見ずに会話の勢いで押し切る傾向がある[10]。
上級選手には「恐縮フェイント」と呼ばれる技があり、丁寧な前置きの直後に一拍置いて沈黙し、相手に先に許可を与えた気分を抱かせる。この技は教育現場では問題視されたが、競技界では「最も美しい逆転」として評価が高い。
用具[編集]
公式用具は、競技手帳、名札、白手袋、そして計測用の小型ストップウォッチである。競技手帳には、選手が過去に使った前口上の種類と返答の成功率が記録され、地方大会ではこれを「お伺い帳」と呼ぶこともある。
白手袋は接触の意思がないことを示すために装着されるが、実際には手袋のしわの寄り方で緊張度が判定される。2012年の横浜大会では、ある選手が新品の手袋を使ったため手の角度が読み取れず、審判団が1分15秒にわたって協議したことがある[11]。
なお、試合中の持ち込み物として最も重要なのは飲み物ではなく、相手の都合を尊重するための「帰りやすさメモ」である。これは各選手が帰宅可能時刻を記した小紙片で、観戦者には配布されない。
主な大会[編集]
主な大会としては、、、が挙げられる。なかでも全国選手権は毎年京都府で開催され、準決勝の会場だけ妙に静かであることから、選手の声量が例年より低下する傾向がある。
2018年の第17回大会では、決勝で両者ともに12分間「もちろんです」と返し続け、最終的に観客席から第三者が「お時間、もう大丈夫です」と介入して試合が終了した。この試合は競技史上最長の“相互配慮型引き分け”として語り継がれている[12]。
また、仙台で行われる「北日本静礼祭」は、会場入口で靴を脱ぐ速度まで採点されるため、実技よりも入退場の所作が注目される。大会実行委員会は毎年、参加者215名に対し約430枚の案内文書を発送している。
競技団体[編集]
国内統括団体はで、本部をの旧郵便局庁舎に置く。設立は1991年とされ、現在は地方支部34、登録審判員186名、認定講師52名を抱える[13]。
国際組織としてはがあり、スイスのに事務局を置く。ただし、実際の会議では競技ルールよりも「相手の邪魔をしない会議進行」が重要視され、議長が一度も発言しないまま閉会する年もあるという。
同連盟は2021年に「オリンピック正式競技化の可能性に関する白書」を公表したが、推薦理由の第3項に「競技後に全員が仲直りしやすい」と記載されていたため、各国委員の評価が分かれた。もっとも、競技界ではこの柔らかさこそが本質であると考えられている。
脚注[編集]
[1] 日本スポーツ対話連盟 編『対話型接触競技概論』大阪体育出版社、2002年。 [2] 北見房夫「商店街前口上の競技化について」『関西生活文化研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-61, 1993年。 [3] 佐伯真奈美『語尾の政治学』港湾新書、2011年。 [4] 渡瀬浩二「1980年代大阪における呼びかけ文化の変容」『地方スポーツ史研究』第8巻第1号, pp. 5-19, 2000年。 [5] 大阪市立生活文化研究所『アーケード街と礼節の形成』第2版、1998年。 [6] Kim, H.-J. "Courtesy Contact Games in East Asia" Journal of Comparative Ritual Sports, Vol. 5, No. 2, pp. 101-128, 2001. [7] 日本スポーツ対話連盟『公式競技規則集 2024』p. 17. [8] 田中みどり「試合時間と沈黙圧の相関」『対話競技学会誌』第4巻第2号, pp. 88-96, 2015年. [9] International Federation of Courtesy Contact Sports『Refereeing Manual 2022』pp. 33-39. [10] 山岡徹『視線礼法と間合いの科学』文化技術社、2018年。 [11] Nakamura, S. "Glove Creases as Stress Indicators in Courtesy Sports" Sports Semiotics Review, Vol. 9, No. 1, pp. 12-27, 2014. [12] 近藤由香「相互配慮型引き分けの成立条件」『競技行動学研究』第15巻第4号, pp. 201-220, 2019年。 [13] 日本スポーツ対話連盟『年報2023』pp. 6-9.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 日本スポーツ対話連盟 編『対話型接触競技概論』大阪体育出版社、2002年.
- ^ 北見房夫「商店街前口上の競技化について」『関西生活文化研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-61, 1993年.
- ^ 佐伯真奈美『語尾の政治学』港湾新書、2011年.
- ^ 渡瀬浩二「1980年代大阪における呼びかけ文化の変容」『地方スポーツ史研究』第8巻第1号, pp. 5-19, 2000年.
- ^ 大阪市立生活文化研究所『アーケード街と礼節の形成』第2版、1998年.
- ^ Kim, H.-J. "Courtesy Contact Games in East Asia" Journal of Comparative Ritual Sports, Vol. 5, No. 2, pp. 101-128, 2001.
- ^ 日本スポーツ対話連盟『公式競技規則集 2024』.
- ^ 田中みどり「試合時間と沈黙圧の相関」『対話競技学会誌』第4巻第2号, pp. 88-96, 2015年.
- ^ International Federation of Courtesy Contact Sports『Refereeing Manual 2022』.
- ^ 山岡徹『視線礼法と間合いの科学』文化技術社、2018年.
- ^ Nakamura, S. "Glove Creases as Stress Indicators in Courtesy Sports" Sports Semiotics Review, Vol. 9, No. 1, pp. 12-27, 2014.
- ^ 近藤由香「相互配慮型引き分けの成立条件」『競技行動学研究』第15巻第4号, pp. 201-220, 2019年.
外部リンク
- 日本スポーツ対話連盟公式サイト
- 国際礼節接触協会
- 商店街競技アーカイブス
- 対話競技学会
- 大阪前口上博物館