Intro* GUNSO WALK
| 名称 | Intro* GUNSO WALK |
|---|---|
| 分類 | 導入儀礼型行進・舞台前口上 |
| 起源 | 1987年ごろ、東京都渋谷区の小劇場界隈 |
| 提唱者 | 高瀬一雄、マーガレット・L・ソーン |
| 主な使用地域 | 関東圏、関西圏の一部、海外の日本文化祭 |
| 代表的動作 | 3拍の静止、左斜め前進、帽子の指差し |
| 象徴色 | オリーブグレーと警告赤 |
| 関連施設 | 旧・青山演芸倶楽部、国立身体技法資料室 |
Intro* GUNSO WALK(イントロ・ガンソー・ウォーク)は、東京都の路上演芸と軍事歩法研究が交差する過程で成立したとされる導入儀礼型の行進様式である。1980年代後半に渋谷区の小劇場と周辺の非公式研究会から広まったとされ、現在では音楽公演、企業研修、地域行事にまで転用されている[1]。
概要[編集]
Intro* GUNSO WALKは、演者が本編に入る前に行う短い導入動作の総称であり、歩法、停止、姿勢、そして口上を一体化した形式として説明されることが多い。名称中の「GUNSO」はを語源とするという説が一般に流布しているが、実際にはの転訛であるとする異説もあり、研究者の間でしばしば論争となっている[2]。
この形式はもともとの開演遅延を埋めるために作られた即興儀礼であったが、のちに広告代理店と地域振興団体に取り込まれ、歩くこと自体が“開始の合図”として再定義された。なお、1989年の世田谷区文化振興報告書には「客席の7割が開始前に拍手を始めた」と記録されているが、同報告書の担当者名が存在しないことから信憑性には疑義がある[3]。
歴史[編集]
発生期[編集]
起源は、渋谷区円山町にあった小劇場「青磁座」の閉館直前公演に求められる。演出補のは、遅刻した観客を舞台に引き込むため、袖から客席通路を三歩だけ歩き、停止して帽子を上げる所作を加えたとされる。これが偶然にも兵隊式の行進に似ていたため、当夜の客が「軍曹みたいだ」と発言し、以後『GUNSO WALK』の仮称が定着した[4]。
翌月には、の学園祭で同様の所作が再演され、観客が演者の前進に合わせてリズムを取る現象が確認された。このとき使用された靴底に滑り止めとして貼られたのゴムが、歩幅を妙に揃えやすくしたとされる。もっとも、この点は後年の回想記にのみ現れ、一次資料では確認できない。
制度化と拡散[編集]
1991年には、の内部会議で、冒頭数十秒の“歩行導入”を照明転換の規格として採用する案が出された。これにより、単なる舞台上の癖であったものが、照明・音響・進行台本を束ねる運用技法へと変質したのである。協会は導入部を「Intro」と表記し、以後、紙面上では必ずアスタリスクを付すよう通達したため、現在の表記が成立した[5]。
には大阪のイベント会社が企業式典に導入し、役員入場の歩数を「9歩固定」としたところ、参加者アンケートで「内容は不明だが威厳がある」との回答が62.4%を占めた。これがきっかけで、京都市の老舗百貨店や名古屋市のローカルテレビ局でも採用され、1990年代後半には“入場前に歩くこと”が一種の品質保証として扱われた。
特徴[編集]
Intro* GUNSO WALKの基本は、開始直前に静止し、視線を観客の右上方へ向け、左足から斜め前に三歩進むことである。この三歩は「予告」「警告」「挨拶」の三段階に対応するとされ、各歩の角度は理論上17度、実践上は13度から21度まで許容される。
また、手ぶりにも細かな規範がある。右手は胸骨上部に添え、左手は空中に半円を描いたのち、最後に帽子またはマイクへ触れることが推奨される。もっとも、地方公演では帽子の代わりに弁当箱の蓋を持ち上げる例もあり、これが「食事開始の祝福」として逆輸入されたことがある。
この形式が奇妙に見えても広く受け入れられたのは、歩行が人間の最も原初的な合図であるという擬似生理学的説明が流布したためである。国立身体技法資料室の1988年資料には、観客の87%が「歩く人は信用しやすい」と答えたというが、調査票の設問がすべて二択であった点はあまり知られていない[7]。
社会的影響[編集]
後半以降、Intro* GUNSO WALKは芸能界のみならず、営業会議、採用面接、町内会の防災訓練にも応用された。特に神奈川県のある製造業では、入社式のたびに新入社員が会場外周を半周歩かされる慣行が生まれ、これを「GUNSO導入」と呼んだという。
一方で、動作が軍隊的であることから、の一部は「権威主義的な身体規範の温存」であるとして批判した。ただし、批判集会の帰り道で参加者が無意識に同じ三歩を踏んでしまい、その様子が写真週刊誌に掲載されたことで、かえって一般認知が拡大したとされる。
2011年の東日本大震災後には、避難所の開設時に混乱を抑えるための“静かな入場手順”として再評価された。防災学の一部では、わずか三歩の反復が心理的落ち着きを与えるとされるが、実際には炊き出し列の先頭を確保するのに便利だっただけではないかとの指摘もある。
批判と論争[編集]
最大の論点は、Intro* GUNSO WALKが芸術なのか、身体操作なのか、あるいは単なる会場整理なのかという分類上の問題である。の研究紀要では「導入儀礼は観客の注意を奪うが、同時に主役を歩かせる」として中間カテゴリを提案したが、分類名が長すぎるため定着しなかった。
また、創始者をめぐっても見解が割れている。高瀬一雄が実質的創案者であるとする説が有力である一方、がロンドン滞在時に理論化したという説も根強い。さらに、1960年代の浅草レビューで既に類似の所作が使われていたとする証言もあるが、当該証言者は「その場にいなかったが確かに見た」と述べており、史料的価値は限定的である。
なお、2018年には商標登録をめぐる係争が発生し、イベント会社三社が「WALK」の使用権を主張した。最終的に和解し、誰でも名乗れるが誰も正確には説明できない、という現在の曖昧な状態が維持されている。
派生形[編集]
学校式[編集]
の文化祭向けに簡略化された派生形で、歩数が二歩に短縮される。入場者は必ず名札を胸の中央ではなく左肩に付けることになっており、これは「重心を左に寄せると照れが減る」という、教育委員会の非公開メモに由来するとされる。
放送式[編集]
の番組開始前に用いられる派生形で、カメラマンが先に歩き、司会者はその後ろを追う。視聴率が0.3ポイント上がることがあると報告されたが、実際には番組内容が始まる前に手元のリモコンを置かせる効果が大きいとみられている。
野外式[編集]
や商店街で行われる形態で、足音を消すために靴底にフェルトを貼る。これにより“軍曹”というより“忍者の点呼”に近くなったが、近隣住民からは「音が小さいのに妙に圧がある」と評された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬一雄『導入歩法の民俗学的再構成』青磁出版, 1996年.
- ^ Margaret L. Thorne, "Prelude Ambulation and Audience Capture," Journal of Applied Performance Studies, Vol. 14, No. 2, pp. 41-68, 2003.
- ^ 日本音響劇場協会編『開演前動作標準化報告書』第8巻第1号, 1991年.
- ^ 渡辺精一郎「都市儀礼としての三歩」『身体文化研究』第22号, pp. 113-129, 1998年.
- ^ C. H. Bellamy, "Military Posture in Civil Entertainment," Theatre and Society Quarterly, Vol. 9, No. 4, pp. 201-219, 2007.
- ^ 『世田谷区文化振興報告書』世田谷区文化課, 1989年.
- ^ 佐々木祐介『歩くために歩く――導入の美学』新潮社, 2012年.
- ^ Aiko Minami, "The Asterisk in Motion: Intro* as Administrative Syntax," Kyoto Review of Semiotics, Vol. 6, No. 1, pp. 9-27, 2010.
- ^ 国立身体技法資料室編『身体所作データブック 1988年度版』, 1988年.
- ^ 小野寺真理『GUNSO WALKと銀草伝説』河出書房, 2009年.
外部リンク
- 国立身体技法資料室アーカイブ
- 青磁座記念事業会
- 日本音響劇場協会
- 渋谷区演芸史研究会
- 歩行儀礼データベース