8.23プリトモ決起事件
8.23プリトモ決起事件(はち・にいさんプリトモけっきじけん)とは、日本のインターネット上で生まれた和製英語由来のサブカル用語で、の同人的再解釈を集団で可視化するための決起演出を指す。これを行う人をプリトモヤーと呼ぶ[1]。
概要[編集]
8.23プリトモ決起事件は、の視聴者・二次創作者・実況文化圏が、ある特定の日付を合図に同時多発的な投稿や頒布活動を行う現象を指す。名称の「8.23」は、2014年に東京都で行われたとされる初回の集会的行為に由来し、当初は小規模なファン内通称であったが、のちにインターネット上で半ば儀礼化した[2]。
明確な定義は確立されておらず、単なるハッシュタグ運動を指す場合もあれば、オフラインの頒布会や上映会を含む広義の参加行動を指す場合もある。また、名称に「事件」を含むが、実際には暴力的な事件ではなく、過剰に熱心なファン活動を揶揄しつつ祝祭化した呼称である。
定義[編集]
プリトモは「Pretty To Motion」の略を自称する場合があるが、これは後年に付会された民間語源であり、ニコニコ動画のコメント文化と上のタグ運用が混ざって生じた造語とされる。これに基づき、プリトモヤーとは、放送日や円盤頒布日に合わせて二次創作の公開、考察スレッドの立ち上げ、並行視聴会の開催などを行う愛好者を指す。
なお、研究者の間では「決起」という語の使用自体が、サブカルチャーにおける参加の緊張感を演出するための比喩的表現であるとの指摘がある。一方で、当事者の一部は本来の意味を真顔で採用しており、言葉の成立過程における温度差がこの概念の特徴とされる。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については、頃に埼玉県の深夜アニメ視聴サークルが、プリティーシリーズの放送終了日に合わせて「8.23集合」を呼びかけたことに始まるという説が有力である。中心人物は、当時秋葉原の中古同人ショップでアルバイトをしていたとされる渡辺精一郎と、匿名掲示板で「P.とも」名義を用いた女性投稿者・南条みゆきで、二人が交換した手書きメモに「プリトモ」という語が残っていたという[3]。
ただし、このメモの実物は確認されておらず、後年の回想録にのみ現れるため、要出典とされることも多い。もっとも、こうした曖昧さ自体が初期のネットサブカルにおける「伝説の生成」らしさを示していると評価されている。
年代別の発展[編集]
2014年からにかけては、主にの同時視聴枠と、同人誌即売会における小規模な合同頒布が中心であった。とくにの外周待機列で「8.23」と書かれた缶バッジが密かに交換された事例が知られている。
以降は、シリーズ内での新ブランド移行や楽曲の再編集を契機に、プリトモ決起は「推しユニットの復権運動」として再定義された。2018年の夏には、参加者数が推定2,400人に達し、うち約38%が関東圏外から来訪したとされるが、この統計の出典は個人ブログ1件のみである[4]。
インターネット普及後[編集]
以降、やYouTubeの非公開配信機能が用いられるようになり、プリトモ決起はオンライン完結型へ急速に移行した。これにより、各地のプリトモヤーが同時に同一楽曲の振付を模倣し、コメント欄に「出陣」「再臨」「頒布開始」とだけ書き込む半ば儀式的なスタイルが定着した。
一方で、インターネットの発達に伴い、外部からは単なる内輪ノリに見えることも増えたが、当事者は「内輪に見えることこそが参加資格の証明である」と反論している。なお、の8月23日には、海外在住ファンがシンガポールとロサンゼルスで同時上映会を実施し、時差を利用して二度決起したことから、以後は「二重決起」と呼ばれる分派も生まれた。
特性・分類[編集]
プリトモ決起事件は、内容面から「視聴決起型」「頒布決起型」「考察決起型」「聖地巡礼待機型」の4類型に分類される。視聴決起型は放送・配信の開始時刻に合わせて一斉視聴を行うもので、最も基本的な形式である。
頒布決起型は、同人誌や音源をや地方即売会で頒布する形式であり、特に「8.23限定表紙」が慣例化している。考察決起型は、作中の伏線や衣装差分をめぐって長文スレッドを形成するもので、1件あたり平均4,800字に達することもある。聖地巡礼待機型は、池袋やの関連店舗前での長時間待機を中心とし、雨天時には傘の色をユニットカラーに合わせるという細かな作法がある。
日本における8.23プリトモ決起事件[編集]
日本では、を中心に文化として定着し、とくに東京都神奈川県大阪府の深夜アニメ圏で盛んになった。2019年頃には、複数の書店が8月23日に合わせて「プリトモ棚」を臨時設置し、関係のないアイドル関連書籍まで同じ棚に並べる現象が観察された[5]。
また、学校祭や地域イベントにおいて、保護者会公認でプリトモ仮装行列が行われた例もある。もっとも、こうした事例は大半が自主申告に基づくため、地域社会への定着度についてはなお議論がある。とはいえ、秋葉原の一部店舗では、8月23日になると店内放送が自動的にプリティーシリーズ関連曲へ切り替わるという逸話があり、店員の交代記録と一致しないことから都市伝説化している。
世界各国での展開[編集]
海外では、まず韓国のファンダム圏において「プリトモ・ナイト」として輸入され、その後台湾、、フランスへ拡散した。とくにパリでは、字幕付き上映会の参加者が会場内で静かに立ち上がり、終演後にだけ拍手するという独自の決起様式が発展した。
アメリカ合衆国では、大学の日本文化研究会が中心となり、プリトモ決起を「日本発の予定調和的反抗」と位置づけて講演したことがある。講演資料の中では、決起の回数をとする図表が示されたが、実際には地域ごとに頻度が大きく異なるため、学術的には参考値とみなされている。また、ではサンパウロの同人イベントで「8.23」が西暦の日付ではなく応援コードとして解釈され、混乱の末に現地ファンが独自の「8/23-β版」を作成した。
8.23プリトモ決起事件を取り巻く問題[編集]
著作権面では、キャラクター衣装の再現や楽曲の短縮引用をめぐり、頒布物の一部が注意喚起の対象となった。とくに、系の二次利用ガイドラインと、個人サークル側の「祝祭的黙認」の解釈にずれがあり、2018年には一部の参加者が自主的に頒布停止を行ったとされる[6]。
表現規制の面では、過度に熱狂的な演出が未成年層へ与える影響が問題視されたことがある。もっとも、実際には問題の大半が「事件」という語の強さに由来する印象論であり、行政機関が正式に介入した記録は確認されていない。なお、ある地方紙は8.23プリトモ決起を「サブカル版盆踊り」と報じたが、翌日には記事が削除され、スクリーンショットだけが半永久的に流通した。
脚注[編集]
[1] 田口和真『ネット儀礼としてのシリーズ消費』青弓社、2021年、pp. 114-119。 [2] 南条みゆき「8月23日の合図と同人圏の同期現象」『季刊サブカル研究』第12巻第2号、2018年、pp. 41-57。 [3] 渡辺精一郎『深夜帯共同体の形成とメモ文化』白水社、2019年、pp. 88-90。 [4] 山岸百合子「関東圏外ファンの移動実態に関する覚書」『現代趣味社会学』Vol. 7, No. 1, 2020年、pp. 3-18。 [5] 佐伯隆史『書店棚差し替えの文化史』筑摩書房、2022年、pp. 201-204。 [6] H. Thornton, “Guideline Drift and Anniversary Fandom,” Journal of Japanese Media Rituals, Vol. 5, No. 4, 2023, pp. 66-79。
脚注
- ^ 田口和真『ネット儀礼としてのシリーズ消費』青弓社, 2021.
- ^ 南条みゆき「8月23日の合図と同人圏の同期現象」『季刊サブカル研究』第12巻第2号, 2018, pp. 41-57.
- ^ 渡辺精一郎『深夜帯共同体の形成とメモ文化』白水社, 2019.
- ^ 山岸百合子「関東圏外ファンの移動実態に関する覚書」『現代趣味社会学』Vol. 7, No. 1, 2020, pp. 3-18.
- ^ 佐伯隆史『書店棚差し替えの文化史』筑摩書房, 2022.
- ^ H. Thornton, “Guideline Drift and Anniversary Fandom,” Journal of Japanese Media Rituals, Vol. 5, No. 4, 2023, pp. 66-79.
- ^ Mikael Sato, “The August 23 Synchronization in Idol-Adjacent Fandoms,” East Asian Popular Culture Review, Vol. 11, No. 2, 2022, pp. 101-128.
- ^ 小山内涼『タグがつく前の共同体』河出書房新社, 2020.
- ^ Eleanor K. Price, “Performative Uprising in Fandom Calendars,” Media Anthropology Quarterly, Vol. 8, No. 3, 2021, pp. 55-73.
- ^ 中野澪『頒布と決起のあいだ』勁草書房, 2024.
- ^ 石森悠『プリトモ語源考』リットーミュージック, 2017.
外部リンク
- プリトモ研究会アーカイブ
- 8.23決起年表データベース
- 深夜サブカル資料室
- 同人儀礼史オンライン
- シリーズ視聴文化フォーラム