プロマイマー
| 名称 | プロマイマー |
|---|---|
| 英称 | Promimer |
| 分類 | 時間応答型人工素材 |
| 初出 | 1938年頃 |
| 提唱者 | 渡会 恒一 |
| 主用途 | 包装材、表示材、舞台小道具、教育模型 |
| 主要拠点 | 東京、横浜、神戸 |
| 派生技術 | 遅延発色層、匂い記憶層、可逆艶出し膜 |
プロマイマー(英: Promimer)は、時間の経過に応じて表面の色調、反射率、香り、または手触りが段階的に変化する人工素材群の総称である。もともとは東京都文京区の私設研究会で試作された「予告変性樹脂」を指した語であり、後に包装、舞台美術、教育玩具に広く応用されたとされる[1]。
概要[編集]
プロマイマーは、一定時間の経過または環境条件の変化に反応して、外観や表面特性が意図的に変わる素材の総称である。一般には、紙、、を多層に重ねた構造を持ち、加熱、吸湿、照度変化によって「最初は無地だが、数時間後に模様が浮かぶ」ことから注目された。
この技術は、単なる装飾ではなく、配達時刻や保管状態を可視化する手段として評価された。一方で、見本市で展示された試作品の一部が、湿度の高い会場で予定より18分早く変色し、出展者が説明文を差し替える騒動があったことでも知られている[2]。
歴史[編集]
前史と名称の成立[編集]
プロマイマーの原型は、昭和初期に日本で流通していた湿気変色紙と、欧州の演劇用仮面塗料の折衷から生まれたとされる。提唱者とされる渡会 恒一は、の印刷試験所に勤めていた化学技師で、1938年に「予告する素材」を意味する造語としてプロマイマーを用いたという[3]。
ただし、同時期に大阪府の玩具業者がほぼ同名の「プロミン紙」を使っていた記録もあり、名称の由来については、後年の編集者の間で「偶然の一致ではないか」とする説と、「関東と関西で別個に発明された語が統合された」とする説が併記されている。なお、初期のカタログには、変色の遅延時間を「6分から11時間まで任意調整可」と誇張した記述があり、要出典扱いになっている。
戦後の応用と規格化[編集]
以降、プロマイマーは向けの物資表示や、での輸送確認札に転用され、実用品としての地位を得たとされる。とくに神奈川県内の菓子工場では、箱の内側に仕込んだ薄膜が搬送中に淡い青色へ変わり、温度管理が不十分な商品を一目で判別できるとして重宝された。
にはの下部委員会に相当する非公式会合で、厚さ0.17ミリ以上のものを「重プロマイマー」、0.17ミリ未満を「軽プロマイマー」とする慣用分類が提案された。この分類は実際には統一されなかったが、文具業界では1970年代まで使われ続けたとされる。
舞台・教育分野への拡張[編集]
1960年代後半、新宿の小劇場群がプロマイマーを採用し、幕が上がるまでに絵柄が完成する「遅延開帳幕」が流行した。観客が入場時にはただの灰色の布に見えるが、照明と空調で数分後に海図や星座が浮かび上がる演出は、演劇評論家のにより「素材による時間演出」と評された[4]。
また、の理科教育研究会では、温度で図形が変わる模型教材として採用され、1968年度の都内実験校17校のうち9校で使用された記録がある。もっとも、児童が勝手に息を吹きかけて模様を消そうとしたため、授業が「可逆性の実演」ではなく「ハンカチ遊び」に逸れたとの報告も残る。
製法[編集]
典型的なプロマイマーは、基材層、反応層、遅延層、封止層の四層構造を基本とする。基材には、、あるいはガラス繊維入り紙が用いられ、反応層には微量の、熱可塑性染料、香料カプセルが混ぜ込まれる。
遅延時間は、の試験所で確立した「湿度係数H-24式」により算出されるとされるが、実際には職人の勘で±20分ほどずれることが多かった。特に梅雨時の製造では、箱詰め後に工場内で先に模様が完成してしまい、出荷時点で「完成品なのに途中経過を売っている」状態になることがあった。
なお、1972年の業界誌には「香りが3段階目で必ずカレー臭へ移行する仕様」が紹介されているが、これは学校教材向けの需要を見越した極端な設計であり、後に家庭向け製品では抑制されたという。
用途[編集]
包装・流通[編集]
最も普及した用途は食品包装である。とくに京都市の老舗菓子舗では、箱の蓋が開封後6時間で淡紅色から紫灰色へ変わるプロマイマーを採用し、「本日中にお召し上がりください」を視覚化した。これにより、従来の注意書きよりも廃棄率が11.4%下がったとされる[5]。
一方で、贈答用に用いた場合、受け取った側が「開ける前に変わっているのは失礼ではないか」と感じることがあり、百貨店では一時期、プロマイマー包装を“時間芸術”として別売りする工夫が行われた。
社会的影響[編集]
プロマイマーは、消費者に「時間の可視化」という感覚を与えた点で評価されている。冷蔵庫の中で色が鈍る食品包装や、開封後に香りが弱まる封筒などは、物の劣化を感覚的に捉える文化を育てたともされる。
一方で、色や匂いの変化が「まだ安全」「もう危険」と誤認される例もあり、厚生省の旧通知では、プロマイマー表示のみで賞味判断を行わないよう注意喚起が行われた。もっとも、1984年の地方紙には、主婦がプロマイマーの赤変を「熟成の合図」と勘違いして自家製漬物の棚を増設した、というほほえましい逸話が載っている。
文化的には、変化の途中段階を楽しむ美意識が受け入れられ、「完成品より途中が高い値段で売れる」珍しい商品群を生んだ。これが後のやの先駆けになったと見る研究者もいる。
批判と論争[編集]
批判としては、まず「変化の程度が製造ロットごとに違う」点が挙げられる。とりわけ1965年の横浜製ロットでは、同じ箱なのに左右で別の図柄が現れ、消費者から「半分しか完成していない」と苦情が寄せられた。
また、プロマイマー包装が“見た目で中身を判断させる”ため、内容物の品質より演出が重視されるという問題も指摘された。1970年代にはに相当する業界自主監査会が、過剰な変色広告を「視覚的誇大表示」として注意した記録がある。
さらに、初期製品の一部に微量の香料安定剤として系成分が使われたことから、動物実験との関係を疑う声があったが、後年の調査で「ほぼ伝承上の問題」であったと整理された。ただし、研究者のは「プロマイマー史は実用品の歴史であると同時に、企業が時間を売ろうとした歴史でもある」とまとめている。
脚注[編集]
[1] 渡会 恒一『時間応答素材論序説』東都材料協会、1941年。 [2] 田所 みのる「展示会場湿度と変色速度の相関」『包装工学』Vol. 12, No. 3, 1958, pp. 44-59. [3] 北原 善三『印刷試験所秘録』神田出版、1966年。 [4] 阿部 翠「幕が先に語る」『演劇と表面』第4巻第1号、1970年、pp. 7-18. [5] 牧野 由香「贈答包装における時間表示の実効性」『食品流通学報』Vol. 8, No. 2, 1983, pp. 101-116.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡会 恒一『時間応答素材論序説』東都材料協会, 1941.
- ^ 北原 善三『印刷試験所秘録』神田出版, 1966.
- ^ 田所 みのる「展示会場湿度と変色速度の相関」『包装工学』Vol. 12, No. 3, 1958, pp. 44-59.
- ^ 阿部 翠「幕が先に語る」『演劇と表面』第4巻第1号, 1970, pp. 7-18.
- ^ 牧野 由香「贈答包装における時間表示の実効性」『食品流通学報』Vol. 8, No. 2, 1983, pp. 101-116.
- ^ 高瀬 怜『企業が時間を売るとき』南風館, 1991.
- ^ 井上 俊介「遅延発色層の工業化とその周辺」『材料史研究』第19巻第2号, 1979, pp. 203-221.
- ^ Margaret L. Horne, "Temporal Surfaces in Postwar Japan", Journal of Applied Faux Chemistry, Vol. 6, No. 1, 1994, pp. 1-23.
- ^ S. Watanabe, "Promimer and the Semiotics of Ripening", Packaging Review Quarterly, Vol. 14, No. 4, 2002, pp. 88-97.
- ^ 木下 早苗『プロマイマー包装の文化史』青潮社, 2007.
- ^ Eleanor P. Finch, "Why Did the Box Turn Blue?" Proceedings of the International Society of Mutable Materials, Vol. 3, No. 2, 2011, pp. 55-74.
- ^ 高橋 直人『変わる表面、変わらない中身』白鷺書房, 2018.
外部リンク
- 東都材料史アーカイブ
- 包装文化研究所
- 時間芸術学会
- Mutable Materials Review
- 神田試験所デジタル年表