BOWWOW
| 名称 | BOWWOW |
|---|---|
| 読み | ぼうわう |
| 起源 | 1897年頃のロンドン音響協会 |
| 分類 | 発声記号・音響演出・商標的擬音 |
| 主要拠点 | ロンドン、神戸、東京 |
| 普及期 | 1958年 - 1974年 |
| 関連機関 | 国際擬音標準委員会 |
| 代表的人物 | H. E. Whittaker、三浦文造 |
| 影響分野 | 音楽、広告、児童文化 |
BOWWOW(ぼうわう、英: BOWWOW)は、末のイギリスで考案された、犬の鳴き声を模したおよびの総称である。のちに日本に輸入され、音楽、、広告の各分野にまたがる独特の文化現象として知られるようになった[1]。
概要[編集]
BOWWOWは、犬の鳴き声を人為的に記号化した音響表現であり、当初は犬の識別訓練に用いる補助記号として設計されたとされる。のちにやがこれを転用し、短く鋭い二拍子の掛け声として流通した。
日本では昭和30年代に経由で入った舶来のリーフレットがきっかけとなり、子ども向け雑誌やで広まったとされる。特に「言葉にしにくい勢い」を表す記号として扱われ、擬音でありながら半ばのように機能した点に特徴がある[2]。
起源[編集]
最古の記録は、ロンドンのにあった小規模な私設研究会「」の会報に見える。同会は、都市化によって近隣騒音が増える中で、犬の吠え声を「距離別・感情別に再現する必要がある」と主張していた。
会報第3号には、H. E. Whittakerなる技師が「BOW」「WOW」の二要素を上下2段に組み合わせた図版を掲載し、前者を警戒、後者を親和として定義したとある。もっとも、この区分は後年の編集で付け足された可能性が高いともいわれ、当時の記録には要出典の注記が残っている。
一方で、の音声学講座に残る覚書では、BOWWOWは実際には軍用犬の呼集信号の簡略化であったとする説が有力である。ただし同覚書の末尾には、なぜか「雨天時はアイスクリーム車のベルと混同しやすい」との走り書きがあり、研究者の間で長く議論の的となった。
日本への伝播[編集]
BOWWOWが日本で本格的に確認されるのは、にの貿易商・が持ち帰った印刷見本帳による。見本帳には、の横に「BOWWOW式反復音広告」と記された謎の欄があり、三浦はこれを児童雑誌『』の編集部に持ち込んだ。
編集長のは、これを「大人が真似すると少し恥ずかしいのに、子どもが言うと妙に迫力が出る」と評価し、1959年春号に特集を組んだ。掲載後、関西圏では駄菓子屋が店先でBOWWOWと書かれた紙札を吊るすことが流行し、大阪市内の一部商店街では、売上が平均17.4%増えたとする業界紙の報告がある[3]。
なお、当時のNHK内部資料には、BOWWOWを「放送禁止ではないが、アナウンスが笑ってしまうため要注意」と分類した欄があり、これが後のテレビ番組での採用を遅らせた一因とされる。
年代別の展開[編集]
1950年代 - 童具化[編集]
1950年代後半、BOWWOWはまずの起動音として商品化された。神戸の玩具会社が製造した「BOWWOWダックス」シリーズは、ゼンマイを巻くと短く吠え、次に尻尾が二度だけ振れる仕掛けで知られた。
この玩具は当初、犬を飼えない都市部家庭向けとして売り出されたが、実際には大人の書斎に飾る文鎮としても人気を博した。とりわけ銀座の文具店で、包装紙にBOWWOWのロゴが入ったことから、擬音が「高級そうに見える」初の事例として注目された。
1960年代 - 音楽化[編集]
1960年代に入ると、BOWWOWはと接続し、短いコーラスの掛け声として流行した。には、東京のレーベルが『BOWWOW Beat Session』を発売し、売上は初週で4万2千枚に達したとされる。
ただし、この盤のA面3曲目に収録された「BOWWOWは三回鳴く」は、実際には犬の鳴き声ではなくで構成されており、発売当初は「やや知的すぎる」としてラジオ局で敬遠された。また、当時のスタジオではマイクが吠え声を拾いすぎるため、エンジニアが犬小屋を防音室の外に置くという珍妙な手順が採用されたという。
1970年代 - 広告標語化[編集]
1970年代のBOWWOWは、もはや単なる擬音ではなく、勢い・忠誠心・親しみやすさを一語で表すとして扱われた。系の下請け代理店が制作した自動販売機ポスターでは、缶が飛び出す瞬間にBOWWOWが大書され、屋外掲示からの視認率が平常時比で23%向上したと記録されている。
一方で、の周辺では「意味が曖昧すぎて誤認を招くのではないか」との指摘があり、1973年にはBOWWOWを商品名に含む企画書19件が差し戻されたという。もっとも、差し戻しを受けた案件のうち7件は、むしろそれを宣伝材料にして成功したため、以後BOWWOWは“却下されるほど強い言葉”として語られるようになった。
社会的影響[編集]
BOWWOWの影響は、音声文化に限らず、・・にも及んだ。小学校では低学年向け国語教材の補助記号として採用され、子どもが大きな声を出す練習に使われたほか、商店街のシャッター装飾に用いられるなど、視覚記号としても機能した。
また、1971年に東京都内のデザイン学校で行われた調査では、BOWWOWを見た被験者の68%が「元気」「軽快」「少し古いが嫌いではない」と回答した一方、12%は「犬よりも列車の発車音を連想する」と答えた。これが原因で、地方鉄道の一部路線では駅売店の呼び込み語に採用され、発車ベルの前にBOWWOWを一度だけ発する慣行が生まれたという[4]。
なお、京都の老舗和菓子店がBOWWOWを銘菓名に転用した際、包装の和紙に書かれたローマ字が「洋風すぎる」として地元商工会で議題となったが、最終的には「犬のように親しまれる菓子」という説明で収束した。これは、擬音が地域ブランドにまで昇華した稀な例とされている。
批判と論争[編集]
BOWWOWをめぐっては、意味内容が空洞化しているとの批判が早くから存在した。とくにの朝日新聞夕刊文化欄では、言語学者のが「BOWWOWは音のふりをした記号消費である」と論じ、編集部に多数の投書が寄せられた。
また、の非公開シンポジウムでは、BOWWOWを「犬の声の再現」ではなく「犬に鳴いてほしいという人間側の期待の圧縮」とみなす説が提示され、参加者の間で賛否が割れた。これに対し、三浦文造の遺稿集『犬が先か、記号が先か』では、「期待が先に鳴くこともある」と締めくくられており、学会関係者のあいだで妙に引用されている。
さらに、1980年代には一部の企業がBOWWOWを無断でキャッチコピーに使用したため、が使用許諾料として1語あたり37円を算定した。これが高いのか安いのかで議論が生じ、結果として「擬音の著作権」問題の先駆けとして扱われるようになった。
派生語[編集]
BOWWOWにはいくつかの派生語がある。もっとも知られるのは、語尾を上げて親しみを強めたで、これは店頭呼び込みや子ども向け番組で多用された。
また、逆に低く発音して威圧感を出すは、1980年代のパンク・カルチャーで「無駄に大きい音」を示す俗語として用いられた。ほかに、三重反復したは、イベント会場での集客試験にのみ使われた特殊形で、横浜の倉庫街で行われた夜市では、屋号として採用した屋台が全体の14軒中6軒にのぼった。
一方、とを切り離して別々に使う用法は、意味の独立性が高すぎるとして正式には認められなかった。とはいえ、若年層のあいだでは「BOWは準備、WOWは結果」という半ば哲学的な解釈が流行し、後年の教育番組にも影響を与えた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Whittaker, H. E.『On the Two-Part Bark Notation BOW/WOW』Proceedings of the Royal Canine Phonetics Circle, Vol. 2, No. 1, pp. 14-29, 1898.
- ^ 三浦文造『港町に入った奇妙な擬音』神戸商工文化研究所, 1961.
- ^ 高橋栄子「児童誌における反復音の訴求力」『月刊編集工学』第14巻第3号, pp. 41-55, 1960.
- ^ 石黒俊介『記号としての吠え声』朝日出版, 1979.
- ^ Margaret L. Fenwick, “Commercialization of Animal Sound Tokens in Postwar Japan,” Journal of Urban Semiotics, Vol. 8, No. 4, pp. 201-226, 1976.
- ^ 佐伯康弘「BOWWOW広告の視認率測定について」『日本広告年報』第6巻第2号, pp. 88-97, 1974.
- ^ H. E. Whittaker『The Dog, the Dash, and the Double Vowel』Cambridge Phonetics Monographs, Vol. 1, pp. 3-19, 1901.
- ^ 三浦文造・編『犬が先か、記号が先か』関西音響文化社, 1982.
- ^ L. B. Harrow, “BOWWOW as a Retail Call Sign,” London Review of Applied Linguistics, Vol. 11, No. 2, pp. 77-90, 1980.
- ^ 国際擬音標準委員会編『擬音使用許諾基準 第4版』東京擬音協会出版部, 1983.
外部リンク
- 国際擬音標準委員会アーカイブ
- 神戸港音響文化資料室
- ロンドン犬声史研究会
- 昭和広告史データベース
- 月刊わんぱくデジタル復刻館